第18話 第一回迷宮魔改造会議①


 目が覚めるとキヌは俺の腕に抱き着いている。「まだ寝てるのかな?」と思いつつ、頭を撫でるとキヌはゆっくりと目を開けた。


「おはよう、アウン」


「おはよう。ごめんな、起こしちゃったか?」


「ううん。少し前に起きてた。夢じゃなかったんだって……実感してたの」


「そうか。それなら良かった。ちょっとアルスとイルスにも話したい事があるんだ。キヌもきてくれ」


「ん。わかった」


 そう言うと二人でコアルームに歩いていった。


「おはようなのじゃ、二人とも。よく眠れたかの?」


「おう、おはよ! あのさ、アルスとイルスにも話したい事があるから。ちょっと集まってほしい。イルスもこっちに来られるのか?」


「大丈夫じゃよ。分体コアも転移可能じゃ。今呼んでおいたからすぐ来ると思うのじゃ」


「そうか、ありがとな」


「おぉ! アウン、キヌ昨日ぶりでござる! 話とはなんなのでござるか?」


「あぁ。これからの事について、話しておきたい事と、聞いておきたい事がある。とりあえず、まずは俺の話を聞いてくれ」


「わかったのじゃ」


 周囲を見渡すと全員が頷いている。

 俺はこれまでの事と、考えている今後の計画についての全てを話した。


「実はな、俺は元々人間なんだよ。ソロで冒険者をやってたんだ。

 14歳までは爺ちゃんに育ててもらって、闘い方とか魔物についてとか、色々教えてもらってた。

 それから冒険者になって、まだ駆け出しだった頃に当時組んでいたパーティーの仲間に裏切られて死にかけたことがあってさ……それからは独りでずっとやってた。

 魔物になった理由は分からないんだけど、ある冒険者パーティーに騙されて、殺されたらゾンビになってたんだ。

 それで生きていくために他の魔物を倒してレベルを上げたりしてたら、このダンジョンを見つけたってわけだ」


「そうだったのでござるか、それでアルス殿を吸収し、キヌと出会い、拙者も吸収したって流れでござるな?」


「あぁ、大まかに言うとそうだ。それでな、3人と出会って分かったんだ。俺は独りじゃないってさ。

 人間の時にはずっと感じてた孤独感が、今は感じないんだ。

 だから、これからの事をみんなにも知ってもらいたいと思って集まってもらった」


「そうなのじゃな。もう、わらわもイルスも言わばアウンと一心同体じゃからな。決して裏切ったり、騙したりはせぬよ」


「おう、ありがとな。

 それでさ、これからの事なんだけど、俺とキヌはもっと強くならなきゃいけない。

 この幸せを壊されないように、全生物の中で最強になるくらい強くなると決めている。

 これは、俺とキヌの二人の目標であり、約束だ。

 もう一つは、俺の……夢だったことを成し遂げたいと考えてる」


「アウンの夢?」


「人間の冒険者ギルドには、“クラン”っていう共同体を作ることができる制度があるんだ。それで、俺は信頼できる仲間たちと『最強で最高な、家族のようなクランを作りたい』って夢がある。仲間のために必死になれる、仲間のために全力になれる、そんな奴らを集めていきたい」


「ん……アウンの夢は、私の夢」


「良いのではないかの! 面白そうじゃ!」


「拙者、コアながらワクワクしてきたでござるよ! それで拙者たちは何をすれば良いでござるか?」


「そうだな、ここからはダンジョンの機能についても絡んでくるから、質問しながら話していきたいと思う。

 まず、このフォレノワール迷宮に関しては“クランハウス”としての機能を作っていきたい。言わば安全な拠点だ。

 その点で言えばこのフォレノワール迷宮は最高に安全な場所になる可能性が高いと考えてた。

 ここからは質問なんだが、例えばこのダンジョンを外部からの侵入ができない形状にすることは可能か?」


「うーん、そうじゃな。可能と言えば可能じゃ。色々ハードルはあるがのぉ……」


「ハードルってのは、昨日イルスが説明しようとしていた事と被るのか?」


「そうでござるな。ちょうど良いタイミングでござるから、ダンジョンの役割や細かい機能なんかについても説明して良いでござるか?」


「あぁ、頼む」


「まず、ダンジョンというのは、この世界の至る所に存在しているでござる。

 理由としては、このダンジョンが魔素の循環機能を担っているからでござるよ。

 そもそもこの世界、『星』と言い換えてもいいでござるが、この星は、魔素というエネルギーを循環させて生命活動を維持しているでござる。

 人間や魔物、植物などの全ての動植物も、少なからずこの魔素をエネルギーとして動いているのでござるが、その動植物が活動したり、死亡した時には魔素が流れ出るでござる。

 この流れ出た魔素を吸収し、星に流すために存在するのがダンジョンという場所でござるな」


「マジかよ……そんな役割があったんだな……」


「それで、この吸収した魔素を星に流す際にダンジョンポイントが発生するのでござる。

 このダンジョンポイントを使ってダンジョンを大きくしたり、アイテムを出せるようにしたりするのは、効率よくこの星に魔素を流せるようにするためでござる。

 戦闘という活動や、死亡したときに流れ出る魔素は、何もしていない時より何十倍もの魔素を放出するでござるよ。

 さらにダンジョン内の方がこの魔素の吸収量は多くなるでござる。人間は、レアなアイテムや強い装備を欲するでござろう? だからそのアイテムを餌にしてダンジョン内での戦闘行為を行うように誘導をしているのでござる」


「それにしては、フォレノワールは俺が初めて入ったダンジョンだったよな?」


「それはのぉ、このフォレノワール迷宮の管轄である、常闇の森が関係しているのじゃ。

 一応ダンジョンの周囲に広がっている常闇の森からは魔素を吸収できておったのじゃが、元々この土地はアンデッドが多くてのぉ。人間があまり入ってこぬのじゃよ。じゃから吸収できる魔素も少なく、ダンジョンポイントもあまり貯まらなかったのじゃ。

 ポイントが無ければ強い魔物を召喚することもアイテムを出すことも難しいのじゃよ。さらに生成された入口が滝壺じゃからな。全く見つけられず、悪循環に陥っていたのじゃ……」


「あぁ、そういう事だったんだな……で、そのハードルとどう関係するんだ?」


「それは、この魔素を“少なからず循環させなければならない”ということでござる。

 入口を閉じてしまうと魔素を吸収することがより難しくなるでござるから、基本的にはできないのでござる。

 ただし、それを可能にする方法はあるでござる」


「ほぉ? それはどんな方法なんだ?」


「方法自体はそんなに難しいことではないでござるよ。

 単純にこのフォレノワール迷宮のためにダンジョンポイントを使用すれば良いのでござる。

 ダンジョンポイントを使用した際にも魔素は使われるでござるから、ポイントを定期的にフォレノワールダンジョンで使用する事ができれば、入口を閉じる事も可能でござるが……

 ポイントが稼げないのでは不可能でござる」


「そうなのか……いや、待てよ?」


 ここから俺たちの迷宮魔改造計画の方針が固まっていくのだった。

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