第58話 キヌの本気


『皆様、お待たせいたしましたぁぁ!! これより準決勝、【星覇】VS【禅】の試合を、開始いたしまぁぁす!

 まず登場してきたのは【星覇】! 初参加にもかかわらず、ここまで怒涛どとうの快進撃!!

 これまで全試合で先鋒の全勝という素晴らしい結果を残しており、まだ2人がその実力を隠しております!

 しかし、本日のエントリーシートではそのうちの一人、今まで副将を務めていたキヌ選手が先鋒となっております!!

 いったい、どんな戦いを見せてくれるんだぁ!? 私は、もうすっかり【星覇】のファンになっておりまぁぁぁす!!』


 マイケルめっちゃいい奴じゃん。それに、この人間至上主義が蔓延はびこっているアルラインで、今のマイクパフォーマンスができるのはマイケルだけだろう。

 大会が終わったら一度喋ってみたいな。

 

『続いて入場してきたのは【禅】! 過去2年間連続で決勝進出を果たしており、ソロにもかかわらず、今年までの実績は序列2位!

 ソロクランでの参加で準優勝を果たしたのは、このゼン選手を置いて他におりません!! 間違いなくこの国でトップクラスの実力を持った選手! 中距離、近距離での戦闘を得意としており、水の魔剣を所持している事でも有名です!

 昨年よりも磨きがかかったその戦闘は、見る者すべてを圧倒する!

 この両者の試合、間もなく開始のゴングです!』


 マイケルのマイクパフォーマンスが終わると、キヌがスッと一歩踏み出した。


「みんな、行ってくる」


「おう! 行ってこい相棒!」


 ニッコリとみんなに微笑み、リング中央へ向かって歩いていくが、その背中からは闘志がみなぎっている。めちゃくちゃやる気だな。


 ゼンも中央へ向かって歩いてくるが、やはり只者ではない雰囲気を漂わせている。


「キヌといいましたか、私はあいにく手加減ができません。痛い思いをさせますが許してください」


「ん。私も手加減は苦手。全力で行かせてもらう」


「……そういえば、あの大将の阿吽という方は、武京の出身ですか? あなた方の格好も祖国のものですが」


「阿吽の事を、私からあなたに話すことはない。聞きたければ……阿吽に聞いて」


「フッ、すみません。ではそのようにさせてもらいます。貴女に勝ってね」


「泣かせちゃったら……ゴメンね」


 会話が終わると、試合開始のゴングが鳴り響いた。

 お互いが少しずつ距離を離し、牽制けんせいしている。


「【ウォーターランス】」


 先に動いたのはゼンだった。

 水でできた槍がキヌ目掛けて飛んでいく。それに対しキヌも【フレイムランス】を合わせて相殺そうさいした。


 水と火の魔法がぶつかり合うことでリングに砂煙と霧状の水分が舞い、お互いの視界を奪う。

 それに乗じてゼンが魔剣に魔力を通して斬りかかるが、キヌは【危険察知】が反応し、振り下ろされた魔剣をかわす。

 そしてゼンにできた隙をつき、キヌも双剣ミズチで反撃を行うも紙一重で躱され、またお互いに距離を取った。


『な、なんと目まぐるしい攻防っ!! 一瞬でも目を離すと勝負が決まってしまいそうだぁ!!』


「ゼンなかなかやるな。魔法の相性が良いとはいえキヌの魔法と相殺か」


「そうっすね。ただ、近接戦はゼンが優勢かとは思ったんっすけど、キヌねぇさんはスキルで上手く対応してるっす」


 たしかに、ゼンは一般的な冒険者の強さと一線を画している。昨日シンクが戦ったSランクの冒険者たちと比べても格の違いが歴然だ。ただキヌにもまだ余裕が見える。


 あ、そういえば……進化した時に、俺は動植物も鑑定できるようになってたんだった。ゼンを鑑定してみるか。



〈ステータス〉

【名前】水月みなつき ぜん

【種族】人間

【状態】

【レベル】46

【属性】水

【HP(体力)】3000/3000

【MP(魔力)】500/700

【STR(筋力)】51

【VIT(耐久)】30

【DEX(器用)】40

【INT(知力)】70

【AGI(敏捷)】82

【LUK(幸運)】15

【称号】剣王

【スキル】

・剛腕:5分間STRが50%アップ(MP消費10)

