第42話 奴隷商襲撃


 次の日の夕刻、俺たちはそれぞれの配置についていた。

 ドレイクは空から、俺とキヌも奴隷商が確認できる場所で気配を消して奴隷商周辺の監視をしていた。もちろん全員服装は一般的なものに変えている。


 4時間ほど経過した頃、ドレイクから念話が入った。


≪一人怪しい人物を発見したっす。気配を完全に消してるヤツが、兄貴の居る2つ先の路地裏に潜んでるっす≫


≪わかった。ドレイクはそいつの監視をしててくれ≫


≪了解っす≫


 そろそろ動きがありそうだ。


 それから数分すると、奴隷商の入口に立っている見張りが声も出さず急に倒れ込んだ。


 鮮やかな動きだ。集中して見ていなかったら気付かなかったかもしれない。

 超高速で見張りの男に近付き、首の後ろを手刀で一撃。

 さらにもう一人の見張りも同様に気絶させた。

 ただ、ここからは単独では大変そうだ。

 シンクからの情報では内部の警戒はかなり強化されており、昨日の倍以上の人数が店の中にいるらしい。俺の出番かな。


≪ちょっと行ってくる。二人はこのまま監視を継続してくれ≫


≪ん。わかった≫ ≪了解っす≫


 俺は【疾風迅雷】を発動し襲撃者に接近すると、驚いたようにナイフを向けてくる。

 この速度に反応されたのは初めてだ。

 俺が襲撃者に警戒されるのは当たり前だが、なんとかして協力体制を作りたい。


「まてまて、俺はお前に協力しようと思って来ただけだ。俺の仲間も既に内部に潜入している。ちょっと俺の話を聞いてくれ」


「お前は何者だ。ゆっくり話なんかしている時間はない。それに協力者だと、どうやって証明するのだ」


 侵入者はフードを被っているが女性であることは分かった。

 フード付きのクロークを鑑定すると、認識阻害の特殊効果が付いている。だからこれまでの襲撃で誰も顔が分からなかったのだろう。

 かなりレアなアイテムだが、それだけ本気だという事も分かった。


「証明って言われてもなぁ。まぁそうだな……お前と敵対しているなら、わざわざ近付くだけ近付いて攻撃しないって事はないだろ? やろうと思えば、さっきお前のこと殺せたぞ?」


「……っく。確かに殺気は感じないし、近付いた時に攻撃しようと思えばできた……」


「この中はかなり警備が厳重になっている。一人じゃキツいんじゃねぇか? 大人しく協力しようや」


「……時間があまりない。明日には大勢のエルフ達が売られるという情報も掴んでいる……どうするつもりだ?」


「協力体制成立って事でいいな? 俺は阿吽だ、よろしく。

 作戦は、俺が中に入って奥の部屋の鍵を開けさせる。そのための仕込みは昨日済ませておいた。俺が入った数分後に入ってきて中の警備を無力化してくれ」


「私はネルフィー……もし裏切ったら絶対許さない」


「大丈夫だ。裏切ることなんか絶対しねぇよ。んじゃ、数分したら行動を起こしてくれ」


 そう言って俺は堂々と奴隷商の中に入っていった。

 中には昨日の倍ほどの人数が待機していた。数人は腕の立ちそうな男も居る。確かに警戒レベルがかなり上がっているようだ。

 気にせず奥に進んでいくと、奴隷商の店主が近づいてきた。


「これはこれは! お客様、お待ちしておりましたよ!」


「あぁ、待たせてすまなかったな。昨日の女とすぐ会えるか? もう一度見てから支払いをしたい」


「はい! それでは地下へ向かいましょう!」


 奴隷商の後ろを歩きながら訪ねる。


「昨日より見張りが多いようだが、何かあったのか?」


「いえ、大丈夫でございますよ。少し気になる噂があったので、見張りを増やしただけでございます」


「そうか。ならいい」


 2つ目のドアの鍵を奴隷商が開けたタイミングで上の階から喧騒が聞こえてきた。どうやらネルフィーが暴れ出したようだ。


「何事だぁ!?」


「店主どうする? 上の様子を見に行くか?」


「そ、そうでございますね。お客様は先に奴隷と話をしていてください」


 これで2つのドアを両方開錠させることができた。あとはネルフィーの腕次第だな。さっきの手際を見る限りでは大丈夫そうだが、もし失敗しそうなら助けることにしよう。


 それから2分ほどすると上の階が静かになり、ネルフィーが一人で階段を下りてきた。全く問題なかったようだ。

 さらに檻の鍵もバッチリ獲得してきている。戦闘能力だけでなくシーフとしての能力も高いみたいだな。


「奴隷を解放した後はどうするんだ? 結構な人数だが、どこかで匿(かくま)ってるのか?」


「あぁ、東区にアジトがある。とにかく今は、捕えられている者たちを檻から出してアジトに向かおう。今後の事はそこで話す」


 その後キヌ、シンク、ドレイクも手伝いに加わり、全ての誘拐された奴隷を解放した。

 そして、東区のアジトまで気付かれないように路地裏を経由しながら移動を行うのであった。


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