第134話 シンク VS オルトロス
~シンク視点~
スフィン7ヶ国協議会の開催当日。わたくしとドレイクは、帝都イブランドの中で帝城に次いだ高さの建造物である時計塔の屋上で街の様子を観察していました。
この時計塔は帝都の中心部分にあり、街を一望できるだけでなく、帝城や帝都会議場へもすぐに向かうことが出来る、まさに今回の見張りには絶好な立地条件と言えます。
阿吽様達が立案した計画で、協議会の開催期間は2日間という事になりました。
これは、魔族が襲撃をかけるとするならば白昼堂々と言うことは考えにくく、陽が沈んだ後だろうという予測からきています。その上で会議の終了時刻を2日目の夕刻とすることで、要人が集まっている夜間の時間帯を初日のみに限局されたのです。
これが上手くハマればネルフィーさんやルナ皇女殿下が皇帝暗殺を実行するタイミングも計りやすく、潜伏時間を減らす事ができ、作戦失敗のリスクを大きく軽減できます。まさに一石二鳥と言ったところでしょう。さすがでございます。
そしてその予測通り、帝都の街に魔道具の光が輝き始めてから2時間後、建物が崩れる破壊音や立ち上る砂煙とともにソレは突然現れました。
時計塔の上からでもハッキリと分かる巨体に双頭を持つ犬型魔獣……。阿吽様がおっしゃるにはSランクの魔物、“オルトロス”。
しかもそれが3体同時に現れたのです。
阿吽様の指示によりわたくしは北部、ドレイクは西部を担当する事になりました。南部は他のどなたかが受け持っていただけるようでございますが、早く倒して加勢に行くべきでしょう。
ドレイクと別れた後、そのようなことを考えながら屋根伝いに北部へと向かって走り、オルトロスの所へと辿り着きました。
間近で見るとその巨体はアークキメラにも匹敵するほど。しかし、口から大量の涎を垂らし、目から知性的な光は感じません。
「ワンちゃん、言葉は伝わりますか?」
『グルルルル……』
「……伝わらないようですわね」
相対してすぐ、何かしらの情報を得ようと致しましたが、そもそもこちらの言葉が伝わっておりません。【他種族言語理解】のスキルで読み取れるのは“何かに対する怒り”と“強烈な破壊衝動”。まさに腹を空かせた獣といったところでしょう。
『ワゥオォォォォン!!』
オルトロスは雄叫びと共に突進攻撃をしてきましたが、魔法障壁を張りつつ変形巨斧を盾に変形させて防御をする程の余裕があります。
「こんな単調な攻撃、わたくしには通用しませんよ?」
【ガードインパクト】でオルトロスの攻撃を弾くとその巨体は5mほど後退。これだけの隙があれば、
「【勇猛果敢】、行きます!」
今度はわたくしからオルトロスへ突っ込みつつ、変形巨斧を組み替えて攻撃を仕掛けます。まだ2重
『ギャウゥン!』
「どうやら魔法障壁は使えないみたいですね……」
そうと分かれば、オルトロスは今の状態でも時間をかければ問題なく対応可能なレベル。【夜叉姫】に進化した事もあり、Sランクの魔物であっても余裕を持って対応できそうですね。
ただ、ここまで成長出来ていることに気持ちが高揚しつつも、どこか物足りなさも感じてしまいます。
しかし、今は一刻を争います。魔族の襲撃であることを考えれば、ここを片付けてすぐに南部へ向かうべきでしょう。西部はドレイクが向かっていますし、わたくしと対峙している敵と同程度の強さであれば問題ありません。
ですが、南部へは誰が向かっているのかは分かりません。それに協議会場を警護している誰かが抜けているのであれば、その方はすぐに戻る必要があります。
思考から立ち返り一呼吸置いて【感奮興起】を発動。2重
「さて、さっさと片付けましょうか」
力の差が歴然であるにも関わらず、オルトロスの目からは狂気なほどの殺意が溢れています。おそらくですが、魔族に操られているのでしょう……。
「すぐ楽にして差し上げますね」
地面を蹴ると思ったよりも跳び上がってしまいましたが、その勢いのまま空中で身体を上下反転させます。すると、下にはオルトロスの後頭部が見えました。
オルトロスは2つの頭を左右に動かしわたくしの姿を探しています。それはまるでオークガードだった頃、初めて阿吽様と対峙したときのわたくしの姿のようです。
あの時の阿吽様はこんな世界で戦っておられたのですね……。
感慨深い気持ちに
ちなみにこの魔法を先んじて発動しておく戦闘法は序列戦の時にネルフィーさんが行っていたのを参考にさせて頂きました。
最後に地面へ着地したわたくしの方に倒れ込んできたもう片方の頭を変形巨斧でカチ割ると、『キャウンッ』という断末魔とともにオルトロスはその命を散らせました。【感奮興起】を発動してから8秒で片が付きましたね。
それでは南の方に向かいましょう。この2重バフの効果が持続している3分間にもう1体も片付けてしまいたいです。
倒したオルトロスはそのまま放置し、再び屋根を伝って最短距離を移動。2分と掛からず南区には到着いたしましたが、視界に映る光景にわたくしは目を疑いました……。
そこには四肢と双頭をバラバラに切り離されたオルトロスの骸が転がっていたのです。
この場で何が起きたのか……。
いや、それよりも誰がこの場に来たのか……。
2重バフを使用したわたくしよりも早く帝都会議場からこの場へと到着し、一瞬でSランクの魔獣を亡き者にした実力者。知りうる限りでは阿吽様かキヌ様以外考えられません。いやしかし、魔族の襲撃を考えるとお二方は帝都会議場から動くことが叶わないはず。
となれば、阿吽様やキヌ様と同レベルかそれ以上の実力者がこの場に来たということ……
先ほどまで感じていた全能感は一瞬で消え去り、背筋に冷たい汗を感じます。しかし、それに反してわたくしの表情は笑っていました。
わたくしは、もっと強くなれる。それがたまらなく嬉しくて……。
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