第208話 ルザルクのお願い


 こっちの爆弾は何とかなったけど、フェルナンドはどうなってんだろ?

 メアが居ればさすがに大丈夫だと思うが……、落ち着いてるように見えてメアってちょっと抜けてるトコあるってか、マイペース過ぎるところあるからな……。

 でもさっきのメアからの念話からすると、あとはフェルナンド捕縛するだけって感じか?

 っと、ちょうどルザルクから念話が来たな。


≪阿吽! 何とかなったんだね!!≫


≪あぁ。ギリギリだったけど爆発だけは防げたわ≫


≪というか、あの状況からどうやって爆弾を解体したの? そんな時間なかったはずだけど……≫


≪うん? マジックバッグに爆弾を収納したんだよ≫


≪…………え?≫


≪いやぁ、マジで賭けだったわー。マジックバッグに入れても爆発しちまったら、さすがにどうなってたか分かんねぇもんなー≫


≪いやいやいや……え? えぇ……≫


≪まぁでも、俺は自分のマジックバッグが収納物の時間を止めておけれる特殊なヤツだって事前に気付けてたからな! 分の良い賭けだったぜ!≫


≪……んん?? …………へ?≫


 俺の行った行動は、“天才”と呼ばれるルザルクの語彙力を奪うほど突飛なものだったようだ。

 ドレイクの言っていた通り一般的なマジックバッグは単純に物を普通の鞄より多く収納する事ができるというだけのもの。レアリティーによって収納できる容量が多くはなるが、収納されている物の時間を止めておくことができるような効果など聞いた事がない。

 魔導具に精通しているルザルクだからこそ余計に混乱するんだろう。


≪とにかく、何とかなったって事だ! それよりもフェルナンドはどうしたんだ?≫


≪あ、あぁ。兄ならメアさんが気絶させたよ≫


≪そうなんだな。やっぱメアを護衛に付けといて良かったわ≫


 メアは闇属性魔法の中でも幻影魔法と呼ばれるものを得意としている。恐らくフェルナンドに気付かれないよう近付いて眠らせたのだろう。


≪メアさんが居なかったら、今頃僕は殺されていただろうね……。あっ! そういえば、メアさんが僕の影に隠れてたのを何で黙ってたのさ! 阿吽の指示なんだろ!?≫


≪それはルザルクが馬鹿正直に一人で行こうとするからだ。どうせ言っても聞かねぇだろうし……≫


≪そ、そうなんだけど!!≫


≪まぁそれは後でゆっくり話そう。とりあえずはフェルナンドをどうにかするのが先決だろ?≫


≪そうだね。……阿吽、そのことで一つお願いがあるんだけど……≫


≪何だ? 何となく言いたい事は分かるけど≫


≪兄を、助けてあげたいんだ。馬鹿な事だって分かってるけど、この国にこれだけの才能を持った軍師なんか居ない。生かしておく事でメリットになる事もあると思うんだ。なんとか……ならないかな?≫


 ルザルクの言う“助けたい”とは、恐らく『命』の他に『社会的に』という意味合いも含まれているのだろう。

 だが、これだけの事件を起こした首謀者。社会的に助けるなど土台無理な話だ。


≪これだけの事をしでかしたんだ。それが無理なことくらいルザルクもわかるだろ。それに、利害の事を言うなら、メリットよりデメリットの方が圧倒的に大きい≫


≪やっぱり、そう……だよね……≫


≪ただまぁ、俺もフェルナンドにはそれなりに興味がある。正直、今回の件はこれだけの戦力差がありながら、こんなにもギリギリになるなんて思ってもみなかったからな。それに、『国王にも息子たちを頼む』って言われちまってる。一度話をする機会くらいは取ってもいいかもな≫


≪え? それじゃあ……≫


≪とりあえず幻影城に連れていく。あそこならフェルナンドが何かできるような事はないからな。少しでも変な事をしたらすぐ察知できるし、その時は迷いなく殺す。酷だと思うが、それだけのことをフェルナンドはしたんだ≫


≪うん、それは理解してるよ。チャンスを与えてくれるだけでも、十分ありがたい。次期国王として、フェルナンドの生殺与奪の権利は阿吽に一任する≫


 ルザルクがフェルナンドの事を俺に頼んできたのは、このままでは確実に処刑しなければならなくなるためだ。これだけ派手にクーデターを起こしちまった以上、普通の方法ではどう足掻いても国賊となったフェルナンドは死罪を免れる術などない。


 しかし、ダンジョンマスターである俺ならば、ダンジョン内で監視をすることや、特定のエリア以外立ち入る事ができない縛りを設ける事も容易い。それにフェルナンドの武力からしても、幻影城内でまともに何かをできるとも思えない。

 ただ、目的を達成できないと判断した瞬間に躊躇なく王城を爆破しようとしたフェルナンドが、生き延びるという選択を望むとは到底思えないのだが……。


≪んー……。まぁ、わかった。やれるだけの事はやってみるわ。ってか、まだルザルクがやらなきゃならねぇことはたくさんあんだろ?≫


≪そうだね。明日にはレクリアとミラルダからの援軍も到着する予定らしい。頭が居なくなった残党程度、それだけの人手があれば鎮圧は問題ないよ≫


≪そっか! んなら、ちゃちゃっと仕事終わらせて来い!≫


≪うん。全部片づけたらそっちに向かうよ≫


 一応念のために援軍が到着するまでは星覇のメンバーも何人かはアルラインに居たほうが良いだろうな。

 俺はとりあえずフェルナンドを幻影城に連れていく事にしよう。竜化したドレイクに乗れば数時間でフォレノワールに着く。


 あとはフェルナンドをどうするか、だな……。

 どんな理由があろうとも敗戦したフェルナンドに正義はない。敗者がどんだけ理路整然と理屈を並べても、それはもう負け犬の遠吠えだ。

 まぁ、出来るだけの事はしてみるとするか。

 

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