第76話 今後の計画

~3か月後~


 魔狒々ヤオウを召喚してからおよそ3か月の時が流れた。

 この期間は主にプレンヌヴェルト村の発展のために、ミラルダで保護されたエルフ達を含む多くの星覇クランメンバーが動いていた。なにしろ人手が足らなさ過ぎるのだ。

 序列戦以後プレンヌヴェルトへの人口流入はバルバルの予測を超えていた。これはプレンヌヴェルトダンジョンが周知されてきたという事もあるが、序列1位クランである【星覇】が村の運営を手伝っているという事も要因であるようだ。ただ、まさかこんなにも集まってくるとは、さすがに予想外だ。


 そのため、宿屋や貸家などが圧倒的に足りておらず、近くのレクリアにも人口流入の波が押し寄せているらしい。ステッドリウス伯爵やギルドマスターのスパルズが働きかけ、レクリアやミラルダの建築ギルドがプレンヌヴェルト村にしばらく常駐し、宿屋、居住区、外壁などの建築を進めてくれているが、人口流入のペースに建築速度が追い付かず、冒険者にまでクエストとして建築補助を依頼しているくらいだ。


 建築関係で言えば【星覇】のクランハウスが王都アルラインにできた。

 フォレノワールダンジョンがメインのクランハウスではあるのだが、表向きの【星覇】のクランハウスは今のところない。

 さすがに序列1位のクランが拠点を持っていないというのは色々と問題があるということで、アルラインにある元貴族の屋敷を改築してクランハウスとすることになったのだ。

 ほとんど使う予定はないが、クランハウスの管理は俺と契約をしているエルフ達がメイドとなり行う予定である。


 ドワーフたちはダンジョン内で武具を作る作業を優先したいと言っており、しばらくダンジョン内に籠る事になり、獣人に関しては、すでに獣人村に上手く溶け込むことができた。

 もちろんダンジョンに関する秘密は守ってくれている。


 さらに、プレンヌヴェルト村はバルバルを領主とした街としての認定も進めている。これはステッドリウス伯爵からの提案が大きかった。

 裏の思惑としてはルザルクの派閥をさらに盤石にするためというのが見え隠れしているが、それに関しては俺達も協力は惜しまない。

 獣人村の発足当初から、ここまでの発展をさせた立役者としてバルバルが祭り上げられ、獣人として初めての男爵への叙爵もなされるそうだ。


 人化のスキルを習得したメアとチェリーは、シンク教官からの研修期間を終え、2か月前に冒険者登録とパーティー登録を済ませている。


 生い立ちなどの設定を作ってはいたが、冒険者稼業を行っている者の中に過去を話したがらない者も多くいるため、特に深堀りされたりはしていないようだ。

 この二人には、違法に売買されてしまった亜人・獣人奴隷たちについての調査をメインにお願いしてある。


 【黒の霹靂】に関しては俺とキヌの二人でアルラインダンジョンをサクッと攻略し、3つ目のダンジョンコアを吸収した。

 ちなみにコアは『ウルス』という名前で、ウサギゾンビのぬいぐるみの姿をしている。


 アルラインダンジョンに関しては、すでに多くのパーティーに攻略されているという経緯もあるため、コアルームの隠蔽を強化した程度だ。コア吸収後もウルスに全てを任せ今まで通りのダンジョン運営を行ってもらっている。


 このダンジョンを吸収した大きい理由は、移動手段の確保だ。

 アルラインまでは通常の移動手段であれば1週間程度を要する。それが一瞬で転移できるようになるのは、それだけでかなり大きい。

 ダンジョンポイントに関しても通常の運営をしていれば入ってくるポイントの方が多く、貯まりやすくなっている。


 ここまでは順調のように見えるが、俺たち自身の強化に関しては全くと言っていいほどできていない。

 そのため、今後の計画を話し合うため、みんなにフォレノワールダンジョンに集まってもらった。


「みんなお疲れさん。ここ3か月は忙しかったが、皆のお陰で村やダンジョンが大幅に拡大された」


「思った以上に色々あって、流石に目が回りましたよ……というか本当に僕が男爵になるのは良いのですか?」


「適任だと思うぞ! 正直、バルバル以外は考えられないレベルだ。ただ、業務が多忙になるのは目に見えているからな、サポートする人員を増やした方が良さそうだな」


「はい、さすがに今の人員では厳しいですから、ステッドリウス伯爵が優秀な人材を数人紹介してくれるそうです。その方たちと会ってみて決めようかと考えております」


「そうだな。ダンジョンカメラを設置する広場の改築も終わったら、さらに人が増えてきそうだからな。その辺は任せるよ」


「分かりました」


「えっと、次はウルスの事だな。新しいコアだ。よろしく頼む」


「アルラインダンジョンのダンジョンコア、ウルスなの。よろしくなの」


 ウサギゾンビのぬいぐるみがペコッとあたまを下げている。

 それを見たキヌは無言でウルスをムギュっと抱きしめていた。

 キヌはウサギも好きなようだ。


「アルラインダンジョンはE~Cランクの冒険者が多く探索している。このまま初心者~中級者用ダンジョンとしての運営を任せているが、何かあったら念話で聞いてくれ」


「ブハッ! わかったの!」


 キヌの熱い抱擁ほうようから顔だけ抜け出し、ウルスが返事をしている。

 キヌ……離す気はないんだな。


「一応ここからが本題なんだが、今後の【黒の霹靂】としての活動方針だ」


「ん。魔族のゾアの件もある。それに私たちの目標は最強になること……」


「そうっすね! ってか正直キヌねぇさんとシンクねぇさんが二人でも敵わなかったってのは、さすがに驚愕したっす……」


「それでだ。俺達が強くなるには、やっぱりダンジョン攻略だと思う。しかも超高難易度のダンジョンだ」


「ということは、以前から阿吽様が仰っておられたウィスロの未踏破ダンジョンを攻略しにいくという事でしょうか?」


「そうだな。ただ、俺もイブルディア帝国には一度も行ったことはない。

 ウィスロダンジョンに関しても噂や行ったことのある冒険者からの情報を聞いたことがある程度だ。

 しかも、アルト王国と帝国は、5年ほど前から冷戦状態にあると聞いている……」


「たしかに……ここ最近は不穏な動きが多いって聞いたことがあるっす」


「まずはイブルディアに入国できるようにしなきゃだな。一度ルザルクに相談してみるよ」


 その後は、ステッドリウス伯爵から紹介してもらった文官たちと会い、正式にプレンヌヴェルトの街化計画への参加とバルバルのサポートをしてもらうことを取り決めた。


 翌日、ルザルクに面会を求めるため、通信型魔導具で王城へ連絡を行うと、ルザルクから「ちょうど連絡しようとしていた。すぐに来て欲しい」と返事があった。

 指定された場所は、“黄金の葡萄亭206号室”。


 何かあったのだろうか……と考えながら、すぐにアルラインへと向かう事になったのだった。

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