第72話 追放の真意

~竜人族の里・ファーヴニル視点~


「里長、お呼びでしょうか」


「あぁ、座ってくれ」


 ドレイクを追放して2日後、私は父である里長に呼び出され、里長を決める試合の全容を聞いた。それは動揺が隠せないほどの内容であったのだが、ドレイクが本調子を出すことができない理由も判明した。


「ファーヴニル、実は次期里長となるお前に話しておかねばならないことがある。……今から伝える内容は他言無用だ」


「わかりました。それでその内容とは?」


「まず……ドレイクの食事に弱体の薬を混ぜ込んだのは、私だ」


「!? なぜです! 神聖な試合だったのでしょう! それではドレイクがあまりにも……」


「……そうだな。だが、伝承に従うためにはこうするしかなかった」


「どういう……ことですか?」


 そこから父は竜人族の里長にのみ伝えられる伝承を語り出した。


「約2000年前……人族と魔族の大戦があったのは、子供のころに話したが覚えているか?」


「はい、幼いころドレイクと二人で聞かせていただきました。その最後は人魔大戦を仕組んだと言われている魔王を封印。その時の魔法の余波で大陸の地形が変化してしまったと」


「あぁ。だが、あの話には続きがあるのだ……」


「それは……どんな……」


「“再び戦禍が訪れる時、黒き竜が氷を纏い、光を導く”」


「……まさか、ドレイクが?」


「人魔大戦以降で黒き竜、すなわちブラックドラゴンに【竜化】ができたのはドレイクのみだ」


「っ! では、なぜ追放になるんですか!? それだったら……」


「ドレイクの属性はなにか知っているか?」


「風です! それと何か関係が?」


「そう、風のみなのだ。竜人族は生まれた時から2つの属性を持っている。そして、追放した理由なのだが……再び戦禍が訪れる前に、ドレイクは氷の属性を得て、進化をするために氷竜の試練に挑む必要がある。それには、他種族の協力が必要不可欠……この里に居ては信頼できる仲間と巡り合うことなどできぬのだ」


「し、進化ですか!?」


 子供のころから竜人族は進化ができないと教わってきた。これはドレイクもそう思っているはずだ。


「竜人族は……進化ができるのだ。ただし、今までに進化をしたのは竜帝クエレブレ様、唯一人だが……」


 2000年どこかで生きていると伝説になっている竜人……クエレブレ様。本当に実在したのか! ということは、ドレイクに新たな力を手に入れさせ進化を促すために、追放したと……


 私は強い怒りの感情が湧いてきた。神聖な試合をあんな形で終わらされたことに対してでも、私が薬なしでドレイクに勝てると信用されていなかったことでもない。


(もっと他に方法があっただろう! なぜドレイクに本当のことを話さない! ドレイクはあなたを尊敬していた……)


 悔しくて涙があふれてくる。そんな使命を背負った弟は、理由も分からず里から追い出され、独りでなんとかしなければならない。しかし、兄である私は、ドレイクに何もしてやることができない……


「なぜ、本当のことをドレイクに話さなかったのですか……?」


「知れば、アイツは自分の弱さには気付くことができなかった。挫折や敗北を知らない者は、強くはなれぬのだ。

 ファーヴニル、お前にも……つらい思いをさせる。こんな方法しか知らない父を許さなくても良い。だが、次にドレイクが来た時は力になってやってくれ……」


 父の言うことは理解できる。私もここまで強くなれたのはドレイクに何度も負けたことがあったからだ。敗北を知ることで自分の弱さを知ることができる、視野を広げることができる。一度も負けたことのない者は弱点を突かれると弱い……。


「わかりました。必ずドレイクの力になると誓います」


 それよりもドレイクは本当に戻ってくるのだろうか……

 ドレイクは、里の誰よりも他者に気を配ることができていた。友達も多かったし、年配から子供にまで好かれる奴だった。俺なんかよりずっと里長に向いているだろう。だが、戦闘においては挫折したことが無く、プライドも高いため、自分から戻ってくるとは思えない。自暴自棄じぼうじきになっていなければよいが……。


(あぁ……心配だ。多分父も同じ気持ちなのだろうな)


 今ドレイクはどこで何をしているか分からないが、もし力になれる時が来たら必ず全力で助けてやろう。

 ドレイクは、いつまでも俺の大切な弟だ。

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