第137話 阿吽VSブラキルズ①
~阿吽視点~
会議場の4階の窓から外に出ると、俺の目に飛び込んできたのは会議場の中からでは分からなかった街の惨状だった。魔導具の光が美しかったイブランドの夜の街に煙が立ちあがり、夜にもかかわらず騒然とした雰囲気が街中を覆っている。
屋根伝いに移動している俺の後ろを飛んでついてきている魔族にも気を配らなければならないが、ルザルクにはこの状況を伝えておくべきだろう。
≪ルザルク、ドレイクから念話があった通り、街の3か所が破壊されている。これから俺も戦闘になるだろうし、場所次第では被害が大きくなる可能性がある。できるだけ遠くに誘導するが、住民の避難を頼みたい≫
≪わかった。とりあえず会議は中断ということになったから、それはこっちで対処する。あと、ネルフィーとルナ皇女には僕の方から作戦開始の連絡を入れておく。阿吽は魔族の対応に集中してくれ≫
≪助かる。こっちは任せとけ≫
オルトロスや女魔族のことも気にはなるが、キヌやシンク、ドレイクなら対応しきるだろう。
街の東区画に入ると、後ろをついてきていた魔族が口を開いた。
「どこまで行く気だ? この辺で大丈夫だろ」
「ここで戦闘になったら街が破壊されるだろうが。あ、そっか。お前は俺の全力を出されたくないから街の中で戦いたいってか?」
「まぁ何とでも思えばいいが、別に俺達にとっては街が破壊できる方が好都合なんだ。それにお前にそんな時間もかけたくないんだよ。ってことで、この辺りで始めるとしようか」
「チッ……仕方ねぇか。どうせ拒否したら街を無作為に壊したりするんだろうしな。本当にクソみてぇな奴らだ」
さて、どうしたもんかな。こいつから情報を聞き出したいところだし、できれば生け捕りがベストなんだが、魔族相手ではそうとも言ってられない。帝都会議場で鑑定をはじかれたし、ダメ元でもう一度鑑定を試みるが、何かのアイテムなのかスキルの効果なのか、一切ステータスを見る事も叶わない。
こいつは厄介だな。対峙した感覚ではだいたい俺と同じくらいのレベルだろうが、どんな魔法やスキルを使用してくるのか事前に把握できない。それに、飛行可能な相手に上手くダメージを稼げるかもやってみないと分からない。
まぁ、分からんことを深く考えてもしょうがないな。
「【疾風迅雷】」
まずは強化スキル1段で様子見だ。
屋根を蹴ってジャンプ、空中で白鵺丸を取り出し、そのまま斬りつけるが障壁によって阻まれてしまう。
「不意打ちか? ビックリさせるなよ」
「ハッ、そう言う割にはあんまり驚いてなさそうじゃねぇか」
「まぁ、これくらいはな。ほれ、俺に余裕があると街を破壊するぞ?」
ブラキルズはそう言うと空中に巨大な岩を出現させ民家に向かって落とし始めた。
「めんどくせぇことすんなよ!」
俺は雷槍を即座に2本作り、大岩に向けて放つ。
「おいおい、俺相手に隙を見せても良いのか?」
「くっ……」
突如後ろから声が聞こえ、魔法障壁を発動するが間に合わない。
蹴りつけられた衝撃をバックステップで緩和させるが、そのまま民家の壁に叩きつけられてしまう。
マジでめんどくさい相手だな。この街まるごと人質に取られているような状況だ。しかも、街を破壊する事も目的となると、長引かせるのは悪手だ。
「そんなモンなのか? その程度で俺にケンカ売ってきたのかよ」
……は? 街を壊さないようにと加減してやってたら調子に乗りやがって。
くっそ、だんだん腹立ってきた……。
もう街の事は一旦置いといて、全力でコイツをボッコボコにしてやろうか。
うん、そうしよう。多少街が壊れてもルナ皇女が何とかするだろ。
そもそも全部魔族が悪いんだし、ルナ皇女も許してくれる……と思う。
「後から泣いても許してやらねぇからな。【雷鼓】【疾風迅雷】」
2重バフをかけたのと同時に攻撃型魔法障壁も発動させる。さっき食らった攻撃の威力やスピードからするとブラキルズもバフは使っていたのだろう。そう考えるとある程度は完全に無詠唱で魔法も発動できると考えたほうがいい。
「いくぜ?」
地面を蹴り空中で停滞しているブラキルズの目の前まで移動、回し蹴りのフェイントを挟みつつ【空駆け】で側面に回り込み、胴体を切り飛ばす勢いで白鵺丸を鞘から抜く。魔法障壁に阻まれるが、お構いなしだ。そのまま連撃で障壁を破壊し、雷槍を放つ。
ブラキルズは障壁が破壊されたことに目を見開くが、とっさに腕に纏わせた岩でガードをする。
今回も完全に無詠唱……。だが、最初に発動していた魔法と合わせて考えると、属性は地属性であることが判明した。
まだここからだ。俺をバカにしたことを後悔させてやらなきゃ気が済まない。かなり強引だがこの障壁が消えているこのタイミングで少しでもダメージを稼いでやる。
雷槍が防がれているタイミングで【空駆け】の3歩目で肉薄し、ブラキルズの顔面を鷲掴む。次の4歩目で空中を蹴り、地面にブラキルズの頭部を叩きつけた。
「ぐぶっ!」
「そんなモンなのか? その程度であんな大口叩いてたのかよ」
「くっ、やるじゃねぇか……」
突如地面から生えた石槍にギリギリで反応し飛び退く。
無詠唱とは相当厄介だな。いつどこから魔法が来るか見てから避けなきゃならない。
それにしても、【空駆け】があるお陰で空中戦でも普通に戦えるな。飛行のように常に飛んでいられるわけではないが、小回りが利き、立体的な機動ができるこのスキルは俺との相性がめちゃくちゃ良い。しかも【空舞】より2回多く空中で跳躍する事ができるため飛行している敵に対してもかなり有効だ。
さて、コイツに俺の力をもっと知ってもらわなきゃな……。
この日のために練習してきた闇魔法も使ってみるとしようか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます