第191話 ブライドとの再戦③
ブライドは一度後方へと飛び退き、状態を確認しているような素振りを見せている。今までは本能のままに戦っていた事で単純な攻撃しか仕掛けてはこなかったが、ここからは楽しませてくれそうだ。
ただ、俺が煽って言った言葉には嘘は含まれてはいない。ブライドのステータスを確認すると、防具以外に大したダメージを与えていないにも拘らず、HPがそれなりに減っている。これは恐らく【出血】の状態異常によるものではあるだろうが、ソレが呪いの防具由来のものであれば放っておいてもいずれはHPが全損し死に至るだろう。
自身のステータスを確認したブライドは忌々しそうに呪いの防具を見つめていたが、防具を無理に外そうとする仕草はなかった。呪いの防具を外す事でどんなデメリットがあるかも分からないからな。
……まぁ、そんなことは俺には関係ない。
「さて、第2ラウンドと行こうか!!」
「この俺を目の前にして余裕ぶるな!!」
ブライドの左手からは再び巨大な火球の魔法が放たれるが、今度は最初と違い魔法に隠れて自身も飛び込んでくる姿が一瞬見えた。これまでの考え無しとは明らかに異なるその動きに、自然と俺の口角も上がってしまう。
「そうこなくっちゃ!」
相手がどう来るのかある程度予測が付けば対処するのは容易だ。こちらの視界にブライドの姿が映っていないということは向こうからも俺の姿が見えていないということ。それを逆に利用しない手はない。
ここで俺が避ければ俺の背後にある住居は破壊されてしまうが、その中に民間人が居ない事は【探知】のスキルでわかっている。
であれば、別にどれだけ建物が壊されようが、俺にとっては割とどうでもいい。だが、ブライドは今までの俺の行動や発言から、俺が王都を壊さないように立ち回るだろうと考えているはずだ。
俺は火球を避けるため上へと跳び上がる。
弾くか防ぐかをするであろうと予測していたブライドは、俺の居た位置を通り過ぎても火球に変化がないことを不思議に思い、一瞬動きに迷いが生じた。
「【雷槍】」
ブライドの頭上から放った魔法は完全に相手の虚を突き直撃する。ただブライドは攻撃を食らいながらもこちらの位置を把握しフレイムランスを撃ち返してきた。やはり、呪いの防具で底上げされている分耐久力も以前より跳ね上がっているということか。恐らくだが胴体部分に装備されたアスピレーションソウルアーマーという防具が耐久値の底上げをしていそうだ。
なら、次に狙うのはアスピレーションソウルアーマーの破壊。しかし、これはちょっとばかし骨が折れる。思考力を取り戻したブライドであるならば、俺の動きで何を狙っているのか予想は付くはずだ。そうなると魔剣でのガードや相応の反撃をしてくる可能性が高い。確実にアーマーに打撃を与えるならば、それこそブライドの予測を超える動きをするか、さっきのように虚を突く必要がある。
何か良い手はないか、これまでの戦いや修行の中で身につけた技術に思考を巡らす。……すると、脳裏にゾンビ先輩の笑顔が思い出されてきた。
っ! そういえば、沈黙の遺跡でゾンビ先輩が教えてくれた『動きの緩急』、アレならばブライドの虚を突ける可能性がある。
確か……ゆっくりとした動きを織り交ぜながら、突然最高速の動きにシフトするテクニックだったはず。相当難易度は高いが、今の俺なら雷属性魔法と魔法障壁の技術を組み合わせればできるはずだ。
そこまで考えると、脳内のゾンビ先輩はとびっきりの笑顔と共に、親指をスッと立ち上げサムズアップをしてくれた。
ブライドとの距離は目測でおよそ15m、今は互いに動きを観察している状態。ぶっつけ本番だが、やってみる価値は十分にある。
まずは魔法障壁を張りつつもその魔力の割合のほとんどを足に集中させる。よし、ここまでは順調だ。だがまだ動いてはいけない。次が肝心なはずだ。
あの時のゾンビ先輩の所作を思い出せ……。あの動いているかどうかも分からない程のゆっくりとした動き。そして次の行動が予測もつかないような、一見無駄に見える動作をっ!!
俺は全身の力を抜き、両腕をダラりと脱力する。完全にノーガードになってしまうが、だからこそ敵は困惑する。そう、今のブライドのように。
足には既に十分な魔力が溜められている。ただコントロールがくっそ難しい! いつ暴発してもおかしくはないような状態で、ゆっくりと動くのは逆にめちゃくちゃしんどい。だがそれを表情に出してはいけない! ゾンビ先輩はこんな状態でもクールな表情を崩さなかった。きっとそれが敵の虚をつく秘訣なのだろう。
――わずか数秒にも満たない時間。これが俺の限界だった。浮かせていた右足で地面を踏み込むと、これまでと違う感覚が全身を駆け巡る。
そして気が付くと、俺はブライドの背後に回っていた。
(っ!? これはっ!!)
ブライドは背後に居る俺の存在には気付くことができていないどころか、まるで時が止まっているかのように無防備な状態。
俺はそのままの勢いを殺さず回転を加え、赤鬼の金棒をブライドの背中に叩き込む。すると、メキッ! という嫌な音とともにブライドが数軒の家を破壊しながら吹き飛んで行った。
「なんだ、今の不思議な感覚……スキルを発動した時に似てた気が――」
と、無意識に開いたステータス。そこには新たなスキルが追加されていた。
・スキル【
「ゾ、ゾンビ先輩……マジパネェェェーー!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます