第204話 鍵
王城の地下牢に続く階段をひたすらに降りていく。その目的は2つ。ひとつは爆弾の捜索、もうひとつはアルト国王の救出だ。
優先順位としては爆弾の捜索の方が高いが、ネルフィーからの情報では“血濡れのジョセフ”が「国王は地下牢の最下層に幽閉されている」と言っていたらしい。さすがにルザルクの親父を見殺しにするわけにもいかないし、情報の正確性を確かめるためにも必要なプロセスではあるだろう。
そんなことを考えながら階段を降りていくと、その先のフロアから金属の擦れる音や、怒号・奇声などの興奮する声が響いてきた。
「なんか様子がおかしいぞ! 外はどうなってやがんだ!?」
「お……おい! お前等! もしかしたら今が脱獄のチャンスなんじゃないか!?」
「確かに……看守の姿も見えねぇし、飯の時間になっても誰も来やしねぇ……」
「全員でこの鉄格子破壊するぞ!」
ここに居る囚人たちも何かしらの空気を察知し、脱獄しようと試みているようだ。
かまっている暇もないため、そいつらを無視して歩みを進めていくが、案の定声を掛けられる。
「お、お前! 看守じゃねぇな! ここから出してくれよ!」
「外はどうなってるんだ!? このまま飯も来ねぇんじゃ俺達餓死しちまうよ!」
騒ぎたくなる気持ちも分かるが、自分の犯した罪で投獄されているのに外が騒がしいから出してくれってのは身勝手すぎるだろう。
それに、こんな所で時間を無駄にするわけにはいかない。
まぁ、こういう輩は力の差を見せつけてやれば一気に大人しくなるだろうし、一発かましておくか。
――ダァァァン!!!
思いっきり地面を踏みつけると石畳が陥没し、蜘蛛の巣上にひび割れる。
「うるせぇよ。黙ってろ」
殺気を込めて短く言い放つと、さっきまでの喧騒が一瞬で静まり返る。
そのままフロアをそのまま奥まで進むと、ある地点を境に檻の形状が変化した。恐らくここが魔力を無効化する最奥の特別収監エリアなのだろう。
その檻の一つに他者とは異なった身なりの男が蹲ってる。褒賞授与式でも見た顔、間違いなくアルト国王だ。
「陛下、大丈夫ですか? 助けに来ました」
「ゴホッ、ゴホッ! ……星覇の、阿吽か?」
「陛下、お身体が……」
「さすがに、分かってしまうか……。お前の考えている通り、もう儂は長くない」
先程の嫌な咳きや、「疲れている」という言葉では片づけられない程の顔色の悪さに嫌な予感を覚え、鑑定してみるとステータスには『疲労(大)』や『衰弱』の他に、『疾病(重篤)』という状態異常がある。
「……ルザルクは、知っているのですか?」
「あぁ、ルザルクには伝えてある。それにしても、真っ先にルザルクを気遣うか。息子は本当に良き友人を持ったのだな」
「恐れ入ります。陛下、今はそれほど時間がありません。フェルナンド王子の仕掛けた爆弾もまだ見つかっていないのです。ですので、すぐにここを出ましょう」
「爆弾……そうか、フェルナンドはそこまで追い詰められていたか……。阿吽、儂の事は後回しで良い。それよりもフェルナンドを、止めてくれ」
「ですが……」
「今は爆弾を見つける事が最優先、違うか?」
「……その通りでございます」
「儂はこれでも一国の王、足手まといにはならぬよ。それに、そこまで
「……承知しました。時に陛下、フェルナンド王子が王城で爆弾を仕掛けそうな場所に心当たりはありませんか? かなり捜索はしているのですが、まだ見けられていないのです」
「ふむ……もしかしたら、禁書庫やもしれぬ……」
「禁書庫、ですか?」
「うむ。極一部の者しか知らぬが……、ここ王城の地下2階には隠し部屋があり、そこには禁書と呼ばれる本が保管されている書庫がある。そこに入れるのは鍵を持つ数名だけなのだが……阿吽、お主になら儂の持つその鍵を託すことができる」
そういって国王は右手の中指にはめられている指輪をゆっくり引き抜くと、俺へと向かって差し出してきた。
一国の王が肌身離さず身につけている指輪が鍵となっている、それだけで禁書庫が如何に機密性の高い場所であるかは察することができる。国王の口ぶりからするとフェルナンドもこれに準ずる鍵を持っているのであろうが、書庫の管理人を含めても禁書庫に立ち入る事ができるのは本当に限られた人物のみなのだろう。
確かにそんな場所に爆弾が仕掛けられているのならば俺達がどれだけ必死に探していたとしても見つけられなかったのは当然とも言える。
「書庫の鍵と陛下からの信頼、確かに受け取りました」
「フェルナンドと、ルザルクを……そしてこの国の未来を、よろしく頼む」
「全力を尽くします」
国王から鍵を受け取った俺は、数分前に来た道を急いで戻る。そろそろルザルクも闘技場から王城へと移動し始めた頃だろう。
今からすぐに禁書庫へと移動し、爆弾を発見したとしても解体する時間はそれほど残されていない。それに、そもそも解体できる者が近くに居ないという現状。
最悪の場合、取れる手段がなくはないのだが……。
いや、ここまで来たら難しいことを考えるのは止そう。
俺にできる全力で突っ走る。今はそれだけ考えてとにかく動く。
「細けぇ事考えすぎて、肝心な時に動けないなんてクソダセェ真似したくねぇからな!」
フェルナンドが指定した
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