第二部

第五章 イブルディア戦争編

第74話 メアとチェリー

~阿吽視点~


 記念式典の夜に盛大な祝賀会が行われ、そのまま王城に一泊した俺達は、翌日フォレノワールダンジョンに帰還転移した。


「ただいまー」


「おぉ、おかえりでござる!」


「おかえりなのじゃ! ちゃんと記念式典には間に合ったかの?」


「おう! ドレイクが頑張ってくれたおかげだな!」


「阿吽さんおかえりなさい! 優勝褒賞は希望通りの物がもらえそうですか?」


「バッチリだ! バルバルも仕事がさらに忙しくなりそうだが大丈夫か?」


「はい! 補佐官達が優秀ですので、大半の仕事を任せることができるようになりました。魔導具の調整なども勉強すれば任せられそうです!」


「そうか。あんまり無理はするなよ?」


「分かりました! あ、阿吽さん。今後のプレンヌヴェルトへの人口流入の予測を立ててみたのですが、圧倒的に資材や居住スペースが足らなくなりそうです。

 スパルズさんとステッドリウス伯爵に相談してみる予定ですがよろしいでしょうか?」


「あぁ、そうしてくれ。力になってくれるはずだ」


 プレンヌヴェルトの方はバルバルに任せておけば問題なさそうだな。

 バルバルとの会話が終わると、アルスがウキウキした様子で話しかけてきた。


「そういえば、帰ってきたらダンジョンで試してみたいことがあるって言うておらんかったか?」


「おぉ、ちょうど全員揃ってるし、今からその話をしようか!」


「今度はどんな突拍子もないことを言い出すのか、結構楽しみにしておったのじゃ!」


「いや、できるかどうかは分かんないけどな! とりあえず質問から良いか?」


「拙者とアルス殿で知っていることは何でも答えるでござる」


「んじゃあ、まず俺がマスターをやってるダンジョンで産まれた魔物も、俺と従属契約を結ぶことは可能だよな?」


「それは可能でござるよ。ダンジョンで産まれた魔物に関しては、ダンジョンが住処となることと、ダンジョンの決められたエリアを守る習性があるというだけで、シンクのように外へ出ることも従属契約を結ぶことも問題ないでござる」


「そうだよな。あとダンジョンポイントで産まれてくる魔物を選ぶことができるのは知っているし、ランクによって必要なダンジョンポイントが大きく違うことも知っている。それを踏まえて、個体を選別可能かどうかが知りたい。もっと言えば【人化】が可能な魔物を厳選して召喚が可能かどうかだ」


「それも可能でござる。ただし、通常の召喚よりもダンジョンポイントは多く必要となることと、そもそも人化ができる種族がそんなに多くないという制限はあるでござるよ」


「ふむふむ……ならいけるか」


「もったいぶらないで、はよう教えてほしいのじゃ!」


「えっとだな、そもそもダンジョンポイントで生み出した魔物はダンジョンマスターである俺の指示には従ってくれる。でも、俺と従属契約をしているってわけじゃないんだよな。だから、ダンジョンポイントで【人化】が可能な魔物を召喚して、その魔物が承諾すれば、俺と従属契約をする。

 そして、ゆくゆくは4~5体の魔物を一つのパーティーとして冒険者登録をし、自力でレベルを上げ進化をしてもらう。そうすれば時間はかかるが、俺たちのようなダンジョンへの帰還転移や念話が可能で、人族よりも屈強なステータスを持ったパーティーができ上がるってわけだ。

 注意する点としては、隠蔽の装飾品が人数分必要な点と、進化時や帰還転移をする時に他者から見られないようにしなければならないっていうことだな」


「な……なんという作戦を思いつくのじゃ……。

 確かにリスクはあるが、【星覇】としての戦力アップだけでなく、ダンジョンの守りとしても、各街の偵察や情報収集、さらには今回のように同時に対応しなければならない事象に対してかなり強くなるのじゃ……」


「その通りだ。シンクがオークガードの時にフォレノワールから出てやったことを模倣して意図的に強化する事ができるようになる。ちなみに他のダンジョンを探したり、探索したりと、できることもかなり増えるだろうな。

 ただ、魔物にも意思がある。契約をするかどうか、ダンジョンを守りたいか、外へ出てみたいか、ちゃんと聞いて全て希望は通すつもりだ。

 俺が欲しいのは駒じゃなくて仲間なんだからな。強制はしない」


「阿吽様、個人的な所見となりますがよろしいでしょうか?」


「なんだ? シンク」


「恐らくですが……【人化】は練習次第で獲得できる可能性もあるかと……」


「それはシンクだからできたことじゃないのか?」


「わたくしにできて他の魔物にできないという道理はないかと……。

 一度、数体のボスクラスの魔物に教えてみてもよろしいですか? あと、既にメアには教えてほしいと言われております」


「そうだな。希望者には教えるようにしてくれ。ただ、強制だけはするなよ?」


「了解いたしました。全力を尽くします」



◇  ◇  ◇  ◇



~1週間後~

 

「マジか……5体中、2体の魔物が【人化】のスキルを取れたって……」


「はい。メアとレッドオーガが獲得いたしました。しかし牛頭鬼、馬頭鬼、ヒュドラは未だ獲得に至っておりません。

 ただ、獲得できていない3体は今後もダンジョンを守っていきたいと希望がありましたので、そこまで必要性を感じていなかったという可能性もございます」


「お前本当に凄い奴だな……どんな教え方したんだよ」


「感覚的なことでございますので……何回も試してみるとか、手本を見せるとかそんなことくらいしか……」


「ちなみに何回くらい挑戦したんだ?」


「申し訳ありません……1000から先は数えておりませんでしたので、正確な数字は……次回は正確にカウントしておきます」


「いや、簡単に取れるものじゃないって分かっただけで大丈夫だ……」


 そして、シンクがメアとレッドオーガを呼ぶと、16歳くらいの二人の女性が現れた。

 メアは黒髪に白色のメッシュが入ったロングヘアーでどこかフワフワとしている雰囲気がある。レッドオーガは赤髪に褐色の肌で活発そうな印象だ。

 レッドオーガは名前が付いていなかったため、キヌが『チェリー』と名付けていた。


 二人に関しては冒険者をしてみたいという希望があったため、明日からシンク教官の下で外の世界について学ぶことになった。

 変な事まで教えないか少し……いやかなり不安はあるが、キヌやドレイクも一緒に教えるそうだからまぁ大丈夫だろ。


 さて、次はプレンヌヴェルトダンジョンの改造計画をイルスと練ってくるか!

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