第136話 キヌVSアストルエ②
アストルエがマジックバッグから取り出した武器は、真っ赤な鞭だった。
魔法での攻撃と鞭での牽制や防御が戦闘スタイルみたい。ここまでは何とかフレイムブレイドと双剣ミズチで捌くことはできているけど、間合いに入りにくい。
数分間続いた攻防の中でダメージを負っているのは私の方。両手足に切り傷や痣が浮かび、HPも3割くらい削られちゃった。確かに大口を叩くだけの事はある。
でも、ゾアと対峙した時のような圧迫感や危機感は感じない。まだヒーリングは見せていないし、油断しているうちに大きくダメージを稼いでおきたい。
ちょっと攻撃のパターンを変えてみようかな。
「【フラッシュ】」
「うっ……」
一瞬で来た攻撃の隙を狙い、光属性の魔法を発動させると周囲に閃光が走る。
直接的なダメージはない魔法だけど、夜間の戦闘に於いてこの光は予測していなければ対策はできない。それに私は魔法を使用する瞬間だけ目を閉じることで視界は奪われずに済む。
ただ、アストルエはかなり戦闘慣れしていたようであり、数発の追撃を当てる事は出来たが、咄嗟に魔法障壁を張り直し、空へと退避されてしまう。
「惜しかった」
「厄介な攻撃をしてくれるじゃないの! あー、まだ目がチカチカするわ……」
アストルエはゆっくりと降りてきながら、右手で目頭を押さえている。この攻撃はかなり有効なようだけど、空に逃げられちゃうと追撃はしにくい。
うーん、別の方法で意表をつく必要がありそうだなぁ。
「そろそろ行かないとブラキルズに叱られちゃうの。お嬢ちゃんには悪いけど、本気で行かせてもらうわ」
そう言うとアストルエの纏う雰囲気が変わった。無詠唱だったが、おそらく
「【狐火】、……くっ」
咄嗟に自動防御の火属性魔法を展開するがアストルエの猛攻は凄まじく、魔法障壁と4つの狐火を消され、鞭とウィンドカッターの猛攻でHPを残り2割ほどまで大きく削られてしまう。
「これでおしまいよ!」
再びサイクロンを発動され、私は再び暴風の壁に閉じ込められてしまった。魔法障壁は張りなおせたが、このままでは押し負けちゃう。
もう、やるしかない……。
「【
発動すると、私の中にある魔力が爆発するような感覚に襲われる。2重でバフをかけるとこんなにもステータス的な変化が起きるんだ……阿吽が私を鑑定して驚いていた理由が、本当の意味で理解できた。
若干違和感がある尻尾を見てみると人型の時は1本だったのが獣化した時のように8本に増え、長くなっている。さらに、その全てに青色の炎を纏っていた。でも熱さは感じない。妖炎転化を使うとこういう身体的変化も起きるみたい。
「【ファイヤーストーム】」
私の周囲に渦巻くサイクロンに向けてファイヤーストームをぶつける。
ただ、発現したその魔法は私が今まで使っていたモノとは根本から異なっていた。
今まで使用してきた火属性魔法は夕日のようなオレンジ色だったが、今放った魔法は綺麗な青色の炎。
一見すると冷たく感じるその色とは対照的に、肌に感じる熱波は今までとは比べようもないほどの熱量を物語っており、サイクロンを消し尽くしても尚、
「【ヒーリング】」
減っていたHPを回復させるためヒーリングを使ってみると、回復量は今までの約3倍。私の総HP量の半分ほどが回復した。これはさすがに自分でも驚きを隠せない。
一応もう一度ヒーリングを行い、HPを全回復させてからファイヤーストームを消してアストルエと対峙する。
「何なのよ、その魔法は! というか、あなた……何者なの!?」
「私はキヌ。いずれ世界最強になる人の相棒、兼……恋人」
「あなた……何言って……」
「今からその意味を教えてあげる」
青色に輝くフレイムブレイドを7本展開し、アストルエに肉薄。その勢いのまま切りつけると一撃でアストルエの魔法障壁を破壊する。
「ちょっと、待って!」
「ん。待たない」
アストルエは困惑しながらもギリギリで魔法や鞭をフレイムブレイドに当て何とか障壁を張り直す。
うーん、もう少し手数が必要……。
あ、そうだ。尻尾も炎を纏っているんだし、せっかく8本もあるんだから使わないと損だよね。
