第184話 嘘吐き


~ジョセフ視点~


「ば、爆弾!?」


「クフフフ、闘技場のどこに仕掛けられているかは分かりませんがねぇ。もちろん嘘ではありませんよ?」


 今まで話した内容は、そのほとんど・・・・が真実。唯一嘘をついたのは「自分の命に頓着しているわけではない」という部分のみです。

 この大半の真実の中にわずかな嘘を織り交ぜるというのは、単純ではありますが相手に悟られない有効な手法。それに今回は、特大の情報を二つ渡しつつ、私の要望を生き残る事から戦闘方法の種明かしにすり替えを行いました。

 “国王の命”や“爆弾”という時限的な制約が掛けられている中、私の真の目的を探るのは困難極まりないでしょう。


 私は嘘吐うそつきです。

 相手に本当の自分を悟られないようにするのは得意分野。武力での戦闘はもちろん大好きですが、心理戦というのも乙なものです。

 それに、この心理戦にベットするのは私の命。……そう思うと、ゾクゾクしてきますねぇ!


「その爆弾は、あとどれくらいで起爆するものなのだ?」


「それも分かりません。ただ、爆発すれば……クフッ、それはもう甚大な被害となるでしょうねぇ」


 ネルフィーさんというダークエルフは本当に気が抜けません。この会話をしている今も、私の一挙手一投足を見逃すまいと鋭い眼光を光らせています。

 それに、その高い武力や戦闘の流れを組み立てる知性と判断力は、私を大きく凌駕しております。加えて【分身】という目くらましと攻撃を同時に行えるような反則級のスキルは、【隠密】との相性が非常に良くその相乗効果も計り知れません。同じ暗殺者として、喉から手が出るほど欲しい能力です。

 さらに今の私の状況はすこぶる不利。腹部を貫いた矢には恐らく『麻痺』の状態異常を付与するエンチャントが掛けられており、手足が思うように動きません。

 ……しかし、不利だからこそ燃えるというもの。


「クフクフッ、盛大な爆発と一瞬で大勢の命が散る光景。その後の阿鼻叫喚の地獄絵図……、できるなら私も見てみたかったですよ」


「ヤバいですよ、ネルフィーさん! 一刻も早く闘技場に居る人たちを避難するか、爆弾を何とかしなければ!!」


 それに比べてこのマイケル君は良いですねぇ。正義感が強く、自己犠牲の精神を持ち合わせている。だからこそ、とても御しやすく攻略しやすい。

 さらにネルフィーさんの気持ちの動揺まで煽ってくれるなんて、この場に於いて最も私が行って欲しい行動。本当に最高過ぎます。全く隙が無いネルフィーさんの裏を付くならば、このマイケル君を利用しない手はないですねぇ。


「落ち着けマイケル。ジョセフが言っている情報の信頼性はそんなに高いとは言えない。そもそも、なぜこんな重大な情報を脱獄犯が知っているのだ?」


「そ、そうでした。確かにそこがクリアにならなければジョセフが言っている情報は信憑性が低いことになります」


「さすがネルフィーさん! 良い質問です! ……そうですねぇ、あなた方には特別に教えてあげましょうか。……10年前に自ら牢に入った際、私が何も工作をせずに捕まったと思いますか?」


「……どういうことだ?」


「簡単な話です。この国で一番正確で新鮮な情報を得られる場所である王城内に、盗聴用の魔導具をいくらか仕掛けてから捕まったのですよ。その魔導具は2個1対。先に仕掛けてから受信用の魔導具を持ち込むことができれば、牢の中でも常に情報が得られるというわけです」


「身体検査はどうしたのですか! 武器や魔道具の類は持ち込みなんか出来なかったはず! もちろんマジックバッグも牢に入る際は没収されます!」


「クフフ……、盗聴用の魔導具はどちらも非常に小型ですよ? たとえ身体検査であっても、誰も尻穴の中までは検査しません」


「……つまり、自身の体内に受信用の魔導具を隠して牢に入ったという事か……」


「その通りです! これで私が話した情報の信憑性は担保で来たのではないでしょうか?」


 ここまで上手く会話を引き延ばせたことで、麻痺の状態異常はかなり効果が弱くなってきています。それに逃げる準備もほぼ整いました。あとは一瞬だけでもネルフィーさんの注意を他に向ける事ができれば、私の魔法とスキルでこの場から脱出することが出来そうです。

 まぁソレもこの戦闘の前に仕掛けてあるんですがね。


――ドガァァァァン!!


「この音、なんですか!?」


「っ!? 通路の奥から何かが……来る」


 お、ちょうどその仕掛けが発動する“10分間”が経過したようです。

 私特製の泥人形マッドパペット達。数の有利が急にひっくり返れば、さすがのネルフィーさんも注意が分散するというもの。


「クフフ……それではお二方、私はそろそろ失礼させていただきますね」


「くっ! 待て!!」


「ネルフィーさんとは、またどこかでお会いしそうですね。……ただその時は、今回のようにはいきませんので……」


 水属性と地属性の混合魔法により地面を泥化し、自身の身体を潜り込ませて一回層下の通路へと移動。すぐに魔法を解除し地面を元に戻せば、私だけが逃げられる即席の非常口の完成です。

 マッドパペットたちは……ほぉ、もうやられてしまいましたか。やはりさすがの戦闘力ですね。


――フゥ……。さて、そろそろ私も自身の目的のために動き出すとしましょうか。

 10年前、私がわざと捕まってまで得たかった情報はとある・・・物のありか。王城内にあるのは分かっていましたが、その詳細な場所までは分かっていませんでした。それにあの存在を知っているのも極限られた者のみ。さすがの私も当時は潜り込む以外の方法がなかったですから割り切りもしましたが、さすがに腕は鈍ってしまいますね。

 それでもフェルナンド第一王子との契約を果たしたことで、左胸に刻まれた奴隷紋は消えております。これで私は晴れて自由の身。


 あとは……この王都が混乱すればするほど私は目標が達成しやすくなります。せいぜい【星覇】のみなさんにも頑張ってもらわないと。

 それにしてもネルフィーさんたちは、いつ二つ目・・・の爆弾の存在に気が付くのでしょうね。


 クフフフ……、やはり私は嘘吐きです。

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