第65話 Sランク魔獣【ナイトメア】


~ドレイク視点~


 俺とネルフィーねぇさんは、控室に戻りすぐにフォレノワールへ転移した。

 転移した先にはバルバルさん達がすでに待機していたため、すぐに情報共有を行う。


「戻ったっす! ナイトメアはまだ常闇の森にいるっすか?」


「ありがとうございます! 多分まだ常闇の森だと思いますが、方角的には蒼緑平原、その先のレクリア方面へ向かっていました!」


「どうやって発見したんっすか?」


「本当に偶然でした。私がアンミンダケを採取しに常闇の森へ入ったら、大きな音が聞こえてきまして、音のする方へ行ってみるとナイトメアが木をなぎ倒して進んでいたんです。慌てて帰還転移して、みなさんに念話をした流れになります」


「そうだったんっすね」


「危なかったな。バルバルは戦えないのではなかったのか?」


「そうですね。でも、私も一応獣人ですし行商人ですから、常闇の森のスケルトン程度なら倒せます。

 今までも、どうしても眠れない時に使用するためのアンミンダケは、自分で採取しておりました。

 それに、危なくなったらすぐ帰還すればいいと慢心していたと反省してます……」


「それって結構ガチで危ない状況だった気がするんっすけど……でも、バルバルさんが発見してくれなかったらレクリアや村に被害が出てたっすね!

 ネルフィーねぇさん、ナイトメアの情報って何かないっすか?」


「ナイトメアは闇属性で馬型の魔物だ。発見された数は少ないが、ユニコーンが角を折られた状態で長時間放置されることで変異する魔物と言われている」


「ユニコーンの変異種……厄介っすね。でもまぁ、とりあえず向かうっす!」


 フォレノワールから転移魔法陣で常闇の森に出ると、数分で木々がなぎ倒されている場所を発見した。

 この木が折れている道をレクリアに向かって辿ればそこにナイトメアが居るはずだ。


「ドレイク、見つけたらまず私が矢で麻痺を狙う。ナイトメアの動きが鈍った隙をついて一気に仕留めてくれ!」


「了解っす!」


 そうして走っていると、中型で真っ黒な馬型の魔物を見つけた。

 紫色のたてがみを揺らめかせながら森の木々をなぎ倒し暴れているその姿は、暴走していた時の自分と重なってみえた。


(あいつも苦しんでるのかもしれないな……俺達が止めてやるから)


 ネルフィーねぇさんがポイズンエンチャントを3本の矢にかけ終え、放つ。正確に放たれた矢は、一直線にナイトメアに向かって飛んでいく。

 しかし、ナイトメアも咄嗟に反応し、1本は臀部に突き刺さったものの、残りの2本は後ろ足の蹴り上げで弾かれてしまった。


『ヒヒィィィン!』


 ナイトメアは前足を高く上げ大きな鳴き声を上げると影の中に身体が入っていく。

 俺は追撃のために殴りかかっていったが、すんでのところで影に潜られてしまった。


 そして次の瞬間、突然ネルフィーねぇさんの影からナイトメアの頭が出現した。


「ねぇさん! 後ろっす!」


 俺の声に反応し飛び退いたものの、ねぇさんは魔法のダメージを受けてしまう。


「大丈夫っすか?」


「あぁ。思ったより厄介だな。ここは木が多すぎる。蒼緑平原で戦おう」


「了解っす」


 ネルフィーねぇさんは、ダメージは受けていたもののすぐにポーションで回復しており、戦闘に支障はなさそうだ。


 俺達はナイトメアの魔法攻撃を避けながら蒼緑平原まで走る。

 そして平原へ抜けると振り返り魔法を放った。


「【ウィンドカッター】」


 不意を突いて魔法を発動したのだが、すぐに影に潜られてしまう。

 

 ナイトメアを見失い数秒後、今度は俺の影から現れ近距離から魔法を当てられてしまった。


 クソっ! らちが明かないな……有効打を当てられる策を考えなければ。

 こんな時、兄貴ならどうするのだろう。


 そこからは隙を見つけて攻撃をするが、影に潜る速度が速く、決定的な攻撃はまだ当てられていない。


 ……だが、攻撃のパターンは読めてきた。


「ドレイク、影に潜った後はある程度の大きさがある影からしか出てこられなさそうだ。常闇の森から離れた今なら私かドレイクの影しかない」


「そうっすね。なら次に俺の影から出てきたら任せてください」


 俺がそう言うと、ネルフィーねぇさんは弓を構え、ナイトメアへ向けて放った。

 ナイトメアが自身の影に潜り、飛んできた矢を回避すると、直後に俺の影が揺らめく。


(今だ!)


「どらっしゃぁぁぁーい!!」


 俺は影から出てきたナイトメアの首を掴み、空中に向かって思いっきり投げ飛ばした。


 そして、俺も空中へと跳び上がり、落ちてくるナイトメアの腹部目掛けて右の拳を叩きこむ。さらに空中で3発ほど打撃を入れると、エンチャントされた5本の矢がナイトメアの全身に突き刺さりそのまま地面に落下した。


「今のは何のエンチャントっすか?」


「睡眠だ。眠るかどうかは分からないが、麻痺の効きはあまり良くなさそうだったからな」


 地面に落ちたナイトメアは立ち上がろうとするが力が入らず、再び倒れ込むとそのまま眠り出した。


「ドレイク、このナイトメアはどうする? 今ならトドメを刺せるが……」


「ちょ、待ってもらっていいっすか? ……コイツ、何か俺に似てる気がして、なぜか放っとけないんっす!」


「ならフォレノワールのダンジョンを改造してもらい、阿吽達と連絡が取れるまで隔離することにしようか。ダンジョン内ならなんとかできるかもしれん」


「うっす! 俺が責任もって監視しとくっす」


 すぐにアルスへ連絡すると、フォレノワールに隔離部屋を作ってもらえることになった。俺達がナイトメアを運んでいる間に入口も作ってくれるだろう。


 兄貴への報告は、戦っている可能性を考え、ナイトメアを隔離し終えた後に念話をすることになった。



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