第7話 ダンジョンボスと戦利品

~阿吽視点~


 チキンな豚野郎には一瞥いちべつもくれず、倒したオークジェネラル達を回収し、大きな扉の前へと向かって歩い行く。


「ボスって何の魔物なんだろうなー。俺の予想ではオーク種なんだが、最悪なパターンはオークキングかぁ。Aランクで、オークの中でも飛び抜けて強いらしいし……まぁ、行ってみないと分からん、突撃だな」


 一呼吸おいて扉に触れようとすると、大きな扉は建付けの悪そうな音とともにゆっくりと開いていった。

 部屋は今までで一番広く天井も異様に高い。一歩踏み出し中に入ると、ゆっくりと部屋に明かりが灯っていく。


 徐々に明るくなっていく部屋の真ん中にはCランクの魔物【オークバーサーカー】が3体並んでいる。

 その後方に立っている巨体は……。


「オーガ……オーク種じゃねぇのかよ!!! ってよく見たらレッドオーガ!? 変異個体……マジか」


 【レッドオーガ】は巨鬼オーガの変異個体でありランクはBランク上位。俺の身長の2倍はあるだろう巨体とそれに似合うサイズの巨大な斧を右手に持っている。

 その前に並んだオークバーサーカーも全員が両手に斧を持っており、攻撃力の高さが伺えた。

 いくらHPが1000を超えていても、その攻撃を食らえば戦況は著しく悪い方に傾くだろう。


「さて、まずはバーサーカーから仕留めてタイマンに持ち込むしかないな。レッドオーガは……あー、戦いながら考える!」


 剛腕と俊敏のスキルをかけ直し、一番左端にいたオークバーサーカーを標的に駆け出す。

 そして側面に回り込み殴ろうとしたが、一瞬嫌な予感が頭を過ぎり反射的に高くジャンプした。

 すると、今まで俺が居たところに巨大な斧の薙ぎ払いが走った。


「マジかよ! バーサーカーごと切り飛ばす気だったのか……『ゴォォアァ!』オグッ!!」


 3体のオークバーサーカーの上半身と下半身が切り離されたのを見て、飛び退きながらも唖然としていると、レッドオーガの拳が俺めがけて飛んできた。

 咄嗟に両手で防御はできたものの、俺の身体は軽々と入ってきた扉の前まで吹き飛ばされてしまう。


「っくぅ! 両手がジンジンする、防御が間に合ったのは奇跡だなぁ。HPは残り545か。直撃1発でやられちまうなコレ…………」


 死を身近に感じると少なからず恐怖が芽生えそうになる。しかし、その恐怖心を抑え込むと逆に頭は冴えてきた。


「ふぅー、こんな時は爺ちゃんの言葉を思い出せ……『覚悟を決めろ! 気持ちで負けるな! 当たらなければダメージゼロ! バイブスぶち上げろ!!』 行っくぜぇぇぇぇぇぇ!!」


 最高速度で走り出し、落ちているオークバーサーカーの斧を2本回収。そのままの勢いでレッドオーガの左膝を狙い右手に持っていた斧を全力で振り切る。

 狙いは少し外れてしまったが、ふくらはぎに斧が突き刺さった。


「斧はまだまだあるぜ? お前が半分に切り飛ばした、豚のがよぉ!!」


 左手に持っている斧で、今度は左膝の裏を狙って筋肉を切り裂く。オーガは痛みに耐えながら左手で振り払おうとするが、俺はしゃがんで避けるとすぐに左足の甲を狙い、斧を叩きつけた。

 ぐらりと倒れかけたレッドオーガだが、片膝をつきなんとか持ちこたえている。


「まだまだ俺の攻撃は終わらねぇぞ!」


 大きくジャンプし上から後頭部に拳を叩きこむ。やはりレッドオーガは接近してしまえば小回りが利かない。圧倒的な耐久力があったとしてもスキルで1.5倍に上がっている俺の攻撃は、しっかりとダメージを与えているようだ。

 レッドオーガがゆっくりと前のめりに倒れるのを見た俺は、再び落ちている斧を両手で拾い、回り込んで右目に向かって斧を振る。


『ガァァッァアアァァァァ!!!!!』


「俺をその辺の豚野郎と一緒にしてんじゃねぇよ。早く本気出さねぇと、肉塊にして食っちまうぞ! オラァ!」


 レッドオーガの右手親指を切り飛ばす、腕の筋肉を削ぎ落とす、背中に斧を突き刺す、立ち上がろうとしているところに今度は右足の脛を叩き折る……


「オラオラオラァ! どうしたよ! デケェ図体は飾りか!?」


 機動力で優っている俺が攻撃をし続けていれば、レッドオーガは防御に回らざるを得ない。上がりまくっているテンションに任せて斧を振り回しレッドオーガは全身を血に染める。