・ウォーターランス:水属性攻撃魔法(MP消費30)

・ウォーターカーテン:水属性防御魔法(MP消費40)

・バブルボム:水属性攻撃魔法(MP消費50)



「うお! あいつネルフィーくらいのレベルとステータスがあるぞ。

 魔法剣士で魔剣持ち、しかも称号に【剣王】ってのがある」


「ってことは俺とも同等って感じっすね。俺も戦ってみたいっす!」


「確かにドレイクに似たステータスをしている感じではあるな……」


 ステータス確認をしている間、リングでは遠距離での魔法の攻防が行われていた。

 キヌはまだ自分から仕掛けず、様子を見ているようだ。


 遠距離での魔法合戦では分が悪いと感じたのか、ゼンが前方へ駆けキヌに接近戦を仕掛けだした。


 筋力で劣るキヌはできる限り斬撃を躱しながら、どうしても防御が必要な場面では展開した【狐火】で攻撃を防いでいる。


「ん。やっぱり近接戦闘はまだまだ……もっと練習しなきゃ」


「試合の最中に練習ですか? 余裕ですね……。それでは、そろそろ本気で攻めさせてもらいます! 【剛腕】」


 ゼンは筋力を向上させるバフスキルを発動すると、攻撃の回転数も上げ、【狐火】を削り切る。

 そして、キヌの身体に少しずつダメージを与えていった。

 キヌは致命傷を避けてはいるものの、腕や足に切り傷ができていく。


 だが、キヌはダメージを負ってはいるもののその表情は崩れない。むしろ楽しそうにしているくらいだ。

 ゼンは連撃の最後に【バブルボム】を放つと大きく後方へ飛び、爆発の範囲から逃れた。


 バブルボムの射程範囲に入っていたキヌは、咄嗟に【フレイムウォール】で防御するが相応のダメージは負っていた。


「【ヒーリング】」


 しかし、距離を離したことが裏目に出て、キヌに回復を許してしまう。ゼンはその光景に唖然とした表情を浮かべていた。


「回復魔法まで使えるとは……これは骨が折れそうです」


「じゃあ、今度は私の本気……見せてあげる。でも、ちゃんと耐えて。もっと戦いたい……【光焔万丈こうえんばんじょう】」


 キヌの周囲が薄く赤色に光り出し身体を包む。


「【フレイムブレイド】」


 そして紅蓮ぐれんの炎で形作られた剣がキヌの周囲に“7本”浮かび上がった。


 【光焔万丈】により、2.5倍に膨れ上がったキヌの知力でできた炎の剣。それが7本も同時展開されているという状況は、俺でも軽く身震いするほどだ。

 しかも【光焔万丈】は敏捷値までも跳ね上げる。


「……っく。貴女あなた、化け物ですか……」


 高速で肉薄したキヌから放たれる双剣ミズチと7本の炎の剣での連撃。


 ゼンは、その4撃目まではなんとか剣と魔法で対応したが、残りの5連撃分をモロに食らっている。

 さらにキヌは後方に飛び退きながら倒れかけているゼンに向けフレイムストームを放つ。



 リング上を吹き荒れる炎の嵐が収まると、そこには体力がゼロになったゼンが仰向けで倒れ込んでいる姿があった。


『…………っ!……キ、キヌ選手の勝利ぃぃぃぃ!!』



 呆けていたマイケルが、なんとか気を持ち直し勝利宣言をすると、唖然としていた観客たちも一斉に立ち上がって声を上げ、闘技場全体を歓声と叫喚で埋め尽くした。


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