第138話 阿吽VSブラキルズ②
「チッ、痛ってぇなぁ……。アストルエのやつ適当こきやがって。人族にも俺達魔族に匹敵するヤツいるじゃねぇかよ」
「マジで魔族ってこんなもんなの? 俺はまだ半分くらいしか力を出してないぞ?」
「はぁ? 俺もだわ!」
「じゃあ、俺まだ3割」
「“じゃあ”ってなんだよ! ちょっと攻撃当てたくらいで調子に乗りやがって……」
ブラキルズと言い合いをしていると街の外から大きな爆発音とともに青色の火花が夜空を明るく照らした。
「なんだ、あれは……アストルエの魔法……じゃない」
キヌの魔法か? 念話で確認してみるしかないな。
≪キヌ、聞こえるか?≫
≪どうしたの? こっちは片付けたよ≫
≪おぉー! あの魔法やっぱりキヌだったか!≫
≪ん。そういえば詳しいことは後から話すけど、そっちの魔族に“鬼目衆”って何なのか聞いてみて≫
≪鬼目衆? 魔族と関係があるのか?≫
≪アストルエが口走ってた。ゾアに関係してそう≫
≪わかった。ちょっとカマかけてみる≫
とは言ったものの、どうしたもんかな。
ってか、そう簡単にしゃべるか?
うーん、さっきのキヌの口ぶりだとゾアが鬼目衆ってのに属していて、こいつらとは別の組織って可能性もある……のか?
まぁ適当に話を合わせるか。
「おい、ブラキルズって言ったか? 聞きたいことがあるんだけど」
「あ? 戦闘中の敵に普通聞くか? てか何で俺の名前知ってるんだよ」
「帝都会議場であの女魔族がそうやって呼んでただろ。俺は記憶力が良いんだ」
「あぁ、あの時か……。とりあえず質問だけ聞いてやる。答えるかどうかは質問次第だ」
「鬼目衆の事が知りたい。あとはゾアの居場所とかな」
「ゾ、ゾアだと!? それに、鬼目衆……何で人族のお前らがその名前を知ってるんだ!」
「まずは俺の質問に答えてからだ。そうしたら俺もお前の質問に答えてやるよ」
「チッ! 鬼目衆は俺達と敵対関係にある魔族の組織だ。ゾアはその組織の幹部の一人だよ」
「何でお前等とは敵対している?」
「……次は俺の質問に答える番だろ?」
「あぁ、一度ゾアと俺の仲間が戦闘になったことがある。だから俺達もその鬼目衆と敵対関係になってるって事じゃねぇか?」
「あいつらが人族と敵対? そんなこと……って、おい。アストルエをどうした? 念話が繋がらねぇぞ」
「そんなことは知らねぇよ。キヌが倒したんじゃねぇのか?」
「クソッ! おしゃべりはここまでだ! さっさとお前を殺して任務を遂行する」
魔族も念話が使えるのか。想定外だったな……。
もう少しで色々喋りそうだったが仕方ない。やっぱり生け捕りにして無理やり吐かせるしかなさそうだな。
アストルエが倒されたことを察したブラキルズは雰囲気が変化した。これまで『たかが人族』と舐めていたようだが、キヌがアストルエを倒したことで“魔族である自分の命を脅かす存在”へと認識を変えたのだろう。
両手にはマジックバッグから取り出したであろう槍が握られており、その槍も鑑定では『フロストスピア』というレアリティ赤の武器である。
「一瞬で片付けてやる!」
明らかに違う動きで突進し、連続で槍を突いてくる。何とか魔法障壁で防ぐことはできているし、バックステップを挟みながら避ける事もできているが、2重バフをした俺の動きに付いてくることができている。おそらくブラキルスもバフスキルを重ね掛けしたのだろう。ただ、まだ俺には余裕がある。ステータスは俺の方が勝っているようだ。
ブラキルズが大きく横薙ぎにした槍での攻撃をジャンプで回避。攻撃終わりの隙を突いて【空駆け】で側方に回り込み白鵺丸の柄に手をかける。
すると……ブラキルズの口角が上がった。
「引っかかったな!」
片手をこちらに向け放たれた魔法は、俺の周囲を囲む鉄の檻。わざと隙を見せて、反撃に合わせてカウンターを狙っていたようだ。だが、甘い……。
「お前がな。【
俺はブラキルズの背後に闇魔法で瞬時に移動し、魔力を通した白鵺丸でブラキルズの魔法障壁を破壊、その勢いのまま片側の翼と片腕を斬り落とした。
「ぐわぁぁっ!!」
「マジで思ってたより大したことないのな」
「お、お前は本当に何者なんだよ! それに、お前
「ハッ、そんなん教えるわけねぇだろ」
実際のところ、闇魔法はかなり有用だった。
