第186話 ネルフィーからの情報


~阿吽視点~


 ネルフィーがアルラインへと転移し1時間が経過した。降り出した雨は徐々に勢い増し、分厚い雲が空全体を覆っている。

 高速で通り過ぎる景色から推測すると、残り30分程で俺達も王都へと到着することが出来るだろう。


 ネルフィーからの連絡はまだないが無いが、バルバルからの情報では各街で鎮圧隊が組織されだし、順次王都へ向けて出発する手筈らしい。ただその距離と移動速度を考えれば、数日はかかってしまう計算になる。

 また、国王直属の諜報員であるマイケルとネルフィーが合流し、共に闘技場への潜入を試みていると言っていた。

 序列戦で実況を行っていたマイケルが諜報員であったという事にはかなり驚いたが、突如起きたクーデターの中、たった一人で敵に見つからず情報を集め、各街のギルドにそれを流していた事を考えれば、その有能さがうかがい知れる。


「兄貴、俺達が王都へ着いてからの動きはどんな感じになりそうっすか?」


「今わかっている情報から考えると、民衆が集められている闘技場の開放と避難に反乱軍の殲滅。それに加えフェルナンドの発見と拘束を同時に行っていく必要がある。そうなると各所にバラけて対応することにはなりそうだな」


「ん。ただネルフィーからの情報次第では優先順位が変わってきそう」


「だな。それに、ここから先は状況が目まぐるしく変わる可能性もある。情報の共有速度の速さは俺達の強みだ。随時連絡を取りながら対処していくって感じになるだろう」


「こちらの勝利条件としてはフェルナンド王子の捕縛と王都の奪還でよろしいですか?」


「あぁ。できるならフェルナンドは捕縛したいが、最悪の場合は殺してでもクーデターを止める必要があるな」


「承知いたしました」


 こちらでの話に区切りがついた頃、ちょうどネルフィーからの念話が入ってきた。

 ネルフィーによると、現在の王都はほぼ全域が反乱軍に占拠されている状況。特に王城と闘技場近辺の警戒は厳重であり、潜入することもなかなか難しいらしい。ただ、それでもネルフィー達は闘技場内部には潜入できているようであり、このあたりはさすがと言ったところだろう。

 途中ジョセフという囚人との戦闘になったと言っていたが、フェルナンドは犯罪者すらも戦力に数えているということか……。逆に言えば、余裕そうに見えて切羽詰まっているのは相手も同じなのかもしれない。


 さらに、民衆が集められている闘技場に爆弾が仕掛けられている可能性が高いとのことだ。そうなると、闘技場内に居る民衆全員が人質となってしまう。

 もう倫理観も道徳観もクソもない。このクーデターに信念など無いのではないかとすら感じる。それに、ここまでの緻密に計算された作戦とはかけ離れた王都内の状況は、フェルナンドの“暴走”と言い換えてもいいほどの所業だ。何がヤツをそこまで掻き立てているのかは理解に苦しむが……、だからこそ何をやらかすか全く読めなくなってしまった。

 唯一明るい情報としては、国王がまだ生きている可能性が高く、幽閉されている場所もある程度特定できているという点。


 それにしても、これほどの情報をたったの1時間で得てくるネルフィーの斥候としての能力の高さに驚愕を隠し得ない。ってかウチのメンバーって全員がマジで優秀すぎる。かなり個性的なヤツ等ばかりだが、それぞれが得意な事に特化しているだけでなく、互いの足りない所を補完し合えている。

 俺が好き勝手やれるのは、支えてくれるみんなが居ての事だと実感するな。


≪私の得た情報は今のところこれくらいだ≫


≪おう! さすがネルフィーだな。この短時間でよくこれだけの情報を得てきてくれた≫


≪役に立てたのなら嬉しく思うよ。あと、これからなんだが……闘技場に設置されている爆弾を探そうと思っている≫


≪……すまんな、危険な役割ばっかりやらせて≫


 ネルフィーの事だ。俺が頼みにくいのを分かって自分から任を買って出たのだろう。それが俺達の動きを制限しないために必要であることも見越した上で……。


≪フッ……、阿吽達が頼りにしてくれている、それだけで私は満たされているんだ。それに、探索や潜入は私の得意分野。安心して任せてくれていい≫


≪……ネルフィー。危ないと思ったら帰還転移ですぐに逃げて≫


≪ありがとう、キヌ。だが、私は私の役割を全うするよ≫


≪ん……。あまり無茶しないでね……≫


≪危ないと判断したらすぐに念話で呼んでくれ。俺達の中の誰かが必ず向かう≫


≪わかった。その時は遠慮なく呼ばせてもらうとしよう≫


≪俺達もあと30分くらいで到着予定だ。俺達が到着すれば自然とこちらに注目も集まる。そうなればネルフィーも動きやすくなるだろ?≫


≪そうだな。どうせなら派手にぶちかましてやってくれ。そういうのは、得意だろう?≫


 少し冗談の交じったネルフィーのセリフに張っていた空気感も弛緩する。これまでは情報が少なく、後手に回り続けていた事もあり全員がどこか不安を感じていただけでなく、色々考え過ぎて保守的になりかけてもいた。

 だが、それは俺達の性分には合わない! どうせやるなら自由に、派手に!

 それでネルフィーが陰で動きやすくなるというのならば尚更だ。街が壊れたらまた直せばいい。それに、その辺はルザルクの仕事だ。この反乱を鎮めさえすれば、あいつなら上手いことやるだろう。


≪任せとけ! ド派手に目立つのは俺達の得意分野だ!≫


≪フフッ……では王都で待っているぞ≫


 下がっていたテンションが徐々に上がってきた。

 それに、魔物になった時に決めたはずだ。自重も我慢もしないと!

 プレンヌヴェルトを攻められてからずっとイライラしていた気持ちもふっ切れた。ここからは俺達のターンだ!



 ……一応ルザルクには、念話で前もって謝っておこう。

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