第41話 演技派の立ち回り


 奴隷商の場所はすぐに分かった。注意深く聞けば街中で噂になっているため、冒険者らしき男に少し金を渡したらすぐに教えてくれた。

 場所は北区の裏路地に入った所にあるようだ。北区といえば貴族や大商人などの屋敷が立ち並んでいるところだったはずだが、まさかそんな場所に奴隷商があるとは闇深さを感じる。


 なるべく顔が分からないようにフードを被り、気配を消しながら移動する。

 奴隷商に入ると小太りで髭を生やした中年の男が揉み手で近付いてきた。


「いらっしゃいませ。今日はどんな奴隷をお探しで?」


「そうだな。俺はこの街が初めてなんだ。どんな奴がいるか、見せてもらってもいいか?」


「それはもう。是非ご覧ください。お探しは女性ですかな?」


 ニヤけた顔で聞いてくるが好都合だ。


「そうだな。どんな娘が居る? あぁ、心配しなくても金はある」


「おっほー! それでございましたらエルフなんかいかがですかな? 勉強させていただきますよ?」


「まずは見せてもらってもいいか? あと、犯罪奴隷を買う気はないんだが……」


「それは大丈夫でございます! 大きい声じゃあ言えませんがねぇ、犯罪奴隷以外も別室に取り揃えておりますので、へへ……」


「そうか。ならさっそく頼む」


 そう言うと奥の部屋に通され、さらに地下への階段を奴隷商に付いて降りていった。警備は厳重であり鍵が掛かったドアを2枚通ると檻の中に5人の女性のエルフが入れられている。その奥にはドワーフと思われる男女や獣人の女の子も数人檻に入れられていた。


 部屋の中を観察していると、階段の上から騒ぎ声が聞こえてきた。


「っく! 離しなさい! 私は、奴隷なんかにっ!」


「ん? えぇっ!?」


 声の方を振り返ると思わず声が出してしまった。

 そこには男に腕を掴まれ、連行されながら身をじらせているワンピース姿のシンクが居た。

 しかも耳が長く、パッと見はエルフにしか見えない。


「どうかなさいましたか?」


「いや、なんでもない。それよりあのエルフは?」


「げっへっへ……上玉でございましょ? つい数分前に入荷された者でございます。お客様は運がいい!」


「あいつと少し話をさせてもらっても?」


「かまいませんよ? ただし、檻の中と外にはなりますがね」


 そう言うと奴隷商は俺の一歩後ろに下がった。離れる気はないようだ。


「おまえ、名前は?」

≪おい、シンクお前何してるんだ?≫


「あなたに名乗る名前なんか無いわっ!」

≪潜入捜査でございます。完璧な変装と演技だと自負しております≫


「生意気なヤツだな。でもまぁ気に入った」

≪いや、演技も変装も完璧だけど、やり過ぎだろ≫


「フンッ、あなたなんかに気に入られたくないわ!」

≪大丈夫でございます。これが確実に解放された奴隷たちの居場所を知る方法ですので。それにこんな所、その気になればすぐに脱出できます≫


「ほぅ? そんな気の強いところも……良いな」

≪まぁ……そうなんだろうけど、危なくなったらすぐに抜け出せよ?≫


「汚らわしい目でこちらを見ないで!」

≪了解いたしました。ここはお任せください≫


「おい店主! コイツはいくらだ?」


「お気に召しましたか? 来たばかりで調教もできておりませんので、金貨90枚で勉強させていただきます」


「足元を見るな。確かに上玉ではあるが、金貨80枚も出せば十分だろう?」


「いやはや、お客様には敵いませんね。それでは金貨85枚でいかがでしょう? 奴隷契約もサービスしますよ?」


 これなら明日までシンクをここに留まらせる事もできそうだな。

 ついでに少し殺気を入れて奴隷商を脅しておくか。


「フッ、ならそれでいい。ただし、今はそんなに手持ちがない。明日の晩に必ず買いに来る、それまで丁重に扱っておけ。間違っても傷つけたりしたら……許さんぞ?」


「は……はい! それはもう! 分かっております! 明日の晩ですね。お待ちしております!」


 そう言うと奴隷商に店の外まで丁重に案内をされ、深々と頭を下げて見送られた。

 これで闇営業を行なっている事実は確定した。さらに明日奴隷が解放された際に、もし見失ってもシンクが念話で案内をしてくれるだろう。


 それにしても……シンクは自分を犠牲にし過ぎている。確かに一般の人間がどうこうできるレベルとステータスではないのは分かるが、気持ちとして何か許せない。シンクは帰ってきたら説教だな。


≪キヌ、ドレイク二人はどんな感じだ? こっちは闇営業の事実を掴んだ≫


≪私の方はまだ見つけられてない。北側にはなさそう≫


≪俺も空から探してますけど怪しい人物は居ないっすね≫


≪そうか。じゃあ二人は一旦部屋に戻ってきてくれ≫


≪シンクねぇさんはどうしたんっすか?≫


≪……それも部屋で説明する≫


◇  ◇  ◇  ◇


 その後20分ほどでキヌとドレイクも部屋に戻ってきたため、奴隷商で起こったことを説明した。


「マジっすか……シンクねぇさん、めちゃくちゃしますね……」


「シンク、帰ってきたらお説教……」


 キヌが珍しく怒っている。俺と同じ気持ちのようだ。ただ、シンクのおかげで明日の行動が行いやすくなったのは事実だ。


 その後ドレイクはもう少し見回るという事になり、俺とキヌはシンクと念話で情報の整理をしつつ明日に備える事になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る