第125話 先輩の大冒険①


~名もなきゾンビ視点~


 ワイはゾンビや。名前はまだない。

 自我に目覚めたんは最近の事やけど、軽く100年間はボーっとしながらこのダンジョンを彷徨さまよっとった。

 迷宮ダンジョン産まれ迷宮育ち、悪そうな魔物ヤツはだいたい友達! 言うてな!


 ワイみたいな最弱の魔物はな、ダンジョンっていう閉鎖的な場所やないと一瞬で殺されてまう。せやけどダンジョンの中も世知辛いモンでな、ゾンビっちゅう底辺の魔物とは誰も仲良うしてくれへんのや。寂しいモンやで……。

 

 いや、「さっき悪そうな魔物はだいたい友達言うてたやん!」とかいうツッコミはナシやで? ゴリゴリのボッチですわ。

 まぁ魔物ってのも本能や感情はある。短絡的なモンやけどな。ワイもあの人等に出会う前は、話すのも恥ずかしなるような、ショボい思考しかでけへんかった。

 アンデッドなのに「死にたくない」「独りは寂しい」って何のギャグやねんって話や……そのせいで、こないな独り言を喋るけったいな癖までついてしまったわ。ほんまに自分でも笑ってまうて。


 それでも、少しは頑張ったんや。3階層の魔物なら話し相手もおるかもしれへんって思って、ガーゴイルに「あうあぅあー」言うて話しかけたり、リビングアーマーの背中にくっついてみたりもした。宝箱に擬態してはるミミックにちょっかいかけて食われそうになったりもした。

 あん時はビックリしたでぇ……。ジタバタしてたら中に入っとったアクセサリー不意に引っこ抜いてしまったわ……。


 そんな失敗ばっかりしとったらな、だんだん諦めがついてくんねん。「どうせワイみたいな弱い魔物は何してもダメなんやー」とか、「このまま木の皮だけ食って、いつか殺されるんやろなー」とかな。

 せやけどな、ある日突然現れたあの人等が教えてくれたんや。ゾンビってのもそんな卑下する存在やないってな。


 信じられるか? バケモノみたいな圧倒的強者達が、ワイの事を“ゾンビ先輩”って呼んでくれたんやで?

 しかも『アウン』って呼ばれとった兄ちゃんなんか、元々はワイと同じゾンビやと思うわ……同族にしか分からへん感覚なんやろうけど、なぜかピーンと来たんや。

 あんな若い兄ちゃんが最弱の魔物からあそこまで強うなれるなんて……そりゃ涙無しじゃぁ語れへん壮絶な物語があったんやろなぁ。ワイのような熟成されたゾンビには分かるんやわ。


 そう考えたら、なんや自分が恥ずかしなってきてなぁ……あの人等の言う“先輩”ってのになりたい、なったるんや! いつかあの人等に胸張って再会できるよう、かっこええ男に……背中で語る“渋い男”になったる! って本気で思えたんや。


 そっからはもう無我夢中やった。ワイにできることなんか噛みつくくらいやったしなぁ。

 最初トレントに嚙みついた時なんかは、ビビり過ぎて小便ちびりそうやったわ。いや、ちょっと出てたかもしれへん……。


 ゴーレムって魔物を乗り回した時も、文字通り骨が折れたわ。噛みつこうにもアホみたいに硬いし、背中にしがみつくのが精一杯やったでなぁ。

 そんなこんなで、何とかダンジョンを出た頃には何回か進化して、今では『死者騎士デスライダー』なんていう種族になっとったわ。

 死に物狂いで頑張った甲斐はあったんやな。


 ダンジョンの外に出てからも、ゴーレムはとんだじゃじゃ馬でなぁ、最初は全然言う事聞いてくれへん……。暴走して色んな魔物を吹き飛ばしながら走り回りよる。まぁそのお陰で、ワイのレベルはガンガン上がったから儲けもんやったけど。

 それでも、必死に話しかけとったらどんな魔物とでもいずれ心は通じ合えるもんなんや。このゴーレム君みたいになぁ。数週間経った今では背中を預け合う相棒や。まぁ、ワイはその背中に乗ってるだけなんやけどな?


 せやから、現在進行形でワイとゴーレム君を足で掴んでるこのワイバーンって魔物とも、いつかは心が通じ合えるはずや……。

 ワイらは今、この広い大空をワイバーンに掴まれて飛んでる……そう、風になってるんや。

 外の世界は広い。こんな高い所から見ても端っこが見えへん。いや、現実逃避してるっていうわけやなくてな。ワイは、このワイバーンとも仲良うなれるって本気で信じてる!


 せやから、早う地面に降りてくれへんかなぁ……。




◇  ◇  ◇  ◇




 いやぁ、ひどい目に遭ったわ……。

 まさかワイバーンが4日も空を飛び続けるなんて思わへんやん……。しかも、やっと着地した所が火山島にある火龍とかいうごっついドラゴンの巣って何のドッキリやねん! そりゃもう死に物狂いで逃げたったわ!

 逃げるんは恥? 誰とでも仲良うなれる?

 アホか! 友達ツレをブレスで燃やすやからがどこの世界に居んねん! 大概にせぇよ!


 逃げ切れたんは運が良かったのとゴーレム君のお陰やろなぁ。偶然ミミック君からパクった『紅焔のネックレス』の耐炎効果とワイ自身に火属性耐性があって、ゴーレム君が身をていして守ってくれたからギリ死なへんかったけど、普通のアンデッドなら火葬やで! 

 せやけど、火龍のせいでワイの身体は骨だけになってしまったし、一緒に燃やされたゴーレム君はドロドロになってワイの身体と一体化してしまうし、そのせいで種族も変化してるしで踏んだり蹴ったりや……


 なんやねん、この『業火の冥府騎士フレイムヘルナイト』って種族……カッコ良過ぎやろ! ほんまおおきにやで!

 まぁ仲良うなったゴーレム君と一体化できたんは不幸中の幸いやったんかもしれへんな……ゴーレム君はワイの鎧として共に生き続けるんや。

 ……またボッチに戻ったとか言うたらアカンで?


 やんや言うてもや、この島からどうやって脱出したもんやろか……。

 海を泳いで渡るなんて絶対に無理や。

 試しに足だけ海水に入れたら、えげつないダメージ入ってもうたしな。

 そもそも、こんな重い鎧がどうやって浮くっちゅうねん。


 でもまぁ、こういう困難を乗り越えてこそ、あのアウンって兄ちゃんに尊敬される“先輩”になれるってモンやんな。ポジティブに生きてこ!


 種族がアンデッドの時点で死んでるって? やかましいわっ!!

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