第207話 死蔵


~阿吽視点~


――数分前――


 ルザルクが玉座の間に到着する直前、禁書庫には俺の他にドレイクとチェリーが到着していた。

 爆弾の解体作業は、ルザルクの指示のもと盗聴器の無効化まで終える事ができ、取り付けられている柱からの取り外しを行っている段階だ。


 ルザルク無しでの完全な爆弾解体は到底困難であり、残された時間もそれほどない。だが、取り外す事さえできれば取れる選択肢の幅は広がる。


「兄貴、間に合いそうっすか?」


「何とかコイツを柱から取り外さねぇと、この王城もろとも俺達も生き埋めだな」


「阿吽様ぁ、それはさすがにヤバくないですかぁ!?」


「あぁ、どれくらいの威力がある爆弾なのかは分からねぇけど、この王城が崩れてしまえば暴力的な質量に飲み込まれることになる。全力で防御障壁を張ったとしても、タダでは済まねぇだろうな」


「わ、私……、防御障壁はまだ苦手なんですけどぉ……」


「最悪の場合はドレイクがチェリーを守ってやってくれ。俺はこの爆弾に集中する」


「わかったっす! そういえば……コレ取り外すのは良いんっすけど、その後どうするんっすか?」


「んー、ちょっと待ってくれ、もう少しで……」


 柱と爆弾を繋ぐ残り一本のベルトを慎重に取り外していると、玉座の間に向かったメアから念話が入ってきた。


≪阿吽様……玉座の間に潜んでた、暗殺者……全て処理、いたしました≫


≪やっぱ罠だったか。メア、よくやった!≫


≪ありがとう、ございます。でも……フェルナンド王子、爆弾の起動スイッチ、押しちゃいました≫


≪…………え? マジ?≫


≪はい、マジ……です。爆発まで、残り30秒……だそうです≫


 すると、目の前の爆弾から『カチッ、カチッ……』という音が聞こえてきだした。


「クソっ! フェルナンドが爆弾を起動しやがった!」


「えぇぇ!! それってマズいんじゃないですか!? マズいですよねぇ!!??」


「落ち着けチェリー、兄貴を信じるんだ!!」


「は、はいぃぃ!!」


 この状況で落ち着いて時間を数える事など出来ないが、恐らくこの規則正しい音は1秒間隔と考えていいだろう。


「ドレイク! このカウント音が何回聞こえたか数えてくれ!」


「了解したっす!! ちなみに今は5回目っすよ!」


 焦る気持ちが指先に出てしまう。若干だが指が震えベルトを上手く外す事ができない……。

 こんなことならDEX器用にステータスを振り分けておくべきだったか!?


「10、11、12……」


 ドレイクが数を数えてくれているのはありがたい。

 ただ俺が頼んだことではあるが、それが余計に焦燥を掻き立てる。


「18、19、20!」


 カウントが正確なら、あと10秒しかない!

 あー! もう!!


 こうなったら…………、どうせ起動ちまっているんだ! 少々乱暴にしても問題は無い……はず!!


「21、22……」


「うおぉら!!」


――ブチブチブチッ!!


 爆弾を鷲掴みにし、思いっきりベルトを引き千切る。

 横目に見えるチェリーは目を見開き、口をあんぐりと開けて固まっている。

 ってかドレイク、カウント数えるの忘れてるぞ!


――カチッ、カチッ、カチッ……


 よしっ! ベルトを外しただけならすぐに爆発はしなかった!! あとはこの爆弾をっ――


「そ、ソレ……どうするつもりっすか!?」


「大丈夫だ! 信じろ!!」


 右手に持った爆弾は、規則正しい音を響かせる。

 俺はそれを、自分のマジックバッグに捻じ込んだ。


「えぇぇぇぇぇーー!!??」


「っ! ちょっ!! 兄貴っ!?!?」


 ドレイクの数えたカウントは22秒、そこからカウント音は3回聞こえた。

 ということは、フェルナンドが起爆スイッチを押してから25秒が経過したことになる。

 残り5秒弱で爆発しなければ俺の考えが正しかったってことだ。正直、賭けだが……


 3……

 2……

 1……

 ゼロ!!


「…………5秒、経ったよな?」


「うっす……。爆発、しないっすね」


「フゥー……。あーー! 焦ったぁぁーー!!」


「い、生きてますぅ……。おしっこチビりそうでしたぁ……」


 大きく深呼吸をすると、張りつめていた空気が一気に弛緩した。

 それに合わせ、チェリーとドレイクも足の力が抜けたかのように床に座り込む。


「兄貴、どういうことっすか?」


「どっから説明すっかな……。マジックバッグってさ、生物以外なら入れられるだろ? んで、ちょっと前にマジックバッグの中身を整理してた時に気付いたんだけど、半年以上前に入れた大量のオーク肉が腐ってなかったんだよ」


「それって……」


「あぁ、俺の・・マジックバッグの中は、時間が止まっている可能性が高い」


「え? でも……、一般的なマジックバッグはそんなことないっすよね?」


「多分そうだな。俺のマジックバッグが特別なんだろ。レアリティー赤だし」


「え?! 兄貴のマジックバッグってレアリティー赤なんっすか!?」


「フォレノワールのダンジョンマスターになった頃だったかなぁ? 初めて【品評眼】のスキルを取得した時に鑑定してみたら赤だった」


「マジパネェっす……」


「でも問題はあるんだよなー」


「あっ、そっか! 取り出した時に爆発しちゃうっすね」


「そうなんだよ。数えてた秒数が合ってるなら5秒は猶予があるんだけど、さすがに5秒じゃ解体なんて不可能だし……。んー、まぁいっか!」


「それ、良くない気がするんっすけど……」


 マジックバッグに爆弾を入れてから1分くらいは経ってるし、今のところ爆発してないってことは大丈夫なんだろ! 爆発さえしなければこのまま死蔵コースでいいや!


 それよりもルザルクとフェルナンドはどうなったんだ? ルザルクに念話してみるか。

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