第6-2話 鬼人の実力 ~オークガード視点~

~オークガード視点~


 私は、このダンジョンで【オークガード】として生まれた。生まれてから今まで、どれだけの時間が経ったのかは分からないし、そんな事はどうでも良かった。


 一緒に生まれた他のオーク達と連携する戦い方も、自分の役割も、侵入者の殺し方も、すべて最初から知っている。今まで入ってきた者など居ないが、誰かがこの部屋に入ってきたら、どんな手段・方法を使っても殺せばいい。


 それは、誰に言われたでもなく“そうするのが当たり前”だとここに居る全員が認識していた。それができなければ、私という個体に価値など無いと思っていた。数分前までは……



 その男は突然やってきた。まるで散歩をするかのように。少し微笑みながら。


 私はジッとその男を見ながら、ジェネラルからの指示を待っていた。殺すために。

 決して目を離していないと断言できる。それなのに男が何かを呟くと突然消えたのだ。

 ……風が横を通り抜けたような気がした。その直後、後ろから轟音ごうおんが響く。振り返るとジェネラルが壁にめり込んでいた。


 何が起きたのか、全く分からなかった。混乱していると、また男が呟く。するとメイジの頭が弾け飛び、近くに居たはずのソードマンが消えた。再び轟音がする方を見ると、ソードマンも壁際で倒れ込み絶命している。


 ……なんだ? どうなっている? 全く理解できない状況の中、私の中に新しい感情が渦巻く。手が震える。足が震える。身動きが取れない。それでも視線は、その男から離せない。


 男は、こちらに向かって歩きながら話しかけてきた。言葉はなぜか“すべて”理解できた。



『向かってこいよ。俺はお前らの仲間を殺したんだぞ? 俺はこいつらを食うんだぞ?』


「ブムォォ……(食わ、れる……)」


『なぁ? お前悔しくないのか? オークに誇りはないのかよ? 来いよ、男だろ』


「グモ? グブモォ……(くやしい? 私は……)」


『……はぁ、もういいや……冷めちまったわ。そのまま一生逃げながら震えてろよ、豚野郎』


「フゴッ、グゥ……(豚、野郎……)」


 この男と話していたら分かってきた。“この感情”がなんなのか。

 恐怖? 畏怖いふ? 違う、そんなものではない!

 これは、憧憬しょうけい・尊敬・敬愛・崇拝すうはい。つまり『絶対的な強者への憧れや敬い』だ!

 私は、殺された仲間たちが羨ましいとさえ感じている!


 今なら解る。私は、この男に、この“御方”に、『私を食べていただきたい』のだと。自分という存在が、この御方の養分となりたいのだと!


 しかし……あの御方は行ってしまわれた。私という未熟で矮小わいしょうな存在など、あの御方の養分にはさせていただけないのだ。

 あの御方の御姿を、御声を、ご尊顔そんがんを、芳香ほうこうを、脳に焼き付けなければ……!


 ……そうだ。ダンジョンを出てもっと強くなろう。外の世界を知ってもっと賢くなろう。

 いつか、あの御方に食べていただけるように!


 そして願わくは、ただ一言お伝えしたい。


「私は……メス豚女性です」と。


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