第135話 キヌVSアストルエ①


~キヌ視点~


 数十分前、阿吽やルザルク殿下の想定通り協議会場に魔族が現れた。ただ、その魔族が二人も居たのは予想外だった。

 序列戦でゾアという魔族に対し、シンクと二人で対峙して大したダメージも与えられなかったのは記憶に深く刻まれてる。

 『魔族は強い』って阿吽のお爺さんが言ってたらしいけど、それは戦ってみて痛感した。一歩間違えば私とシンクはゾアに殺されていてもおかしくはなかった。

 でも、あの時とは違う。私はレベルも上がって、進化もした。魔法障壁だって覚える事ができたんだ。自信を持とう。


「この辺りでいいかしら?」


 アストルエと呼ばれていたこの魔族の女性は、意外にも冷静に戻っていた。この移動している間に気持ちを切り替えたんだろう。

 あのまま怒っててくれれば隙もできたのに……。

 でも気持ちの切り替えに時間がかかってくれたお陰で、街の外まで移動できた。ここなら建物を壊す心配もないし、周囲の人を巻き込むこともない。存分に力を発揮できる。


「ん。ここなら問題ない」


「あなた、案外素早いわね……。まさか私の飛行速度に走って付いて来られるとは思っていなかったわ」


「戦う気、あるの?」


「別に付いてこられなかったら適当に街を破壊していればあなたはその場所に来るでしょ? というか、獣人ごときが私とまともに戦えるのかしら?」


「やってみればわかる。油断してると、火傷しちゃうよ?」


「口が減らないわね。いいわ、少し遊んであげる……」


 アストルエは格上だと思って戦った方がいい。それに、この姿になってから本気の戦闘は初めて。まだ身体や魔力の感覚が掴みきれていないから、いきなりの2重強化バフは余計に身体の感覚が分からなくなっちゃいそう。


「【光焔万丈】【ファイアーランス】」


 まずはいつも通り、バフを使って遠距離からの魔法で様子見。


 と思っていたけど、その威力は進化前よりも強くなってた。


「ふぅん……やるじゃないの。一発で私の障壁にヒビを入れるなんて」


「まだ、全然本気じゃない」


「フフッ、次は私から行かせてもらうわね!」


 アストルエの魔法は完全な無詠唱だった。しかも風属性のようであり、目に見えない空気の刃が私の魔法障壁にぶつかる感覚があった。

 幸い私の障壁に傷はついていないが、これが本気だとは考えにくい。


「チッ……あなたも障壁が使えるの? 面倒くさいわね」


「それはお互い様。続き始めよ」


 お互いに探り合うような魔法攻撃と障壁での防御の応酬。

 魔法での攻撃力は私の方が上のようで、ファイアーランス3回の直撃でアストルエの障壁は破壊できる。でも魔力操作の速度はアストルエの方が早い。壊した魔法障壁がすぐに張り直される。

 それをまた魔法で破壊しようとしたら3回直撃させなければならない。

 こうなると攻守が交代してくる。私の障壁はアストルエの風魔法を5回耐える事ができる。でも次の攻撃が来るまでの間に障壁を張り直せるほど魔力操作は速くない。

 障壁を破壊されてからウィンドカッター1発を何とか躱すけど、左頬が切れて血が垂れている。

 魔力操作の速度には自信があったんだけどな……。まだまだ修行が足らないみたい。


「キャハッ! 血が垂れてるわよ? このまま切り刻んであげるわね」


「少し攻撃当てたくらいで喜んじゃうなんて……カワイイところもあるんだね」


「次はその減らず口が叩けないようにしてあげる!」


 私の周囲の風が渦を巻き、大きな竜巻へと変わっていく。これはドレイクが使っていたサイクロンって魔法のはず。広範囲の攻撃で避けにくいだけじゃなく無数の風刃が連続で襲い掛かってくる。障壁は張りなおせたけど、このままじゃいずれ障壁を突破されちゃう。それに、追撃が来ないとも限らない……。

 となれば、現状では私の取れる手段は限られてくる。


「【フレイムブレイド】」

 

 炎の刃を7本出現させ、無理やりにサイクロンで作られた風の壁を切りつけて道を作る。そしてアストルエに肉薄し、そのまま9連撃を放つと最後の1撃がアストルエの左腕を捉え、そのまま切り飛ばした。


「ギャァァ!! くっ、私の腕を……よくもやってくれたわね!!」


「あぶなかった……。でも、形勢逆転」


「……フフッ。でも、ざぁんねん。私はね、こんな傷すぐに治せちゃうの」


 アストルエはそう言うと、切り離した腕を拾い上げ傷口どうしを押し当てる。するとジワジワと傷が埋まり、数秒とかからず左腕が元に戻っていった。


「むぅ。やっぱり可愛くない……」


「あら、そんな酷いこと言わないで? 私はこの能力、気に入っているのよ。ずっと美しい姿が保てるんだから」


「そう……価値観が合わないね」


 それにしても、魔族の目的は何なのだろう……。街を破壊して、国同士で争わせて。人族の力を削いでいっている。クエレブレが言ってた魔王の復活に関係があることなのかな?

 この女魔族は口が軽そうだし聞いてみる価値はありそう。


「ねぇ、魔族は何で戦争を起こしたり人族の街を破壊したりするの? 魔王の復活に関係してる?」


「……そうねぇ。まぁあなた達に知られたからってどうせ何もできないのだし、教えてあげても良いかしら。魔王様の復活の時期は知っているの?」


「魔王が封印されてからおよそ2000年後ということは知ってる。それが、あと数年で起きるだろうというのも」


「ふぅん……案外深く知ってるんじゃない。魔王様の復活はおそらく今から5年後よ。その時こそ魔族がこの世界の実権を握る。だからね、それまでに抵抗しそうな人族の力を削いでいくのが私たちの役目ってわけ」


「ってことは、あなた達はまだ下っ端って事なんだね」


「……あながち間違ってはいないわ。私より強い魔族はたくさんいる。でも今重要なのはそんな事じゃないの。私に勝てる人族がこの場に居ないんですから」


「片腕切り落とされたのに、そんな大きいこと言って大丈夫?」


「ふふふ……私はまだ半分も実力を出してはいないわ」


「そう。じゃあそのまま油断してて」


 お互いに魔法障壁を張り直したのを合図に、示し合わせたかのように二人ともがマジックバッグから武器を取り出し、接近戦へと切り替わる。


 そして、戦闘は激しさを増していった。

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