第73話 覚醒する思考、垣間見る深淵

~ゼン視点~


 私の名前は水月みなつき ぜん

 『ゼン』という名で冒険者をしているSランクのソロ冒険者です。祖国は北方にある島国“武京国”。このスフィン大陸では“和の国”という別名の方が通じるのかもしれません。その武京国で、私は剣の名家である水月家に生まれました。


 武京国は、子供や女性でも武芸をたしなむのが一般的であり、“国民皆武人”という考え方が浸透しています。使用される武器も様々なものがあり、剣、大剣、短剣、刀、弓、槍、薙刀など多種多様。それに武器を使わず己の身一つでの近接戦闘を好む者も多くおります。


 そんな武京国に生まれた私も、例に漏れず強さに対して強い憧れがありました。よわい十四を数えるまで水月家の剣道場で研鑽を積み、水月流剣術の免許皆伝となる頃には、剣王の称号を得るまでに成長、同年代では頭一つ飛び抜けた実力であったと自負しています。

 しかし武京には私より強い者など、たくさんいます。私の師匠や他の道場の師範代達は、全員が私と同等以上の武力を持ち合わせているのも分かっていました。


 そして14歳の誕生日、水月家当主であり剣の師匠でもある父から、一つの質問と修行を言い渡されたのです……。


「禅……あなたの剣は、何を成すためのものですか?」


「はい、水月家ひいては水月流剣術の上進の為でございます」


「あなたのその剣術は、この家と武の発展の為にあると?」


「はい、その通りでございます」


「そうですか……それでは禅、今から水月家当主として、あなたに最後の修行を言い渡します。明日から6年間、20歳の誕生日を迎えるまでにアルト王国で最強を目指しなさい。そして己の武は何のためにあるのか常に考え続けなさい。それが分からなければ、あなたの力はそこ止まりです……精進しなさい」


 最初は何を言われているのか分かりませんでした。この家では私の武力はこれ以上伸びないということだろうか? それとも、水月流が最強であることを証明してこいということであろうか?


 武京国では、師匠からの命令は絶対です。私は、翌日からアルト王国へ向けて出発し、1か月後に王都アルラインへと到着。すぐに冒険者ギルドへ行き、アルラインに拠点を移すという手続きを行ないました。

 私は12歳になった時に武京国で冒険者登録をし、アルラインへと到着した時には既にCランクとなっており、その後も精力的にクエストをこなしていきました。

 それは、名実ともにアルト王国での最強の証明となる、序列戦の優勝を勝ち取るため。


 しかし、数年にわたる挑戦を行うも、私は未だに序列1位となれずにいました。唯一私が勝つことができない剣士……『豪炎のブライド』。

 昨年に至っては重傷まで負ってしまう始末。何が足りないのか、もう自分でも全く分かりません。それに、師匠との約束の期限まであと1年……。今年こそ序列戦で優勝して水月流が最強であることを証明しなければ、私は師匠に顔向けができません。


(今年こそ優勝しなければ。敵はブライド唯一人なんだ)


 そして迎えた準決勝……私の価値観を大きく変えることとなる試合が開始されました。


(星覇というクランは武京の出身者なのか? 全員が和装ではないか。……まぁいい。今まで通り全員倒せば良いだけだ)


 先鋒はキヌという名の獣人の童女でした。しかし、見た目に反したその雰囲気。このような者達が、まだこの国に居たとは……。ですが、全力の私には敵わないでしょう。


「キヌといいましたか、私は生憎手加減ができません。痛い思いをさせますが許してください」


「ん。私も手加減は苦手。全力で行かせてもらう」


「……そういえば、あの大将の阿吽という方は、武京の出身ですか? あなた方の格好も祖国のですが」


「阿吽のことを、私からあなたに話すことはない。聞きたければ……阿吽に聞いて」


「フッ、すみません。ではそのようにさせてもらいます。貴女に勝ってね」


 試合開始直後から私は優位に戦っていました。しかし攻めきれない。

 相手の近接戦闘技術は、お世辞にも高いとは言えません。ですが、特筆すべきはそのセンス。スキルを使いこなし致命傷を避けています。

 さらに、試合中に近接戦闘の技術が目を見張るほどに上達していきます。

 距離を離したとしても、遠距離魔法の威力が桁違いであり、属性的に有利であるはずの私の魔法を相殺。


(これは短期決着の必要があるな。本気で仕留めにいくしかない)


