第154話 幻影城第一階層


 外装を完成させた後、まずは1階層へと迷宮内転移をする。ここはドレイクとイルスが管轄するエリアだ。


 転移してすぐに目に飛び込んできたのは、まるで異世界かと勘違いするような景色だった。

 辺り一面澄み渡った青い空が広がり、空には台地と言えるほどの大きさの島が所どころに浮かんでいる。その数はざっと数えただけでも7つ。

 また、『浮遊諸島』とも呼べるその島どうしには大きな橋が掛けられており、浮遊島を順に進んでいくようなタイプのダンジョンだと分かる。ということは、最奥にボスが控えているのだろう。


「あ、兄貴! 様子見っすか??」


「おう! なんかすげぇ空間を作ったな。このアイデアは俺では思いつかなかったわ」


「実は兄貴にフロアを任されてすぐに思いついたんっす。それをイルスさんに手伝ってもらって作った感じっすね!」


「ほぉ、まだ魔物は居ないみたいだけど何を召喚する予定なんだ?」


「それもある程度は決まっているっす! ワイバーンとかハーピーのような飛行可能な魔物と、ゴーレムやサイクロプスのような防御力に優れた魔物をバランスよく配置しようと思っているっす!」


「めちゃくちゃ良いじゃねぇか! 超高難易度ダンジョンに相応しいフロアだ!」


 これは相当良いコンセプトだ。地上戦だけで考えても高防御・高火力の魔物で単純に攻略をするにも時間がかかる魔物に加え、空からワイバーンやハーピーが隙を見て襲い掛かる。立体的な戦闘を強要するだけでなく、常に倒す優先順位を考えながら安定した戦闘を継続しなければ、すぐにパーティーが崩壊するようなフロアだ。

 しかもサイクロプスに関してはSランク下位の魔物であり、その巨体に見合った物理・魔法防御を持ち合わせているだけでなく、目からビームを放出するような強力な遠距離スキル攻撃も持ち合わせている。

 そんな厄介な魔物たちが複数体徘徊しているこの第一階層は、守るべき後衛が常に狙われる場所と言い換えることもできる。

 このフロアの難易度をさらに上げるとしたら……


「これさ、地上に配置する魔物にクォーツスコーピオン加えたらさらに極悪なフロアになるんじゃね?」


「クォーツスコーピオンっすか?」


「あぁ。Aランク下位の魔物で、高い防御力に加えて麻痺や毒の状態異常攻撃を仕掛けてくる。後衛である魔法職や回復職が機能しにくいこのフロアで、そのパーティーの盾役であるタンクが状態異常にかかったら……」


「全滅待ったなしっすね……」


「しかもこのフロア、最終地点にはボスも待ち構えているんだろ?」


「はい。ボスエリアはヘカトンケイルとオウルベアを配置しようかと思ってるっす」


 おっ! なかなか良いチョイスをしたな。

 まずヘカトンケイルはSランク上位の魔物であり、単純にサイクロプスを強化したような魔物だ。魔法での遠距離攻撃を持ち合わせているだけでなく、2対4本の腕から繰り出される近接攻撃も予測しづらい。さらに武器を装備させれば高防御力に加え、攻撃手段が多彩になる。正に幻影城ダンジョンのフロアボスに相応しい魔物と言える。


 さらにSランク下位のオウルベア。フクロウのような顔と羽、熊のような身体を持つ魔物だ。このフロアのコンセプトである空からの攻撃を担っているのだろう。

 こいつはその肉体に騙されがちだが魔法を得意としており、空という攻撃されにくい場所から一方的に高火力の魔法を連発してくる。さらに近くにいる魔物を強化する支援魔法や回復魔法をも行ってくる厄介な魔物だ。

 オウルベア単体であれば魔力切れを狙ったり、攻撃の隙を突いて魔法や弓で反撃するなどの対応は可能なのだが……地上に居るヘカトンケイルがそれを許さないだろう。

 しかも単体でSランク上位のヘカトンケイルが強化されるとなるとその相乗効果は計り知れない。イルスからの助言もあったのだろうが、ドレイクのフロア造りのセンスが垣間見える選択だ。


「最高の組み合わせだ。ドレイクも魔物に詳しくなってきたな!」


「兄貴を見てて分かったんっすよ、敵対する可能性のある魔物の情報を持ち合わせている事で戦いを有利に進める事ができるって。なんで、最近は時間がある時に魔物図鑑を読んでるんっすけど、これが楽しくて。実は、もしフロアを任されたらどんな魔物を配置しようとか以前から色々考えてたんっす」


「アレは何度読んでも楽しいよな! ってか、ダンジョンポイント足りそうか? これだけの広大なフロアともなれば召喚する魔物の数もそれなりに必要だろ?」


「実は、全然足りなくて……それを兄貴に相談しようと思ってたんっすよ」


「んー。現状ではプレンヌヴェルトの改築もあるから、みんなに渡したポイント以上には渡せない」


「そうっすよね……」


「……だが、せっかくならドレイクのコンセプトを完成させてほしい。だから、これから定期的にポイントを渡すようにイルスに言っておく。そのポイントを上手く使って少しずつ魔物を増やしていくようにしてくれ」


「いいんっすか!? ありがとうございます!!」


「おう! 楽しみにしてるからな!」


「了解っす! 期待しててください!」


 よし、1階層はドレイクに任せておけば大丈夫そうだな。ってことで次は2階層、ネルフィーとバルバルのフロアだ。

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