第206話 革命の破綻
~フェルナンド視点~
「時間ギリギリだな、ルザルク」
「困った兄がいろんな仕事を作ってくれたからね。時間通りにココへ来るだけでも苦労したよ」
「ふん、減らず口は相変わらずだな」
指定した時間ちょうど、玉座の間にルザルクが一人で姿を現した。
民衆を人質に取っているとも言えるこの状況では、罠と分かっていたとしても私の言葉を無視することができなかったのだろう。まぁ、そういうルザルクの性格を踏まえた上での発言だったのだから当然の結果とも言える。
そして、ここまで来てしまえば、すでに計画は成就したも同然だ。
今の状況を作り上げるのには本当に苦労した。
全てが計画通りに進んでいたわけではないし、何より【黒の霹靂】が王都に来てしまった事で大幅な計画の変更を余儀なくされ、場当たり的に対処しなければならなかった事も多い。
まさに薄氷の上を歩くが如く、一歩間違えば全てが破綻してしまっていただろう。だが、それでも全ての状況をコントロールし、私が望んだこの現状を作り出したのだ。
さて、あとはここでルザルクを亡き者にすれば革命は完遂する。
玉座から立ち上がり周囲に目配せをする。この日のために様々な準備はしてきたが、私自身の戦闘能力はそれほど大きく上がったわけではない。ルザルクとのタイマンではどう足掻いても勝つことはできないだろう。そのため、この部屋には暗部の者を4名配置している。さらさらルザルクとのタイマンをする気など私にはないのだ。
……要は何をしても勝てさえすれば良い。
「さて、ルザルク。さっそくで悪いが……ここで死んでもらう」
「僕がそんな簡単にやられると思ってる? これでも兄さんよりは強いつもりだよ」
「あぁ、だがこれは兄弟喧嘩ではなく戦争だ。正々堂々と
私がそう言って合図をすると、2人の暗部が姿を現しルザルクに向かって弓を引く。
「やっぱりそうなるよね……。でも僕もやられるわけにはいかないんだ! それに2人くらいならっ!!」
放たれた2本の矢がルザルクに向かって一直線に飛んで行くも、それをルザルクは転がり避けると、剣を構えた。
なかなか良い動きをする。だが、背中ががら空きだ。勝負あったな。
隠れていたもう2人の暗部がルザルクの死角から一気に詰め寄り、ナイフをその背中に突き立てる。
こちらからでは良く見えないが……あのタイミング、あの角度で突き立てられた刃は確実にルザルクの心臓を貫いているだろう。
「案外呆気なく終わってしまったな。さすがにお前でも同時に4人の暗部は対処できなかっただろう?」
「くっ! こんなところで……、あれ? 痛く……ない?」
「……なんだ?」
何か様子がおかしい……。
刺されたはずのルザルクからは全く出血している様子もなく、倒れ込む気配もまるでない。それに攻撃したはずの4人の暗部は、まるで時が止まったかのように攻撃した姿勢のまま身体が硬直し動けなくなっている。
ただ、当人のルザルクさえもこの状況に困惑している様子だ。
「一体、何が……どうなっている!?」
「阿吽様の……仰っていた通りに、なっちゃった。……なら、仕方ないよね」
頭が追い付いていない中、必死に状況を整理しようとしていると、突然女性の声が聞こえたかと思うと黒髪に白色のメッシュが入ったロングヘアーの女が突然ルザルクの影から姿を現した。
言っている内容からすると、そいつは十中八九【星覇】の構成員。ともなれば優先的に叩くべきは……。
「ルザルクは後回しだ! 4人でその女を
「残念だけど……あなた達では、無理」
そう言って両手を胸の前で交差すると、暗部4人の身体が血飛沫と共にバラバラに切り刻まれ、カーペットが敷かれた床にその肉塊が散らばる。
女の手から伸びているのは血が伝い不気味に光を反射する複数の細い糸。こうなるまで、糸など全く見えなかった……。
「何なんだ……、一体お前は何なんだぁぁぁ!!!」
「私は、星覇のメア。……阿吽様から、“タイマンなら邪魔するな”って、言われてた、けど……」
「また……また雷帝かぁぁぁ!!」
「ここからは……邪魔しない。二人で決着、つける」
「そうか、阿吽が……。本当に阿吽にはいつも助けられちゃうな……。さて兄さん、決着をつけようか」
「……クソっ!」
「一気に形勢は逆転したね。観念することだよ」
いや、まだだ! まだ私には禁書庫に仕掛けた爆弾がある!
ルザルクがここに居るという事は、あの爆弾が解体されていないということ。時間的に考えても闘技場の爆弾を解体してから禁書庫の爆弾を処理することなど不可能!
アレが起爆すれば私も死ぬことになるだろうが……私の名前と思想は永遠にこの国に植え付けられる。
「残念だったな、ルザルク。私にはまだ爆弾が残っている。このスイッチを押せば30秒後にこの王城もろともお前も生き埋めだ!!」
「やめろ! そんな事して何になる!!」
「止めても無駄だぁぁぁ!!」
すぐにでも起爆スイッチを押さねばメアという女が動きかねない!
そう判断した私は、躊躇なく起爆スイッチを押した。
「フハハハハ!! これで革命は成されたっ!!」
「くっ……!」
「残りの時間ではもう何もすることもできまい! 精々私を本気にさせたことを後悔することだな!」
しかし、この絶望的な状況でもルザルクの目からはまだ希望の光は消えていない。
「チッ、本当に気に入らない目だ……」
「僕たちは、最後の1秒になっても諦めはしないっ!」
「ならば、その希望を抱いたまま死ねぇ!」
もうすぐだ! もうすぐ爆音とともに王城が崩れるほどの地響きが起きる!
「クハハハハ! 時間だ! この爆発が、革命の…………うん?」
爆発するはずの30秒はとうに経過しているはず。にもかかわらず一向に地響きも爆発音も何も聞こえてはこない。
「なっ……!? 爆発が……起きない?」
私が作成した爆弾は完璧だったはず。作成に塵ほどのミスも冒してはいないと断言できる。
……ではなぜ爆発が起きない!?
「阿吽、何とか間に合ったみたいだね……。良かった……」
「っ!! 貴様ら!! 私の爆弾に、なに――ンガッ……」
混乱のまま恫喝しようとしたが、後頭部に大きな衝撃を受けると思考が急に纏まらなくなっていく。
そして、徐々に意識が遠退いていくのを自覚し全身に力を入れようとするも、その意図とは裏腹に身体からは力が抜けていった。
「クソ……が……」
――この数分の間に、私の知らない所でいったい何が起きたというのだ……。
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