 私は切り札である【剛腕】を発動し猛攻を仕掛けると、相手にダメージは入りだします。ですがどうしても仕留めきれません。さらに隠し玉である【バブルボム】でダメージの蓄積を狙ったものの、回復魔法まで習得しているのは完全な予想外でした。


「回復魔法まで使えるとは……これは骨が折れそうです」


「じゃあ、今度は私の本気……見せてあげる。でも、ちゃんと耐えて。もっと戦いたい……【光焔万丈こうえんばんじょう】」


 私は驚きを隠せませんでした。この時点で分かってしまったのです。


(この童女は……私よりも強い……)


「……っく。貴女、化け物ですか……」


 紅蓮の炎でできた7つの剣、なんとか対応できたのは最初の4連撃まででした。武器を弾かれた後は猛攻をその身に受け意識が飛びかけます。

 

 ゆっくりと倒れながらも何とか必死に意識を保とうとする私が最後に見た光景は、激しく渦巻く炎の嵐。

 そして、太陽の光を受けて光り輝く“滑らかな黄金の尻尾”。

 ……気が付くと試合は終わり、リングの外へと運び出された後でした。


(そうか、私は負けたのだな……)


◇  ◇  ◇  ◇


 序列戦が終わり、2週間が経過しました。大会の結果としては3位でしたが、後に【デイトナ】のクラン解体による序列2位への繰り上がり。

 それは、今までと変わらない立ち位置。しかし、目指すべきいただきは今までよりも更に遠く感じるようになりました。


(私の実力は、まだまだこんな程度だった……だが、もっと強くなれるということが、あの準決勝で確信できた)


 宿屋の天井を見上げ、準決勝の試合を思い返してみると、不思議と笑みがこぼれてきます。


 薄い赤色に輝くオーラを纏った獣人の童女……。

 おっとりとした雰囲気からは想像もできないほどのスピード。

 爆発的な火力で繰り出される、激烈な連撃。

 モフモフな尻尾……


 …………いや、今モフモフは関係ない。


 その一撃一撃が致命傷になりうる圧倒的な破壊力。

 優しくも強い意志が宿った瞳。

 そして何といっても、金色こんじきに輝くモフモフの尻尾……


 あれ? 違う……。し、試合内容を思い出せ!


 絹のようになめらかな毛並み。

 ピョコピョコと動く獣耳。

 モッフモフな尻尾っ!


 そこで気が付きました。


(……私は、大きな勘違いをしていたようだ……)


 頭が冴えわたっていく……武京国を出てからずっと引っかかっていた、モヤモヤとした不明瞭な思考が一気に晴れたような感覚。師匠は、これが伝えたかったのですね……


 目を閉じると5年前の師匠が語り掛けてきます。


『禅……あなたの剣は、何を成すためのものですか?』


「師匠、私の剣は、私の武は、私の義は……モフモフのためにあるっ!!」



 よわい十九にして新たなる扉を開き、深淵を覗いた一人の青年の瞳には、いつまでも燃え盛る炎のような決意が宿っていた。

 そして、今後の運命を変える一つのスキルを手に入れるのだった。


 【スキル】四霊獣召喚:自分と同レベルの霊獣を召喚(1体に付きMP消費:150)



                             第1部 第4章完

―――――――――――――――――――――――――――――――――――——

<あとがき>

 どうも、作者の幸運ピエロっす♪

 何か禅君が凄い事になりましたが、今話で第1部完結! 次話から第2部 第5章となります♪(次話は本日20時頃投稿予定)

 ちなみに、4章までの第1部は言わば『序幕』! ここまでで想定している物語構成全体の約15~20%くらいの感じですね! (書いているうちにストーリーが膨れ上がっているのでもっと長くなるかも……笑)

 まだまだここから盛り上がっていくので末永いお付き合いをどうぞよろしくお願いします♪


 あ、あと評価★やレビュー、フォロー・応援、暖かいコメント本当にありがとうございます!! 同期してあるスマホへ通知が入るたびにニヤニヤが止まらず、ワクワクしながらPCを開くのが毎日の楽しみで、ノリノリで縦揺れしながら執筆させていただいております♪

 コメントは全てその日のうちに返信させていただくようにしておりますが、遅れてれてしまったら申し訳ないっす!

 引き続き応援やコメントいただけたらめちゃくちゃ嬉しいです!


 っと、長くなりましたが、次章『イブルディア戦争編』お楽しみにっ♪

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