第29話 前兆
「久しぶりに一人で歩いてる気がする」
キヌがシンクとダンジョンに帰還したため、俺は久しぶりに一人で歩いている。
キヌと出会ってから1か月にも満たないのだが、もう隣にキヌが居るのが当たり前になっていた。
「予定通り装飾品でも見に行くか」
装飾品を見に来たのには理由がある。
キヌやシンクと冒険者として街に居る事が多くなることを考えると、ステータス隠蔽系の装飾品がどうしても欲しいのだ。
あまり出回っていないものであるため、値も張るだろうが、一応どれくらいの値段なのか、そもそも売っているのかを確かめに行くのが今回の目的だ。
まずは装飾品の専門店に入ってはみたものの、品評眼では隠蔽ができる装飾品は置いていない。
装飾品は基本高く、ここに置いてあるものは最低でも金貨2枚。
最悪ダンジョンポイントで出してもらえるが、ポイントはできればダンジョンの改造費に充てたい。
一応防具屋にも少なからず装飾品が置いてある事を思い出し、ダメ元で防具屋に来たのだが……
「あるじゃん……しかも安い」
なぜか売っていたのだ。
指輪が1つにネックレスが2つも……理由は分からないが3つ合わせても金貨1枚。
鑑定してみると状態も凄く良い。レアリティーは緑だけど全く問題ない。
手持ちの金で買えたため、今後の事も考えとりあえず全て購入し、店を後にする。
「ラッキーだったな。次は冒険者ギルドか」
パーティー申請はキヌ達が居る時にしようと考え、Cランクで受けられるクエストを見繕っていると、気になるクエストを見つけた。
レクリアから西に向かった所にあるモルフォアの森での探索と調査依頼である。
通常Cランク以上は討伐依頼が殆どになるのだが、今回は探索と調査……
依頼書を手に取り、詳しい話を聞いてみようと受付の女性職員に話しかけた。
「この依頼を受けようと思うんだが、調査だけでいいのか?」
「そうですね、このクエストは冒険者ギルドからの依頼です。
最近モルフィアの生態系が変化したと報告がありまして、その調査となります」
「そうなのか……具体的にどう変化したか教えてくれ」
「通常モルフィアの森は、CランクのレッドタイガーやDランクのコボルド系が生息してるのですが……それに加え、そのさらに西側にある『赤の渓谷』のモンスターが混ざっていると多数の冒険者から報告を受けています」
「赤の渓谷……。ビッグスコーピオンやグリフォンか?」
「よくご存じですね! その辺りのBランクの魔物が森へ入り込んできていると聞いております。なので今回は討伐ではなく、調査の依頼となります」
「わかった。別に討伐をしても構わないのか?」
「それはもちろん、可能であれば討伐もお願いしたいのですが……。Cランクでは討伐はなかなか厳しいと……あ、もしかして阿吽さんですか?」
「ん? そうだけど……」
「やっぱりそうなんですね! ギルドの中で噂になってました! 物凄くお強いと! でも無理はしないでくださいね」
「あぁ、ありがとう」
そう言うと俺は依頼書とギルドカードを手渡した。
「はい、受注完了いたしました。それではお気をつけて!」
受注を完了したので、俺はすぐにモルフィアの森へ向かう事にした。
◇ ◇ ◇ ◇
3時間ほど歩くとモルフィアの森が見えてきた。外からは特別変わった様子はない。
しかし、森に入り少し歩いていると、前方から2人の女性冒険者が走ってきた。
どうやら何かから逃げているようだ。
「大丈夫か? なにがあった?」
「え!? 逃げてください! ビッグスコーピオンが!」
「きゃーー!!」
さっそくお出ましか。森の奥から木々がなぎ倒される音が聞こえてくる。
「お前らは先に逃げててくれ。【迅雷】」
スキルを発動し俺の周囲に黒い電流が迸る。
目の前の木がなぎ倒され、1.5mほどあるサソリが姿を現した。
そのタイミングでマジックバッグから赤鬼の金棒を取り出して前方へ駆ける。
ビッグスコーピオンとぶつかる直前、両手で持った金棒をビッグスコーピオンの側頭部目掛けてフルスイングした。
さすが防御力に長けている魔物なだけに、外骨格が陥没はしているがこれだけでは討伐できない。
しかし真横に吹っ飛ばされたビッグスコーピオンは裏返っており、すぐには自力で起き上がれないようだ。
毒のある尻尾の棘に気を付けながら、動けなくなっているビッグスコーピオンの口元に金棒を何度か叩きつけるとそのままグッタリと動かなくなった。
「案外時間がかかったな。ん? お前らまだ居たのか?」
「ふぇぇぇぇ! ソロでBランクの魔物を倒しちゃってるぅ……」
「死んだと思ったわ。助かりました」
「いや、俺もクエストで来てるからそれは良いんだけど、やっぱりこの森の生態系は変化しているみたいだな」
「私たちも調査で来ているのですが、こんなに変化しているとは知らず……」
「シンクちゃんと会った時は、まだ普通だったもんねー。1週間前くらいかなー?」
「ん? シンク?」
「そうそう! めちゃくちゃ美人さんなんだよー!」
「はは……そうなんだな。とりあえずこの森は危なそうだ。二人はレクリアに帰ってギルドに報告しておいてくれ。俺はもう少し調査してから帰るから」
「わかりました。あの……お名前は?」
「阿吽だ。気をつけて帰れよ」
「阿吽さん、ありがとう! 阿吽さんも気を付けてねー!」
んじゃ、ちょっと森の奥まで走りますかね。
それから1時間程度森を走り回ったが、本来生息しているはずの魔物はあまり見かけず、グリフォンを2体とビッグスコーピオンを3体、レッドグリズリーを3体倒し、マジックバッグに収納しておいた。
やはり生態系が崩れているようだ。
俺が冒険者になってから10年以上、こんな事は起きていない。
赤の渓谷で何かが起きているのでは……と思いつつ、俺はレクリアへと帰還した。
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