第59話 第二王子との密会


 大歓声の中、キヌがリングから戻ってきた。


「阿吽、あなたの相棒も……強いでしょ?」


「あ……おう!」


 プレンヌヴェルトダンジョンをキヌと二人で攻略している最中に俺が言ったセリフをそっくり返してきた。

 出会った時からキヌは“強さ”に対して貪欲だった。あの時の事を思い出し、本当に強くなったな、と感慨深い気持ちにさせられる。


 正直、今の試合に関しては本当に驚かされた。近接戦闘ができるような筋力が無かったため、そこに関しては不安に思ってはいたが、魔法でできた剣と双剣を使っての九刀流。こんな芸当はキヌにしかできないだろう。

 遠距離も中距離も、近距離でも有効打を出すことができ、さらに自身で回復まで可能……正直隙が無さ過ぎて怖いくらいだ。


 俺もみんなにカッコいいところ見せなきゃだな!


「明日は俺も戦えるからな! お前らビビって腰抜かすなよ」


 少し冗談交じりにそう伝え、次の試合観戦のために選手用の観戦エリアへと移動した。


 次は準決勝第2試合、序列1位【デイトナ】と序列3位【ソードマスター】の試合だ。

 この試合の勝利クランと明後日に決勝戦を行う。


 ネルフィーの集めてきた情報によると、【デイトナ】の今までの試合は、大将まで回すことなく試合を終わらせているようだ。メンバーはブライド、エリア、ダリアス、メロリア、ロミリオの5人。

 ロミリオ以外の4人は【嵐の雲脚】のメンバーで14年前から変わっていない。

 そしてロミリオ、コイツは……エルフだった。

 どうやら誘拐事件に一枚噛んでそうだな……。


 試合結果に関しては、そのロミリオが5人抜きをしていた。

 弓とレイピアを巧みに操り、さらに中距離では風魔法を操っている。観戦席からリングまでの距離が離れすぎており鑑定はできなかったが、今日の試合では遠距離での弓をメインとして戦っていた。

 おそらくネルフィーに似たステータスをしているのだろう。


 とりあえず観戦して分かったのはロミリオのみであったが、決勝戦は明後日であるため、明日1日は余裕がある。ネルフィーがこれから情報を集めてくると言っていたので作戦会議は明日の夜に行う事としよう。


 そうして試合観戦を終え、宿屋へ戻っている途中で声をかけられた。

 振り返ると王国騎士団の鎧を身にまとったレジェンダがそこに立っている。


「【星覇】の阿吽、ルザルク殿下からの言付けだ……『今晩、どうしても話がしたい。できれば一人で来てほしい。22時に【黄金の葡萄ぶどう亭】206号室で待つ』と仰っておられた」


「そうか。分かった、一人で行くと伝えておいてくれ」


「……よろしく頼んだ」


 何か伝えたい事があるのだろうか、それとも聞きたい事? 詳しい事は行ってみないと分からなさそうだ。



◇  ◇  ◇  ◇


~黄金の葡萄亭 206号室~


 22時に約束の場所に入ると、商人の格好をしたルザルク第二王子が椅子に腰かけ紅茶を飲んでいた。その後ろには昼に会ったレジェンダが冒険者の格好で立っている。


「待っていたよ阿吽君。どうぞ、掛けてくれ」


「……今日は非公式か?」


 そう言いながら促された椅子に座る。


「もちろん非公式の場だよ。口調もそのままで頼む。あと……僕も素の口調で話させてもらうよ。その方が話しやすいだろ?」


「まぁな。それで? わざわざ俺を呼んだ理由は?」


「先日はあのような場所だったからね、詳しい話ができなかっただろ? ……それに込み入った事情もあるんだ。

 この部屋は遮音の魔導具で外には聞こえないようにしてある。本当に大事な要件でしかココは使わないんだよ」


「まずは信用をしろって言いたげだな? 以前にも言ったが内容によるぞ?」


「それは分かってる。でもちゃんと誠意は示さなきゃだろ?

 じゃあ、早速本題なんだが、次期国王候補の第一王子のフェルナンドと、それを支持している貴族たちの力が近年強くなりすぎている。その権力を削ぎたい」


「要するに権力争いに加担しろって事か?」


「いや、阿吽君はそういうの嫌いだろ? 今話しているのは僕が阿吽君に優勝をお願いした理由だ。

 現在クランの序列1位【デイトナ】そのメンバーのほとんどはSランクパーティー【嵐の雲脚】のメンバーだ。そしてその4人は、全員が第一王子を支持している貴族たちなんだよ」


「続けてくれ」


「その貴族たちを探ってみると金の回りが異様だったんだ。奴隷商の闇営業、人身売買……それ以外にも黒い事を平気でやっている。

 しかも、序列1位という立場もあるためアルラインの冒険者ギルドも一部の人間が取り込まれ、違法に手を染めている事も確認ができた」


「それで、奴らの象徴である“クラン序列1位”という看板を剝がしてやれば、その後の調査も進みやすくなると……」


「その通りだ。僕の派閥はレクリアなどの辺境地域の貴族が多いんだ。各々が優秀ではあるんだが、王都内での話となると勝手が違う。そこで、現在第一王子派閥の中心貴族たちを失脚させ、王都での私の発言力を高めたいと考えた。

 ただ、今までそんなに都合よく優勝できそうな冒険者も居なくてね……色々と諦めかけていたところに君たちがドラゴンを撃退したという話を聞いたんだ」


「まさか、Sランクに飛び級したのも、序列戦に参戦できるようにしたのもルザルク殿下なのか?」


「Sランクの飛び級に関しては、僕は何もやってない。それは君たちの実力で勝ち取ったものだよ。

 ただ、序列戦に関しては少しギルドの上層部に話をした。気分を悪くしたのなら謝罪する」


「いや、逆だ。序列戦に参加させてくれた事は感謝していた。

 あとはまぁ、そこまで腹を割って話してくれたんだ。俺も腹を割って話をしよう。

 実は、俺達が優勝したらお願いしたい事が2つほどあるんだ。

 それを聞いてくれるとありがたいとは思っている」


「今の話の流れだと、貴族と何かあったって感じかな?」


「まぁな。ミラルダで奴隷商の襲撃が立て続けに起きたことは知ってるか?」


「もちろんだ。そのおかげで王都の貴族たちも打撃を受けたっていう事まで掴んでる。……まさか、君たちか?」


「あぁ。一枚噛んでる。そして解放された奴隷たちも保護している」


「なんて巡り合わせだろう! 今ほど神の存在を感じたことはないよ! もしそうなら、お互いの利害は一致している!」


「そうだな。俺からお願いしたい事の一つは、この件に関わっている貴族、奴隷商、冒険者の断罪だ。できるだけ徹底的にやってほしい」


「わかった。それは任せてくれ。ただし、君たちが序列戦で優勝できるかどうかが大きなカギを握ってくる。改めてお願いするが絶対に優勝してくれ」


「あぁ。わかってる。それは任せとけ」


「期待してる。それで、もう一つのお願いとは?」


 非公式ではあるが、今のところルザルク第二王子との会話は俺たちにとってかなり利がある状態となっている。

 ただし、ここまでの話が全て上手くいったとしても、あくまで一時的な措置に過ぎない。話をしながら思いついた事ではあるが、ここから俺は本命のお願いをするとしよう。


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