第153話 幻影城


 階層管轄者と補佐を発表するとその反応は様々だった。

 ドレイクやシンクはやる気に満ち、キヌやネルフィーはすぐに階層をどのように作成していくかの思考を巡らせ、クエレブレとヤオウは驚きつつも不敵に口角を上げている。


 今回ドレイクの補佐としてイルスを付けているが、イルスに関してはプレンヌヴェルトダンジョンの増築という仕事も兼任している。一昨日話題にも挙がったが、プレンヌヴェルトダンジョンもこの改築計画には含まれているのだ。


 現在プレンヌヴェルトダンジョンは全30階層であり、最上階はヤオウがフロアボスを担っている。

 ただヤオウはこの数か月間、クエレブレの指導のもとで魔法障壁の訓練を行っていたらしい。これにより魔法障壁を習得しただけでなく、俺達がイブルディア帝国から帰還する数日前に【無支奇ぶしき】という種族に進化していた。

 ちなみに当然のように魔物図鑑に載っていない種族であり、戦闘力を見るために俺とタイマンでの模擬戦をしてみたのだが、その実力はアークキメラをも超える推定SSランクの中~上位。

 もし互いに本気を出し合った場合、現状の俺では勝算は五分といったところだろう……。


 うん。現状アルト王国所属の冒険者は、誰も30階層を突破できなくなりました! ってことでヤオウの配置換えをすることとなり、クエレブレの管轄する幻影城4階層のボス兼管轄補佐の役割を担ってもらうことにしたのだ。


 プレンヌヴェルトダンジョンに関しては50階層まで作成しようと考えている。大陸最難関ダンジョンを名乗るとなれば当然それくらいは必要となるだろう。たしかウィスロダンジョンの最高到達階層も48階だと聞いたことがある。うろ覚えだが……。

 ただまぁ、29階層までの難易度調整は概ね良好であり、2階層から9階層までの下層エリアであればEランクやDランクの冒険者も探索可能。10階層から20階層は中級者であるC~Bランク、21~29階層はA~Sランクが対象となっている。

 おさらいしておくと、現状のプレンヌヴェルトダンジョンの各階層はこのような配置だ。


<プレンヌヴェルトダンジョン>

【1階層】

 獣人村(プレンヌベルト村)

【2~8階層】

 迷路型フロア(F~Dランク魔物)

【9階層】

 セーフティーエリア

【10階層】

 ボス部屋(Bランク下位:リカント)

【11~18階層】

 平原エリア(D~Cランク魔物)

【19階層】

 セーフティーエリア

【20階層】

 ボス部屋(Bランク上位:牛頭鬼・馬頭鬼)

【21~23階層】

 沼地エリア(C~Bランク下位魔物)

【24階層】

 セーフティーエリア

【25階層】

 ボス・沼地エリア(ヒュドラ:Sランク下位)

【26~28階層】

 森林エリア(C~Bランク下位魔物)

【29階層】

 セーフティーエリア



 これに続く30階層は、猿型魔物軍団が森林エリアでトラップを駆使して陽動、ヤオウがその隙を見て殲滅というフロアだった。だがヤオウが進化し配置換えを行うことにしたため、ボスは新たに召喚予定となっている。

 まぁこの辺りの調整はイルスに任せ、引き続きダンジョンポイントを稼ぎつつ30階層以降のフロアは徐々に極悪な罠や魔物を配置していく方針だ。


 っと。それは良いとして、これから俺はアルスとやるべきことがある。


「阿吽、わらわ達は何から手を付けるのじゃ?」


「そうだな……、よし! いきなり幻影城の外装から制作しちまうか!」


「ぬ? 先に防衛機構を作らなくて良いのか?」


「うーん、防御機構って言っても俺達の管轄は最上階層だろ? まだ具体的なイメージが固まってないからな。外装が出来上がればイメージもしやすくなるんじゃね?」


「……本音は?」


「早く城造って、テンションぶち上げたい……」


「だと思うたのじゃ……。まぁ、阿吽らしくて良いのではないかのぉ」


「ハハッ、バレてたか。まぁ、せっかくだし楽しんでいこうぜ!」


 ってことで幻影城の外装制作から開始だ!

