第43話 ミラルダからの脱出


 ネルフィーのアジトはミラルダ東区の路地裏にあった。

 以前は宿屋兼酒場として使われていたであろう建物だが、外から見ると建物の劣化も相まって廃墟に見える。

 中に入ると10名のエルフやドワーフ、獣人たちが居た。今回解放された人数を合わせると全員で25人になる。

 怯えていたようだが、ネルフィーや解放された人たちを見ると笑顔になっていた。家族と再会できた者もおり、涙を流して喜んでいる。


「さて、まずは自己紹介といこうか。俺達4人は【黒の霹靂】というSランクの冒険者パーティーだ。

 大きいのから順にドレイク、シンク、キヌという。よろしくな」


 俺が代表して挨拶すると、ネルフィーが深々とお辞儀をした。


「先ほどは疑って悪かった。私はネルフィー、ダークエルフ族だ。この度は助けていただいて感謝する」


 フードを外しゆっくりと顔を上げると、褐色の肌に金色の瞳、銀髪の女性が微笑んでいた。


「いや、あの状況で疑われるのは当然だ。それよりもこれからの話をしよう。まず、ここからどこか行く当てはあるのか? ここに留まり続けると、いずれ見つかる事になりそうだが……」


「いや、実は……もう行くところがないんだ。これから全員でどこかの森に逃げ込み、そこで生活しようと考えていた」


「ちょっと待て。お前らはどこから来たんだ? 古郷には帰れないのか? 何なら俺たちも手伝うが……」


 攫われてきた者の中には子供もいる。それならどこかに住んでいた村や街があり、家族も居るはずだ。


「古郷は、この街の西にある幻惑の森の中にあったんだが……今は壊滅してしまっている……」


「え? 幻惑の森って、頻繁に木々や地形が変化するからエルフでないと道に迷うって聞いたことがあるぞ。一体何があったんだ?」


「そこはエルフやダークエルフの案内なしには決して村にはたどり着けない、そんな森のはずだったのだ……。

 しかし、ヤツらが突然現れ、村を焼き、抵抗した男たちは殺され、エルフや一緒に生活していたドワーフ、獣人の女子供を攫っていった」


「ヤツら? 犯人はわかるのか?」


「直接見てはいない……私も冒険者なのだが、クエストを終え村に帰ってきたら、すでに村は壊滅した後で……。

 ただ、攫われた者に聞いたのだが、主犯の中に赤髪で炎の剣を使っていた男が居たと。名前は……ブライド」


「赤髪で……ブライド、だと……?」


「兄貴! 赤髪の男って俺に魔剣をぶっ刺した野郎じゃないっすか!」


「阿吽……大丈夫?」


「あ、あぁ。……ネルフィー、その情報は間違いないのか?」


「恐らく間違いないはずだ。

 ミラルダに連れてこられている最中に、冒険者と奴隷商の男が話しているのを聞いていた子供が居た。そのときに名前を口にしていたそうだ」


「……そうか。実は、その名前の男に心当たりがある。おそらくドレイクに魔剣を刺したのも同一人物だろうな。ただ、この話は安全に避難できた後にしよう」


「そうだな。それで阿吽たちに相談なのだが、どこか安全に避難できる場所はないだろうか? 勝手な事を言っているのは百も承知だ。だが、頼れるのはもう阿吽たちしかいないのだ……」


「うーん……一応、移動に関しても居住場所に関しても解決できる方法はある。だが、奴隷にされそうになってたヤツらにコレを提案するのは……正直心苦しい」


「なに!? どんな方法だ! どうせここに留まっていても捕まるだけ。それにこの人数を街から外に出すにもかなりの危険が伴う。それを安全に解決できるなら、皆も受け入れてくれるだろう!」


「……じゃあ、俺たちの秘密をネルフィーに話す。他言しないと誓ってくれ」


「もちろんだ! なんなら私が阿吽の奴隷となってもいい! そうすれば奴隷契約で私の口を封じることも出来よう!」


「いや、そこまでは強制しない。あくまで俺達とお前の信頼で十分だ。ただ、覚悟は伝わった。

 ……実は、俺はダンジョンを管理しているダンジョンマスターだ。そしてダンジョンの機能に従属契約というものがある。これをすれば、俺の管理しているダンジョンの安全な場所に転移することが可能なんだ。

 だから全員と契約を行えば一瞬でダンジョンの居住エリアに転移することが出来る。もちろん俺たちも同行するから安心してくれ」


「ん。私たち三人も阿吽と契約をしてる。阿吽すごく大切にしてくれる」


「ダンジョンマスターだと……?

 その存在は一族の長老から昔話で聞いたことはあるが……長命のエルフ族やダークエルフ族にもなった者は居ないと言っていた。

 ……そうか、なら全員と契約をしてくれ」


「いいのか? いつでも解除は出来るが、従属状態となるんだぞ?」


「構わない。そのダンジョンの中で暮らすことができるのか? というか……言いにくいのだが、危険はないのだろうか?」


「危険はない。むしろ、もし侵入者が来てもダンジョンの魔物達が守ってくれるくらいだ」


「そうか、それならば問題は無い。みんなには私から説明をするとしよう」


「分かった。強制はしないでくれ。多分強制されても契約は出来ないだろうしな」


 その後10分ほどでネルフィーはエルフやドワーフ、獣人たちに説明を行なった。その反応としては、反対する者はおらず、むしろ喜んでいたらしい。

 その間に俺は、アルスとイルス、バルバルにも念話で経緯を説明し、すぐにアルスがダンジョンポイントで受け入れ準備を整えてくれる手筈となった。


 それから全員と契約し、キヌとシンクが先にフォレノワールダンジョンに転移。全員が転移できたのを確認してから俺とドレイクもフォレノワールに転移帰還した。


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