第8話 ダンジョンコア食ってみた!
長い階段を上り切ると部屋の中心に泉があり、小島へと続く木製の橋が架かっている。
周りの壁や床にはダンジョン内にもあった光る植物が生い茂り神聖な雰囲気を醸し出していた。
「泉の中心にあるのは祭壇か?」
導かれるように祭壇へと歩き出す。不思議と不安や恐怖感はなく、なんとなく懐かしい感覚がしていた。
小さな祭壇に着くと、目の前に虹色に輝く小さな玉が浮かんでいる。自然と手に取り眺めていると、突然“ある者”が笑顔で俺に語り掛けるイメージが浮かんできた。
(食っちまえよ☆)
「え!? ゾ……ゾンビ先輩……」
混乱しながらも、もう一度小さな玉を眺め……目を閉じる。
やはり脳裏に浮かぶのは、親指を立ててニコやかに微笑みかけてくるゾンビ先輩。
「……そうだ。先輩は、常識という名の鎖を断ち切ってくれた……
先輩の教えがあるから、今の俺が居るんだ!
いっただきまぁぁぁぁす!!」
――ゴクンッ……
≪ダンジョンのコアの吸収が確認されました。以後『フォレノワール迷宮』のダンジョンマスターは個体“百目鬼 阿吽”となり、必要値まで知力が向上します≫
「え? ダンジョンマスター?」
≪分体コアの生成を開始します≫
進化の時と同じように脳裏に情報が流れてくる。すると俺の腹から光の玉が出てきた。
光の玉は形を変えながら、徐々に光が収まっていく。
そして目の前の祭壇に座っていたのは……鮮やかなピンク色と薄い緑色のアンバランスにツギハギされた2頭身の体、可愛らしくデフォルメされた丸い顔に垂れた三角の耳、丸鼻の……
“豚ゾンビのぬいぐるみ”だった。
「ぬ、ぬいぐるみ?……ハッ! これはゾンビ先輩の化身!?」
「この、たわけがぁぁぁ!!! わらわを食らうとは何事じゃぁぁ! 危うく、“うんち”になるところじゃったわぁ!」
「あ、あなたは、ゾンビ先輩なのですか!?」
「ぬ? ゾンビ先輩とは誰じゃ……? わらわの名前はアルス! ダンジョンコアなのじゃ!」
ぬいぐるみが立ち上がって、腕組みしながらドヤってる……
え? ゾンビ先輩をご存じでない?
てかなんでぬいぐるみが動いたりしゃべったりできるんだ?
でもまぁ人間が魔物になるくらいなんだ。そんなことくらい普通か。
「アルス? なんだ、先輩じゃないのか。ところでアルス、ダンジョンコアってなんだ?」
「き、急にふてぶてしくなったのぅ。まぁよい。ダンジョンコアとはマスターが居ないダンジョンを管理しているモノじゃ。基本的にダンジョンマスターなんぞ百年に一人くらいのものじゃからな。今までは喋ったり動いたりなんてできんかったがのぉ。おぬしに食われてからなぜかできるようになったのじゃ」
「そうなのか……んー、それでダンジョンマスターってのは、何ができるんだ? このダンジョンから出たいんだけど、それはできるのか?」
「では、色々と説明しようかの。まず、このダンジョンの正式名称は『フォレノワール迷宮』というのじゃ。そして、ダンジョンマスターとは“この迷宮の支配者であり管理者”ということじゃよ。ダンジョンマスターは魔物の召喚・回収、階層・部屋の作成、宝箱の生成、ダンジョンポイントがあれば大概のことはなんでもできるのじゃ。“このダンジョンから出られるか”じゃが、それは可能じゃ。ただし、この部屋に居ない間は先ほど説明したことはできぬから注意するのじゃぞ? まぁ、わらわにある程度の権限を与えてくれれば、おぬしの代わりにやることもできるがのぉ」
「そっか、じゃあ全部任せた! ってかダンジョンポイントって?」
「なんじゃ、よいのか? ならば任せておくがよい! ダンジョンポイントはこのダンジョンで生成された魔物やダンジョンマスター以外の生物が、このダンジョンに入っている合計の時間や死亡者の数に応じて増えるポイントじゃ! それで階層を増やしたり部屋を作ったり、アイテムを生成したりするのじゃよ。アイテムの作り方は……まぁ、わらわがやるから説明は不要じゃな」
「ほぉ……え? それってめちゃくちゃすげぇ事じゃ? んじゃ試しに俺の服作ってくれよ! できれば、この角が隠せるようなやつ」
「そうじゃなぁ、それくらいならポイントもあるが……。実はのぉ? おぬしが来てくれたから、そこそこポイントは貯まったんじゃが……今はそんなにポイントが残ってないのじゃ……」
「ん? あー、もしかしてこのダンジョン俺が初めて入った……?」
「正解なのじゃ! こんな辺境じゃからかの? 人も来ぬのじゃよ。それでのぉ……言い難いのじゃが……少しばかり魔物を自動生成にして休んでおったら、レッドオーガが生成されてたらしくてのぉ。それでポイントがあんまり無いのじゃよ……」
「あ……あれお前の仕業かぁ! 寝てたって……んーまぁでも、生きてるから良いや! 許す! んで、レッドオーガがダンジョンに吸収されたのは、ポイント回収か?」
「それは少し違うのじゃ。死んだ魔物も回収すれば、回復させてまた召喚可能だからじゃな」
一応安全な拠点ができたって考えれば十分か。
それに、話し相手が居るって結構良いもんだな。ぬいぐるみだけど……
あ、そういえば泉があったな。自分の姿見てくるか。
「そうか! ある程度分かったよ! ちょっとソコの泉に行ってくるから服よろしくな!」
「わかったのじゃ!」
さて、どんな姿なのかね? 少し怖いけど何か楽しみだな!