魔力消費は雷属性に比べて多いものの、相手の意表を突けるだけでなく、短距離であれば転移に似た移動ができるため、今回のように緊急回避にも使用できる。
メアから教えてもらったのは【影移動】のみであり、影移動は文字通り“影”にしか移動できない魔法だったが、俺はそれを改良し任意の場所に“常闇門”というゲートを生成して瞬間的にその場所に移動できるようになった。ここにきてクエレブレに教えてもらった魔法の応用が実を結んできている。
まだまだ練習は必要であり、俺の周囲5mの見えている範囲にしか移動はできないし、移動後は瞬時に景色が変化するため頭が混乱する。しかし、これは慣れていけばもっと色々なことができる可能性を秘めていると確信が持てた。
さて、翼を斬り落としたことだし、もう飛んで逃げることもできねぇだろ。
「んじゃ、お前の知ってる事全部喋ってもらうぞ」
「まさか、魔族の俺よりも強い人族が居たなんてな……。くそっ、あと少しだったのに」
「色々気にはなるが、まずは“鬼目衆”のことについて話してもらおうか」
「……チッ、仕方ないか……。鬼目衆とは俺達魔王派の組織『サタナス』と敵対している魔族の別勢力の事だ。人族との共存なんていう馬鹿バカしい理想を掲げているな……」
「魔族にも派閥があるのか。それに人族と共存?」
「あぁ、おめでたい奴等だぜ。人族は魔族との共存なんてコレっぽっちも考えていないのにな」
「それは人族が色々知らなさすぎるからだろ……。ってか、ゾアもその“鬼目衆”に属しているんだよな? なら何で俺の仲間と戦闘になったんだ?」
「そんなことは知らねぇよ。俺が知っているのは、アルト王国に潜伏していたグランパルズがゾアに殺されたところまでだ」
ん? グランパルズって確か序列戦でブライドが叫んでた魔族の名前だよな……?
ってことは、ゾアがそのグランパルズって魔族を倒したから、ブライドが呼んでも魔族は現れなかったって事か? それなら何でキヌ達とゾアは戦闘になったんだろう……マジで訳分かんねぇな。とりあえず、この話はあとでキヌ達と情報共有しながら考えるしかなさそうだ。
「んじゃあ、次の質問だ。お前等“サタナス”の目的はなんだ? 魔王の復活か?」
「魔王様は、俺達が何かをしなくても5年後に復活される。俺達がやってることは復活後にこのスフィン大陸を手中に収めるためにしていた事前準備……言わばオマケみたいなもんなんだよ。だから今俺が死のうが何も変わらねぇって事だ。それに、魔王様が復活したら鬼目衆も人族もお終いだよ。ざまぁみろ……」
魔王の復活は5年後なのか。だいたいの時期が分かっただけでもいろいろ対策は考える事ができるな。
「まだまだ聞きたい事はあるが、とりあえずお前を捕縛させてもらうとしようか」
「フハハ……。なぜ俺がこんな色々情報を吐いたのか、疑問を感じなかったのか?」
「……なんだと?」
「悪いな。時間稼ぎをさせてもらった。負けたまま逃げるのも
「っ!? 待てコラ!!」
ブラキルズの足元にあった影が球状に主の身体を包み込む。
咄嗟に雷槍を放つも、それが着弾することはなく、影の球体が掻き消えた時にはブラキルズは完全に姿を消していた。
「クソッ! 油断したっ!!」
まさかブラキルズも闇属性魔法を使えるとは思っていなかった。いや、今思えば会話の中にヒントはあったし街中で戦闘を行おうとしたのも街中にある魔導具の光で自身に影ができるように誘導したのだろう。それにあの無詠唱魔法。情報を聞き出すのは完全に捕縛した後にすべきだった。これは俺のミスだな……。
ただ、出血量からしても相当な深手を与えたはず。それに、多分だがそこまで遠くには行けないだろう……。切り替えて仲間と情報を共有して全員で探すしかなさそうだな。
≪すまん。ブラキルズという男の魔族を取り逃がした。片翼と右腕を斬り落として大量の出血をしているから、多分まだ帝都の中に潜んでいる可能性が高い。キヌ、シンク、ドレイクは捜索に協力してくれ≫
≪ん、わかった。すぐ街に戻る≫
≪わたくしも今から捜索いたします≫
≪わかりました! 俺もオルトロスを倒し終えたんで空から探してみるっす!!≫
その後ルザルクや禅とも情報を共有した俺は、夜の帝都を走り回るのだった。
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