第28話 深紅のメイド


~阿吽視点~


 俺達は冒険者登録を済ませた後、減っていたポーションやキヌ用のマジックバッグを購入。その後、装飾品を見に行こうと歩いていると、急に目の前に人影が現れた。


「あぁ、あの……あの!」


 見た感じ女性の……冒険者? メイド?

 赤髪ポニーテールでメイド服に巨大な盾とハルバード……どんな組み合わせだよ。


「なんだ? 俺たちに何か用か?」


 話しかけた途端、メイド女はうっとりとした恍惚こうこつな表情を浮かべた。

 めちゃくちゃ美人なのに、何か凄く……いろんな意味で残念そうだ……。


「あ……あな……あなた様に! お話がぁ、あるのでごあす!!」


「ごあす?」


「ございますぅ!!」


 なんだろう……残念を通り越してキモくなってきた……。


「なんだ? 早く用件を言え」



「わ、わたくしは! でございます!! どうぞお召し上がりくださいっ!!」




「…………は?」



 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

 え? 何!? どういう事!?

 ちょ……周りの人めっちゃこっち見てるし!!


 俺が困惑していると、キヌがゆっくりとメイド風冒険者自称メス豚に近付いていった。


「おねぇさん、阿吽が混乱してる……それに、周りの人が多いから、落ち着いて話せる場所まで行こ?」


 キヌ! 落ち着いてる! 完璧な対応だ!


「はわわ……は、はい!」


 俺たちが歩き始めると、自称メス豚変態も後ろから付いて歩いてくる。

 とりあえずキヌに念話だ。


≪なぁキヌ、こいつ大丈夫か?≫


≪ん。悪い人じゃないと思う。気持ちが強すぎるだけ……落ち着いて話を聞こ?≫


 なんだかキヌに言われるとそんな気がしてくる。

 元々キヌは他人の心を感じ取るのに長けていたしな……


 近くにあったカフェに入り、紅茶を注文して話を聞く。


「んで? 話ってなんだ。落ち着いて話せ」


「わた、わたくしは、あなた様を探しておりました! その、食べていただくために!」


「おねぇさん、一つずつ話そ? まず、あなたは誰?」


 俺が質問をすると、どうしても意味が分からない方向に行ってしまうが、キヌが質問をすると落ち着きを取り戻せてきたようだ。


「わたくしは、その……元々オークガードでございました。

 あなた様に『豚野郎』と言われ、食べようともされなかった未熟なオークガードでございます。

 今はオーククイーンとなり、人化のスキルでこの姿となりました。

 な、名前は『シンク』と申します……」


「え? あのオークガード? フォレノワールの?

 あー、女だったのか……すまん。

 それと俺の事は阿吽でいい」


 ちょっとキヌさん、視線が痛い……

 さすがに豚野郎がダメだったのは分かるから……


「あ、あう、阿吽様……阿吽様っ!」


「いや、落ち着けって……とりあえず全部話せよ。時間はあるから」


 そこからシンクがどのようにオーククイーンとなったか、どんな経緯で名前が付いたのかを聞いた。

 それにしても、なんで俺をこんなに崇拝すうはいしているのか……意味が分からん。


「そうだったんだな。そこまでは理解した。

 それで? なんで俺に対してそんな感じになってるんだ?

 ってか、なんで食われたいんだよ?」


「その……あの時のわたくしは矮小わいしょうで未熟な存在でしたから、絶対的強者の阿吽様には養分にしていただけなかったのです。

 敬愛する阿吽様に食べていただけるよう、ダンジョンを出て日々努力を積み重ねてきました。

 今なら! 養分にしていただくには相応しくなったと自負しております!」


「阿吽……シンクさんは、多分阿吽に必要とされたいんだと……思う」


「ん? そういう事なのか?」


「必要としていただくなんて、烏滸おこがましい事は申しません! 食べていただけるだけで満足でございます!!」


「あー、なんとなく分かったわ。どうすっかなー。今更食うってのも違うんだよな……」


「阿吽、仲間に……しよ? シンクさんは、阿吽のために全力で頑張った。独りで……」


「んー、まぁな? 並大抵の努力じゃない事は分かる。

 自力で2段階も進化して【人化】まで身に付けるなんてな。でもなぁ……」


「私が、これから色々教える……ダメ?」


「……そうだな、分かった。キヌに任せる。

 ってことでシンク、お前もそれでいいか?」


「わ、わたくしは……こんな、こんな幸せなことがあって良いのでしょうか……

 あ、阿吽様の仲間にしていただけるなんて……」


「シンクさん、一緒に阿吽を助けよ?」


「キ、キヌ様ぁ! わたくしの事はシンクとお呼びください!

 これから死ぬまで……いえ、死んでからも! 阿吽様とキヌ様に忠誠をお誓い致します!

 不束者ふつつかものですが、どうぞよろしくお願い致します!」


「わかった。これからよろしくな、シンク」


 俺がそう言うと、従属契約が完了したようだ。シンクとの間にも繋がりができたのが分かる。


「阿吽様やキヌ様との繋がりが分かります……心が、温かいです……」


 それからシンクのステータスを確認しカフェを出ると、キヌは「色々と説明したいから」と言ってシンクと二人で迷宮帰還していった。

 さて、俺は装飾品でも見に行って、少しクエストを受けるとするかな。


 ……あ、ギルドでパーティー申請するの、忘れてた。


〈ステータス〉

【名前】深紅シンク

【種族】オーククイーン

【状態】

【レベル】42

【属性】地・水

【HP(体力)】7000/7000

【MP(魔力)】400/400

【STR(筋力)】56

【VIT(耐久)】98

【DEX(器用)】18

【INT(知力)】40

【AGI(敏捷)】22

【LUK(幸運)】10

【称号】従属者

【スキル】

・堅牢:5分間VITが50%上昇(MP消費10)

・ガードインパクト:盾で受けた衝撃とダメージを2.0倍にして相手に撥ね返す

・アースウォール:地属性防御魔法(MP消費40)

・アースバレット:地属性攻撃魔法(MP消費20)

・ウォーターボール:水属性攻撃魔法(MP消費20)

・人化

・他種族言語理解:他種族の言語が理解できる

・挑発:敵のヘイト注意を自分に集中させる(MP消費5)

・調理:食事を作成するときの時間短縮、レシピが無い料理も美味しく作ることができる


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〈装備品〉

・ハルバード

・オークガードの大盾

・メイド服(闘)

・レースアップロングブーツ(黒)

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