 怒涛の連打の最後に頭蓋骨を斧で叩き割ると、レッドオーガはピクリとも動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ。ふぅー…………調子に乗ってやり過ぎたか……反省も後悔もしていないが、テンション上がりすぎると口が悪くなるのは、……んー、やっぱり直せんな!」


 少し休憩をしながら戦闘の事を思い返す。一方的に攻撃し続けられたが、武器が無かったら正直ヤバかった。攻撃力は十分かと思っていたが、Bランクを超えてくる魔物相手に素手は無謀だ。

 オークバーサーカーの斧は上がったテンションのままオーガを叩きまくったせいで、全てが使い物にならないレベルで壊れている。


 少し落ち着きを取り戻したタイミングでステータスを確認すると、レベルは23となっておりスキルが追加されていた。


【スキル】品評眼:武器、防具、装飾品の価値や名前、効果が分かる


 「これは武器屋の親父が言ってた便利スキル……ん!? あれは、宝箱!!! しかも……赤色!?」


 赤色の宝箱が床からゆっくりと出現した。それと同時に今度はボスがダンジョンに吸収されてしまう。ボスだけはダンジョンに吸収されるのか?

 食いたかった……


「よし、開けるか。あードキドキする。この宝箱開ける瞬間……たまらんわぁー。それじゃあ御開帳!!」


 宝箱を開けるとそこには刺々しい金属の塊が一本入っていた。鑑定すると……



≪赤鬼の金棒:攻撃力15。武器・防具破壊効果≫


「いろいろ最高すぎて、感情が追い付かない……ひとまず情報を整理しよう」


 まず【品評眼】のスキルだ。

 俺は街に入るのに大きな危険を伴う。容姿がどうなっているか自分では分からないためまだ何とも言えないが、なんといっても“魔物”である。そのため、アイテムの情報が分かるのは今後の必須スキルと言っても過言ではない。


 次に【赤鬼の金棒】だ。武器・防具破壊効果というのは、相手の武器や防具を殴った際に破壊しやすくなるという事なのだろう。攻撃力15がどの程度なのかは全く分からないが、鑑定によるとこの武器のレアリティーは『赤』である。


 “レアリティー”というのは、そのアイテムの希少性を現しており、希少性が高いほど強力な武器・防具であることが多い。

 レアリティーの色は、希少価値の高い順に『金 > 紫 > 赤 > 青 > 緑 > 白』となる。一般的に武器屋で売られているものが白や緑であり、ほとんどの冒険者は白や緑の武器を使用している。上級冒険者は青の武器を持っている者もいるが、赤となるとAランク以上の冒険者でも持っているのはほんの一握りである。


 ちなみに『魔剣フラム』のレアリティーも赤である。“人を殺してでも奪いたい、手に入れたい武器”というのは身をもって実証済みだ。紫や金の武器・防具ともなると伝説級や神話級とも言われており、1つの国に1本あるかないかという希少性だろう。


「他に鑑定できるものは、マジックバッグか。……え? 赤……?」


 レクリアの雑貨屋で、特売品の箱の中から適当に選んだものがまさかのレアリティーであった事に驚愕するも、オークを10体以上入れてもまだ入る容量のマジックバッグは、非常に希少な物だったらしい。

 他の冒険者はこのマジックバッグも白か緑ランクの物を使っているはずだ。


「どうせ白だろうと思って買ってから、一回も鑑定してなかったけど、これ売ったら大金持ちだったんじゃ……まぁ知ってても売らなかったか」


 情報の整理も終わり「出口につながっている魔法陣があるはず」と周囲を見渡す。そして部屋の一番奥に青白く光る魔法陣を発見し安堵した。


「オーク回収してから出よ! オークはどんだけあっても困るもんじゃないしな!」


 レッドオーガに斬り飛ばされ、散らばっているオーク肉を回収して歩いていると壁際に丸くて小さな突起を見つけた。


「なんだコレ? 妙に押し込みたくなる形状だ……でも罠が発動とか……うーん押したい、押しちゃおうかなぁ……あー、押す!」


――ググッ、ガコンッ、ゴゴゴ……


 押し込むと、隣の壁の形状が変化していき、さらに上の階につながる階段が現れた。


「え? ボス部屋って最上階じゃ……」


 不思議に思いながらも好奇心には勝てず、俺の足は自然と階段を上り出していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る