泉の水は澄んでおり、光る植物のおかげで明るさも確保されていたため、周囲を綺麗に反射させていた。
「さて、ご対面……うぉ。これは……予想外というか何というか……」
水に映った自分の顔は手足同様、色白で非常に整った容姿であった。
髪は全体的に銀色に光っており、毛先にかけて緑色のグラデーションになっている。
額には2本の立派な角が生えているが、髪の毛やフードで隠せば、街に入るのに問題はなさそうだ。
「16歳くらいの見た目か? 若返ってる、ってか別人……うーん、人間の時の面影は全くねぇな……未練はねぇけどさ」
「なにを見ておるの……じゃ? ぬぬぬ? こ……この姿、わらわなのか……?」
「あー、そうだな……その、なんだ……」
「な、なんて愛らしい! ぷりちーな姿なのじゃぁぁぁー!」
「お、おぅ。気に入ったなら良かったよ……あー、それよりも服はどうなった?」
「おお! そうじゃった! できとるぞ、ほれ!」
アルスが渡してきたのは全て黒色で統一された冒険者用の服一式とフード付きの黒いクロークだった。
「無難な感じで良さそうだ。ありがとな」
「よいのじゃよ! それで、これからどうするのじゃ?」
「そうだな……実は、もう1つダンジョンの場所を知ってるんだよ。少し休んでから殴り込み行ってくる」
「そうなのじゃな! あ、そういえばダンジョンマスターの能力の説明で言い忘れたことがあるのじゃが、説明してもよいかの?」
「ん? 能力? 一応さっき聞いたことは、なんとなく理解してるから大丈夫だぞ。このまま説明してくれ」
「うむ。ダンジョンマスターの能力は大きく分けて2つなのじゃ。まず1つ目は『迷宮内転移』と『迷宮帰還』じゃな。このダンジョン内であればどこでも自由に行き来できて、ダンジョン外からの帰還も転移で一瞬なのじゃ。凄いじゃろ?」
「ふむふむ。続けてくれ」
「2つ目は『従属契約』じゃ。分かりやすく言うと“スカウト”じゃな。おぬしがスカウトし、相手が受け入れれば成立じゃ。すると従属者におぬしの魔素の一部が流れ込み、魔素同士のつながりが生まれるのじゃよ。そして使えるようになるのが“念話”じゃ。離れていようとも、言葉を介さずとも、会話ができるのじゃよ」
≪こんな感じにのぉ≫
「うぉ! びっくりした!」
「わらわも一度おぬしに取り込まれたからの、つながりができておるのじゃ。ちなみにじゃが、従属者も迷宮内転移や迷宮帰還が可能じゃよ」
「一気に情報量が増えたな……えーっと、できるようになったのは『迷宮内転移』と『迷宮帰還』、あとは『従属契約』と『念話』だな。よし、覚えた。こんなもんか? これ以上はさすがに覚えれねぇぞ?」
「大丈夫じゃよ。細かいことは、追々教えるのじゃ」
「わかった。ありがとな。んじゃあ、着替えてステータス確認したら、少し寝てくる」
「うむ。ではダンジョンポイントで寝床を作っておくとしようかの。おやすみなのじゃ!」
こうして俺は、ようやく安全な拠点と、数日ぶりの睡眠を手に入れた。
夢の中でも微笑みかける、ゾンビ先輩に感謝を捧げながら……
〈ステータス〉
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】鬼人
【状態】—
【レベル】25
【HP(体力)】1000/1000
【MP(魔力)】610/610
【STR(筋力)】47
【VIT(耐久)】20
【DEX(器用)】10
【INT(知力)】61
【AGI(敏捷)】65
【LUK(幸運)】35
【称号】迷宮の支配者
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・体術(Lv.2)
・大食漢
・剛腕
・俊敏
・品評眼
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〈装備品〉
・赤鬼の金棒
・迷宮探索者のシャツ
・ブラックバイソンのレザーパンツ
・暗殺者のクローク
・ブラックコンバットブーツ
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