 まずはおおよその大きさを決める必要があるが、これはもう決めてある。大体常闇の森の25%を占める特大サイズだ。比較対象としては王都アルラインがすっぽり収まるくらいの広さだな。


 このサイズにしたのには理由がある。常闇の森の最奥は断崖絶壁となっており、その先には波が荒ぶる海域が広がっている。この地形を利用し天然の防御機構に組み込みたいのだが、ダンジョンの場所に関しては魔素を吸収する兼ね合いで大きく変更する事はできなかった。ならば、いっそソコまで敷地を広げちまえばいいと安直に考えたのだ。

 ダンジョンポイントも建築物のサイズに比例してかかってしまうが、どうせやるなら派手に使っちゃおう! っていうことで早速この範囲全てを巨大な外壁で取り囲み、その内部の木々をある程度間引く。そこに元々あった地形や生息していた魔物たちは現状そのまま放置してあるが、基本的にFやEランクの魔物ばかりであり、ここまで到達した冒険者にとっては脅威とはならないだろう。まぁ常闇の森の雰囲気を残したかっただけだ。


 次はいよいよ幻影城の本体。実はこれを考えた時からアルト王国中より参考となる資料をかき集め構想を練っていたのだが、その中に俺の心を掴んで離さない絵画があった。

 『空想上の城』と銘打たれたその絵は、200年以上前にシモンという画家によって描かれたものであったのだが、シルエットの美しさと見る者を圧倒する威圧感を兼ねた造形美は、現存するすべての城を軽く凌駕していた。幻影城はそれを俺なりにアレンジして作成する。


 まずはとにかくデカい洋館を“コの字型”に配置し、その周囲に高さの違う尖塔を左右対称に10本、洋館の中央背部にくっつく形で巨大な尖塔を1本の合計11本建てる。そしてその尖塔全てを空中回廊として半円形状につなげる。

これにより、遠くから見た際に全体のバランスが三角形になりつつも円の描く美しさが際立ち、尖塔が織りなす刺々しさが絶妙なスパイスとなるのだ。

 建材は壁部分を黒色や灰色のレンガに、屋根部分を濃い目の赤茶色のレンガにすることで色覚的にも見る者に禍々しさと威圧感を感じさせる。


 最後に、ダンジョンの機能だからこそ出来る演出として、巨大な魔法陣を城の上空に配置。

 これは何の効果もないただの飾りだが、“この魔法陣の効果により幻影城に侵入できない”という錯覚を植え付けることができるはずだ。


「よし、細かな装飾や中央の噴水広場はあとから作るとして、おおまかな外装はできたな!」


「これは想像以上に幻想的な建造物になっておるのぉ……」


「こうして見てみるとサイズも相まって威圧感がすげぇな。ってかアルト王城よりデカくなっちまった……まぁ、いっか!」


「オーガでも普通に歩き回れるほどのサイズじゃが、内装の割り当てはどうするのじゃ?」


「洋館部分はクラン員の寝室や浴場などの居住スペース、ドワーフ達の工房、食堂や図書室、会議室など所謂いわゆるプライベートエリアだ。相応に天井は高くなっちまったが……まぁ細かいことはいいだろ。

 ここにエルフやドワーフ達に与えたダンジョンポイントで内装を作っていってもらう。それと、洋館部分だけは外装制作時に攻略対象から外してあるから、俺と従属契約をした者以外に入る手段はない。だから“安全な拠点”という意味でもしっかりと担保できてる」


「ほぉ。ということは、その背後にある巨大な塔がダンジョンの攻略対象部分となるのじゃな?」


「そうだな。ダンジョンに入場するための転移魔法陣は噴水広場に設置する予定だ」


「ふむふむ。おおよそ把握できたのじゃ。その塔に階層を設けて、階層管轄者が各フロアを作成すると……」


「その通りだ。ってことで、俺はちょっと各階層の進捗を見てくるわ。アルスは最上階を守護する魔物を身繕っておいてくれ」


「……ダンジョンポイントの上限は?」


「糸目をつけるな」


「了解なのじゃ!」


 この数日後、常闇の森に突如として出現した巨城が冒険者によって発見され、後にスフィン大陸全土のダンジョン研究者たちを狂喜と混乱の渦に飲み込むことになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る