第71話 演説
式典当日、俺達は【竜化】したドレイクに乗ってアルラインまで猛スピードで向かっていた。
「やべぇぇー! 遅れる!!」
「絶対間に合わせてみせるっす!!」
「頼むぞドレイク、遅れたらルザルクに何言われるか分からん!」
このスピードならギリギリ間に合うかもしれない。視界にはアルラインの王城が見えてきている。
「兄貴、どこに着地するっすか!」
「どこでもいい! とりあえず降りられそうなところに頼む! そこからは王城のテラスへ向かって全員ダッシュだ!」
アルラインの外壁を超えると眼下には民衆が集まっているのが見え、街中に設置されている音声拡張型魔導具からはルザルクの声が聞こえている。
「兄貴、人が多すぎて降りられないっす!」
「もう王城の塔まで行っちまえ! どうせ目立ってるんだ、後でルザルクには謝っとく!」
「了解っす!」
ドレイクが尖塔に着くと、何かが飛んできた。 あれは、魔導具か? なんとか間に合ったかと思ったが……
『その英雄クランの名は……【星覇】!』
直後、地震が起きたかと思うほどの歓声が街中に響き渡る。
俺達は尖塔から飛び降り、ルザルクの居るテラスへと着地した。
「すまん、待たせたか?」
「いや、最高の登場をしてくれたよ」
「なら良かった。これからどうすればいいんだ?」
「決まってるだろ? みんな阿吽の言葉を待ってる」
「マジか……何も考えてないぞ?」
「いいんだよ。君が伝えたいことを、伝えれば」
そう言ってルザルクは俺にマイクを渡してくる。
俺が伝えたいことか。そうだな……
『星覇の阿吽だ。……2週間前、俺達がこの街に入って、初めてかけられた言葉は、
街中が急に静まり返る。しかしそれは、俺の言葉を聞いてくれているという証拠だ。
『この演説で、そんな“クソみてぇな主義・風習”をぶっ壊してやろうと思っていた!
……でも、もうみんな気付いているんだろ? 種族が違おうが、能力が違おうが、どの種族が一番だとかそんなもん関係ないってな。
俺は、種族の違いは個性だと思っている。見た目が違う、得意なことが違う、大いに結構じゃねぇか。同じ人間ばっかりいたら、そんな世界は……それこそ、クソほどつまらねぇモンだろ?』
じっとこちらを見つめている人がいる、頷いてくれている人も居る。この場で反論してくる奴なんか一人たりとも居ない。それは、この国の人間至上主義はすでに壊れかけている証拠。最後の一押し、それは少し背中を押してやるだけでいいはずだ……。
『みんな違うから良いんだよ。みんな違うから……新しい物が、面白い物が生まれてくるんだ。みんなでこの国を、この世界を、めちゃくちゃ楽しい所に変えていこうぜ。それができるのは、俺でも、王族でも、貴族でもない。お前ら一人ひとりだ!
最後に……決勝戦、お前らのお陰で力が
笑顔でマイクをルザルクに手渡すと静寂の中からポツポツと拍手が聞こえだし、徐々に広がっていく。それが数十秒で街中に
眼下を見ると泣きながら抱き合っている獣人と人間の姿も見える。もう今後、この国で差別なんか起きないことを切に願おう。
◇ ◇ ◇ ◇
テラスから部屋へ戻っても拍手と歓声は鳴り止まなかった。
「阿吽、最高の演説だった。あれは阿吽にしかできない演説だよ」
「ありがとな、ルザルク……殿下」
「ハハハッ、もういいよ。敬称なんか使わないでくれ。もし、今後敬称を付けてくれるとしたら“陛下”と呼ばれるように頑張るよ」
「そうだな! 楽しみに待ってる」
そう言って俺とルザルクは軽くハイタッチを交わした。
その後、様々な感情を浮かべる偉そうな人達に囲まれた玉座の間にて優勝褒賞の授与が行われた。とはいっても形だけだ。実際には後日、プレンヌヴェルトの獣人村に褒賞品が届くことになっている。
中身は3つの魔導具だ。一つ目は、闘技場でも使われていた巨大映像投影型魔道具と映像送信用魔導具。この映像送信用魔導具はプレンヌヴェルトダンジョンの至る所に配置し、1階層である獣人村の広場でダンジョン探索の様子を見ることができるようにする。
そうなれば現在探索している冒険者達がどのように連携を取っているか、どのような魔物をどのように討伐するかなどの情報が分かりやすくなり、冒険者全体の地力の向上や安全性の確保につながる。さらに住民たちの一つの娯楽ともなれば、今まで以上にプレンヌヴェルトに人が来てくれるようになるだろう。
二つ目は、冒険者ギルドにも置いてある通信型魔導具。これはバルバルが使用することになるが、プレンヌヴェルトに居ても各街や冒険者ギルドと即時に連絡が取れるようになる。この魔導具で情報伝達が飛躍的に向上する。
最後は音声拡張型魔導具だ。今のところ使う予定はないが、今後街が大きくなっていけば使う機会も増えてくるはずだ。
こうしてクラン対抗武闘大会は閉会を迎え、俺達は序列1位という看板と魔道具、そして何よりこの国の人間至上主義を破壊するという成果を得て、フォレノワールへと帰還するのだった。
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