第40話 商業都市ミラルダの噂


 ドレイクと話し込んでいると、いつの間にか夕飯の時間になっていた。部屋のドアがノックされ外からキヌとシンクの声が聞こえる。

 俺とドレイクはすぐに部屋を出て女性陣と合流し、1階にある酒場へと降りていった。


 食事はサラダ、グレイトボアのロースト、ヒートマッシュルームとオニオンのスープ、デザートとシンプルなものであったが、どれも門兵の言う通り絶品だった。


 食事をしていると近くの席に座って飲んでいる冒険者の会話が耳に入ってきた。


「それ本当の話かよ。まだ正体つかめないんだろ?」


「本当だって! 街中で噂になってるぜ? 明日なんじゃねぇかってな」


 明日? 噂? 何の話だろうか。


「キヌ、シンク、街に出たとき何か噂があったか?」


「いえ、初めての街でしたので……」


「ん。何の話なのか全然わからない」


「んー、そうか。こういう時は直接聞くしかないんだけど、俺は初対面相手に話を聞きに行くのあんまり得意じゃないんだよな……」


「兄貴、それなら俺聞いてきましょうか? 一杯酒を奢るって話になりますが良いっすかね?」


「それは問題ないけど、ドレイク大丈夫なのか?」


「多分大丈夫っすよ! 行ってきますね!」


 そう言ってドレイクは席を離れ、冒険者達のテーブルに近付いていくと数分で輪の中に溶け込んでいる。


「あいつ、すげぇな……」


「ん。レクリアでも他の冒険者達と一番仲良くしてた」


「マジか。才能ってやつなんだろうな」


 それから10分ほどでドレイクは俺達の席へと戻ってきた。


「兄貴、わかったっすよ! どうも先週あたりから奴隷商のアジトを襲撃して、奴隷を解放して回ってるヤツがいるそうっす。

 ただ、誰も姿を見たことが無くて、襲撃された奴隷商たちは全員気絶させられてたっていう話っすね」


「奴隷商か、ミラルダにもあるんだな。ってか誰にも姿を見られてないってどんな凄腕なんだよ……。んで、明日ってのはなんなんだ?」


「この街には3つの奴隷商があるらしいんっすけど、まだ襲撃を受けてない奴隷商を襲撃するのが明日の夜なんじゃないかって話っすね!

 あと、そいつ犯罪奴隷だけは助けてないそうで、あくまでさらわれてきたエルフやドワーフなんかの亜人や獣人だけを助けてるから、一部では英雄扱いされてるみたいっす!」


「そうなんだな。ドレイク、情報収集ありがとな!」


「全然。これくらいの事ならいつでも言ってください!」


「おう! 頼りにしてるぜ。あと、みんなメシ食い終わったらちょっと俺たちの部屋に集まってもらっていいか? 気になる事があるんだが、みんなの意見を聞いておきたい」


「ん。わかった」 「わかりました」 「了解っす!」


 その後、食事を終えた俺達は宿屋の部屋へ集まり話を再開した。


「まず、この国は基本的に奴隷の売買は禁止されていない。だが、それは犯罪奴隷に限った事だ。ただ、さっきの話を聞く限りでは闇営業を行なっているって事になるんだが、これをこの街を治める貴族が知らないわけがない。そうなると、貴族に裏金が渡っていると考えて良いだろう」


 さらにそれが街中で噂になっていると言うのであれば、貴族が奴隷商の闇営業を見逃している事に対して信憑性しんぴょうせいが出てくる。一応確認は必要だが、それはすぐにでもできるだろう。


「んで、だ。みんなに確認したい事は2つだ」


「阿吽。多分確認する必要ない。全員阿吽と一緒の気持ち」


「そうですね。以前も申しましたが、わたくしに確認や了承は必要ありません」


「俺もっすね! 兄貴が言いたい事、もう分かってますし」


 三人が口を揃えて言う。

 正直驚いたが……俺は本当に幸せ者のようだ。


「そっか。んじゃあ俺の気持ちをみんなに伝えるだけで良いな……。

 正直、誘拐して何の罪もねぇ奴らを奴隷にする奴隷商に対しても、それを容認する貴族に対しても“胸糞悪ぃ”って感情以外出てこねぇ。

 だが、街中の奴らが見て見ぬふりをしてる中で、どんな理由があるのかは知らないが、独りでそれに立ち向かってる奴が居るって事に胸が熱くなった。……俺は、そいつや解放された奴隷を助けたい」


「ん。さすが阿吽」


「兄貴、困ってる人を見過ごせないっすもんね」


「何なりとお申し付けください。完璧に遂行して参ります」


「それで阿吽、作戦どうするの?」


「そうだな……まずは今晩、正確な情報を収集しよう。それと、多分難しいと思うが奴隷を開放してるやつと接触できたらしておきたい。無理なら明日陰からサポートする事になる。

 ただ、気になってるのは、奴隷商もこの情報を掴んでいるだろうという事と、解放された奴隷たちがどこに居るのかだ……」


 そこでシンクが手を上げた。


「解放された奴隷の居場所については、わたくしが探して参ります」


「ん。私もシンクと別の場所を探す」


「わかった。二人とも無理はすんなよ? となると、後は俺とドレイクだが……俺は奴隷商に行って本当に闇営業をしているのか探ってくる」


「じゃあ俺は解放して回っている奴を空から探してみるっすよ! もし分かったら念話で伝えるっす!」


「よし、じゃあ今から動くぞ」


 役割分担が決まると、三人はすぐに部屋から出て行った。

 さて、俺も目立たないように、アルスに貰った冒険者用の装備一式に着替えてから、潰されてない奴隷商の場所を聞き込みに行くか。


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