仕切り直してもう一度連撃を仕掛けるが、今度は両手に持った双剣ミズチと尻尾も合わせた17連撃。さすがに防御が間に合わなかったアストルエは四肢に火傷を負い、相応のダメージを受けている様子だった。
それに、焦燥感が全く隠しきれていない。
「なんでアンタみたいな化物がこの場所に居るのよ!」
「なんでって……、“阿吽”がこの国に来たから」
「ホント意味分かんない!」
なんだろう、思ってた反応と違う。ゾアは阿吽の名前を出した途端、その名字を口にした。あたかも阿吽のことを知っているかのように……。
でもアストルエは阿吽の名前を聞いたこともなく、存在自体を知らないような反応。
「そういえば……ゾアって魔族はここに来てるの?」
「ゾ、ゾアですって!? 来てるわけないじゃない!」
「そう……ならいい」
「ちょっとまって。あなた達まさか“
「鬼目衆? それは、なに?」
「……知らないならいいわ」
できればもう少し詳しく聞きたいけど、アストルエの雰囲気を感じ取るとこれ以上は喋ってくれなさそう。それに、会話をしている間に回復を行い手足にあった火傷は消えてしまっている。切断しても瞬時に回復できるくらいだし、多少の火傷くらいはすぐに治しちゃうのは当たり前だよね……これは一気に焼き尽くすしか倒す手段はなさそうだなぁ。
うーん、せっかくだし……考えていた
再び近接攻撃に移ろうとすると、アストルエは距離を離しながらの魔法戦に切り替えてきた。さすがに戦い慣れているだけあって接近戦では不利だと悟ったみたい。
これまでの戦闘パターンから見るとアストルエは決して無理はせず、不利になったら魔法障壁と飛行で距離を離し回復を優先する。空からの攻撃をし続けないのはお互いに決め手に欠けると判断しての事か、魔力の総量の問題だと思う。
でもそれは私にとっては有利となる材料。それに、今のところ私は【空舞】と【構築阻害】のスキルは見せていない。まずはこの二つのスキルと魔法で隙を作ろうかな。
アストルエが放ったウィンドカッターをフレイムブレイドで弾きつつ、フレイムボムという爆発系の火属性魔法で視界を奪う。そして素早く背後に回りフレイムブレイドの7連撃で魔法障壁を破壊し両手を切り落とす。
すると、予想通りアストルエは翼をはためかせ上空へと退避しながら魔法障壁を張り直そうとしている。
その表情からは、焦りや怒り不安などがにじみ出ていて、アストルエの考えている事が手に取るようにわかる。
「コイツは何者だ」、「魔族の私が獣人ごときに負けるはずがない」、「何とかして消しておかなければ」、「まずは両手を再生する事が先決」。
このタイミングで逃げの一手を選ばれていたら私は何もできなかった。でも魔族のプライドがそれをさせなかったようだ。
再び【フラッシュ】で視界を奪い、【空舞】で空へ向かって跳び上がる。そのまま肉薄し、アストルエの魔法障壁に片手を当て、【構築阻害】で障壁の属性を光に変換。
こうなってしまえば、この障壁はアストルエを守るものから監禁する檻へと変貌する。
「なによコレぇぇ!! なにが起きてるの!?」
さらに、この障壁内に右手を突っ込み、火属性魔法のフレイムボムとファイヤーストーム、そして光属性魔法のライトニングインパクトをありったけ打ち込む。
「ギャァァアアァア!! 熱い、熱いいいぃぃ!!!」
「安心して。ちゃんと
空中に浮かんだ光属性の球体の中は燃え盛る青い炎に加え、幾多の閃光と爆発が光り渦巻く。
うん、ぶっつけ本番でやったけど上手くできそう。
最後に、地面に着地してからキラキラと輝く球体に向かって最大出力のフレイムランスを発動する。
阿吽の【
初めて成功したこの
「【
フレイムランスがアストルエを閉じ込めている蒼炎の玉にぶつかると、地面を揺らすほどの爆発音とともに、障壁に阻まれて行き場を失い荒れ狂っていた膨大なエネルギーが弾け飛び、漆黒の夜空に大輪の青い花を咲かせた。
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