第17話 キヌの一番
~キヌ視点~
私は雪原で生まれた。周りには私と同じ種族、狐の魔物が居る。
でも“今の私”はみんなと違う特徴が2つある。
ひとつは毛色、みんなは雪のような白い毛色なのに、わたしだけ薄く金色がかっている。
もうひとつは尻尾の数、私だけ2本ある……生まれてすぐはそんなことなかった、みんなと同じ。
でも、今朝起きたらみんなとは違う姿になってしまった……
姿が変わってからは、今まで協力していた仲間たちから攻撃をされるようになった。
みんなから「お前は仲間じゃない」って声が聞こえる……
なんで? 昨日まで一緒に狩りをしていたのに……どうして?
私はみんなと同じ種族。そうであると思いたい。
でもみんなは私を仲間だとは思ってくれていないみたい。
このままじゃ仲間に、友達に殺されちゃう……私は弱い。独りでは戦えない。
私はみんなと一緒に居たいのに、一緒に居させてくれるだけで良いのに……
もう『逃げる』という選択肢しか、その時はなかった。
私は仲間を傷つけたくない。
2日間、色々な事を考えながら走り続けた。
姿が同じって、そんなに大切な事? じゃあ私はこの世界で独りぼっちなの?
仲間が欲しい。友達が欲しい。家族が……欲しい。
気が付いたら雪原から荒野を越え平原にたどり着いていた。
そして狼型の魔獣の群れに、囲まれていた。
この狼達は良いなぁ。同じ姿をしていて。私はここで死んで食べられてしまうのかな?
でも仕方がないかな。私には仲間が居ないし、弱い。それに、ちょっと疲れちゃった。
…………でも、嫌だ! 死にたくない。
私は、こんなところで、こんな形で死にたくなんかない。
死んでやるものか! 食べられてやるものか! 最後まで……闘ってやる!
「よぉ、助けはいるか?」
え? 誰?
本能が言っている。この人は敵じゃない……
助けてくれるの?
狼たちがその人に襲い掛かってからは一瞬だった。
正直、何が起きたのか分からないけど目の前に居た狼達がすべて死んでいた。
この人、凄く強い。
でも……怖くない。私には一度も敵意を向けてない。
「珍しいな、お前二尾か。あ、そうだ、マジックバッグに回復のポーションが……あった!」
何かの液体をかけられると、仲間だった狐達やさっきの狼達に付けられた傷が治っていく。
ちょっと冷たいけど……ブルブルッ
「見たところお前一匹のようだけど、一緒に来るか? 俺の仲間になれよ」
え? 仲間になってくれるの? 家族に……なってくれるの?
仲間に、なりたい! そう思っていると繋がりができる感覚がした。
とっても暖かい、安心できる感覚……もう二度とできないと諦めかけていた感覚……。嬉しかった。
違う種族でも、違う姿でも仲間になれるんだ。
名前も付けてくれた。
みんなに嫌われた、この毛色を綺麗って言ってくれた。
とても素敵な名前『キヌ』。
それから一緒にいっぱい狩りをした。
いっぱい進化もした。
いっぱい強くなった。
いっぱい……話しかけてくれた。
でも、私はまだアウンに何もしてあげられていない。さっきも一撃でやられちゃった。
何にも役に立ててない。
私の事を心配して泣いてくれているこの人の、アウンの役に立ちたい。
アウンと一緒の姿になりたい……
大きな樹の下でそんなことを思っていたら【人化】っていうスキルを見つけた。
もしかしたら……!! 一回、練習しておこう。
わぁ……ちょっとちっちゃいけど、アウンと同じ種族の姿? なのかなