第205話 禁書庫


 国王から受け取った指輪を装着して言われた通り地下二階に行くと、それまでは全く気が付かなかった場所に扉が出現していた。恐らくこの指輪が鍵となり魔導具で隠蔽されていた扉が現れたのだろう。

 ここに入る事ができるのは、禁書庫の存在と場所を知っており、且つ鍵を持っている者に限られるってわけか。


「扉開けた途端、ドカーンって事はねぇよな? どちらにせよ、開ける以外の選択肢はねぇけど……」


 意を決して扉を開けるが、心配とは裏腹に何事もなく扉が開いていくと、古書特有の木を燻したような落ち付く匂いが鼻孔をくすぐる。

 禁書庫・・・と呼ばれているため、室内の本の数はそれほど多くないだろうと予測していたが、10m四方の部屋に規則正しく並んだ本棚が管理の丁寧さを感じる。恐らく禁書を隠すために一般の本も多数保管されているのだろう。『木を隠すなら森の中』とはく言ったものだ。

 その“禁書”とやらにも興味はあるが、今はじっくり確認している暇などない。


 これまでのフェルナンドの立ち回りからすると、この部屋にもトラップや盗聴用魔導具を仕掛けられている可能性があるため、【探知】スキルを使いつつ静かに慎重に動く。そして一番奥の書棚まで進んだ時、ソレは拍子抜けするほど呆気なく見つかった。


「……っ!!」


 驚きのあまり思わず声を出しかけるが、慌ててそれを飲み込む。フェルナンドに爆弾を発見した事を少しでも悟られないよう立ち回らなければならない。

 フェルナンドの指定した時間まで残り約20分、ここからは1つのミスが明暗を分ける。念話であれば声を出さずに意思疎通は可能。すぐに情報を共有しつつルザルクにも爆弾の形状を伝えよう。


≪こちら阿吽だ。みんな聞こえてるか? 王城の地下二階にある禁書庫で2つ目の爆弾を発見した≫


≪禁書庫っすか!? そんなものがこの王城にあったんっすね!≫


≪禁書庫……確かにその可能性は失念してた。兄は鍵を持っていないと思い込んでたよ……。というか阿吽はどうやって鍵を?≫


≪国王から委ねられたんだ。「この国と息子たちを頼む」ってな≫


≪っ! へ、陛下は無事!?≫


≪あぁ。ネルフィーからの情報通り地下牢の最奥に居たが、「今は爆弾を優先してほしい」と希望し今もそこに留まってる。移動に時間がかかるのを本人も自覚してた感じだな≫


≪だろうね……。みんなには黙っていたが、陛下は大病を患っている。それに加えてこのクーデターだ。体力もかなり落ちていると思う。でも、陛下がそう言うなら仕方が――≫


≪阿吽、私がそこへ行く。治癒魔法、必要でしょ?≫


≪そうだな。国王のことはキヌに任せよう≫


≪い、いいの? 今は一人でも手が欲しい状況なのに……≫


≪私が一番適任。それに、阿吽もルザルクもそれを望んでるでしょ?≫


≪だな。国王だけが助からなかったなんて後味悪い結末は、ここに居る全員が誰も望んじゃいねぇよ≫


≪ん。すぐに向かう≫


≪みんな……ありがとう≫


 ルザルクの心配事の一つであったアルト国王の救出。これをキヌに任せられたのはルザルクにとって精神的にかなり大きいだろう。

 元々はルザルクも爆弾の捜索を最優先としていたが、爆弾を発見できた今であればキヌを向かわせるだけの余裕はできたことになる。


 ただ、鑑定で見たステータスから考えると、たとえ救出できたとしても国王の生い先は短いに違いない。だが、ルザルクとの別れの言葉を交わす時間も取れないなんて、それはさすがにあんまりだ。そんな結末は【星覇】のメンバーであれば誰もが回避しようとする。


 この追い込まれた状況下で国王の命も、爆弾の処理も、フェルナンドの対処も……、全て掬い上げようというのは傲慢なのかもしれない。だが、それでも全てを諦めない! 可能性が1%でもあるのならば俺は……いや俺達は、全力でそれにベットしよう!


≪さて、ルザルク。今から爆弾の形状を伝える。移動しながらで申し訳ないが、どうすれば良いか教えてくれ。その間、周囲の警戒はシンクに任せておけば問題ない≫


≪ルザルク殿下は何があっても必ずお護りいたします。安心して阿吽様との念話に集中してくださいませ≫


≪わかった。じゃあ、爆弾の情報を出来るだけ詳しく教えて欲しい≫


≪おう! まず見えているは――――≫


 そこから爆弾の形状を伝えたところ、闘技場にあった爆弾の形状と酷似していることから恐らく同一のものであると判断し、ルザルクからの指示通りに爆弾の解体を始める。

 しかし、ルザルク無しでの完全な爆弾の解体は困難を極める。そのため取り付けられている柱から外せるようにすることを最優先とし、作業を進めていくこととなった。


 そして指定された時間ちょうど、ルザルクが玉座の間へ到着した。


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