第75話 魔狒々
次に俺はプレンヌヴェルトダンジョンのコアルームへと転移し、イルスと今後の相談をすることとした。
「イルス、今持っているダンジョンポイントでどれくらい強い魔物を召喚できそうなんだ?」
「Sランクの魔物だと1体でござるな。Aランクであれば5体は召喚可能でござる!」
「うーん、そうか。階層を増やすにも改築するにもポイントは必要だからな……ただ、踏破させないという狙いから行くとSランクをもう一体召喚したいってのもある。うーん」
「今のところはヒュドラを突破できそうなパーティーはいないでござる。
であるなら、レッドオーガのチェリーが抜けたところにBランクの魔物は配置しておいた方がバランスとしては良いでござるな!」
「確かにそれはそうだな。村の人口はかなり増えてきたからポイントは今後どんどん貯まってはいきそうだし、とりあえずBランクの魔物を召喚するのは確定とするか。
ただ……できればSランクで召喚したい魔物が居るんだ」
「興味深いでござるな! 何でござる?」
「【
「それはまた……かなり極悪なことを考えるのでござるな……」
「正直自分でもそう思う。大型の猿種魔獣でただでさえ強いのに森林エリアとなると魔狒々の能力も最大限活かせられるからな。
だから冒険者たちが帰還できるように、ボス部屋の入口に帰還用転移魔法陣は設置する予定だ。
可能なら冒険者を殺さないように指示もする」
「でもなんで魔狒々なのでござるか?」
「いやさ、俺は人間だった時から魔物図鑑が大好きだったんだけど、どうしても倒せるイメージが浮かばなかったんだよな……
今ならゴリ押しでなんとかなる可能性もあるけど、森林エリアであらかじめ罠まで仕掛けられていた場合を想定すると、ソロなら相当しんどい戦いになるだろうな」
「全く踏破させる気はなさそうでござるな……」
「まぁな! ただ、“魔族”っていう存在が世に明るみとなった以上、今後何かしらの大規模な戦闘も起こりうると思うんだ。
だから冒険者から魔狒々を突破できるようなヤツらが出てきてほしいっていう気持ちもある」
「凄く矛盾しているようでござるが、なんとなく意図は掴めたでござる! 『魔狒々』とBランク下位の『リカント』ならギリギリポイントはあるでござるが、両方とも今召喚するでござるか?」
「だな! ポイントはまた貯められるし、今から召喚しよう!」
序列戦前からイルスがフロアの増築とCランクまでの魔物を増やしてくれていたため、現状は全30階層のダンジョンとなっている。
そして今回の構想を全て詰め込んで、魔物を再配置した形がコレである。
<プレンヌヴェルトダンジョン>
【1階層】
獣人村(プレンヌベルト村)
【2~8階層】
迷路型フロア(F~Dランク魔物)
【9階層】
セーフティーエリア
【10階層】
ボス部屋(Bランク下位:リカント)
【11~18階層】
平原エリア (D~Cランク魔物)
【19階層】
セーフティーエリア
【20階層】
ボス部屋(Bランク上位:牛頭鬼・馬頭鬼)
【21~23階層】
沼地エリア(C~Bランク下位魔物)
【24階層】
セーフティーエリア
【25階層】
ボス・沼地エリア(ヒュドラ:Sランク下位)
【26~28階層】
森林エリア(C~Bランク下位魔物)
【29階層】
セーフティーエリア
【30階層】
ボス・森林エリア(魔狒々:Sランク上位)
こうやって見てみるとかなり極悪なダンジョンだ。
アルト王国内では難易度はトップクラスとなっているだろう。
一応各ボス部屋の前にセーフティーエリアを設けていること、罠は30階層以外に設置されていないこと、危険なエリアの前後には帰還用魔法陣を設置してあること、宝箱は少し多めに設置してあることなど、かなり冒険者に配慮した構想となってはいる。
ただ、イブルディア帝国の【ウィスロダンジョン】も似たような設定になっていると聞いたことがあるため、ダンジョンマスターの存在を怪しまれることもないはずだ。
その後、イルスと共に魔物の再配置を終えた俺は、魔狒々と対面すべく30階層のボス部屋に来てみた。
そこには、全長は6mを超えているであろう巨大な体躯、全身に紺色の毛皮を纏った猿型魔獣が森林の入口に鎮座している。そして……
「おぬしがこのダンジョンのマスターか?」
なんと魔狒々は言語を喋ることができたのである。
「そうだ、よろしくな魔狒々」
「儂は弱い者には従わん。しかし、マスターを傷つけることもできん。
そこで、おぬしの力を見極めるために、一発全力で儂を殴ってみてはくれぬか」
「……え? マジで言ってる?」
「もちろん、ある程度強いのは分かっておる。
しかし、儂自身が攻撃を受けることで、おぬしが儂の主として相応しいかどうかをしっかりと見極めたいのだ」
「そういうことなら……ただ、恨むなよ?」
「バカにするな。儂から提案していることだ。
ただし、一発で儂を納得させてみせよ」
「……よし、ならいくぞ?」
【雷鼓】と【疾風迅雷】を発動させると、魔狒々は焦燥の表情を浮かべ咄嗟に防御姿勢を取った。
「うおらぁぁぁぁ!!」
――シュッ ゴスッ! ドガガガガッ!!!
ガードした両腕の上から思いっきり殴りつけると魔狒々はふっ飛び、森林の木々をなぎ倒して止まった。
「すまん、痛かっただろ? 一応武器は使わずに殴ったんだが、大丈夫だったか?」
「うっぐっ……まさかここまでとは……」
「んで、認めてくれるんか?」
「もちろんだ。ここまで強いとは思っていなかった。これで心置きなく、おぬしに仕えることができる」
「よし、なら改めてよろしくな! えーっと名前ってあるか?」
「先ほど産まれたばかりで名前も記憶もない。
だが、いろいろと知識はある。
習性と言えば良いのか、本能と言えば良いのか……そのようなものもある。不思議な感覚だ。
もし、主が名付けてくれるなら嬉しく思う」
「オス……だよな? なら、『ヤオウ』ってのはどうだ?
お前の吸い込まれそうな紺色の毛並みが夜空に見えてな。夜の王でヤオウだ」
「おぉ! 気に入ったぞ!
儂の名はヤオウ、これからよろしく頼む。主よ!」
「俺の名前は阿吽だ。よろしくな!」
これでしばらくは大丈夫だろ。それにしてもヤオウ、鑑定してみたら体力あんまり減っていなかったな。
やはり、俺はまだまだ世界最強には遠いようだ。
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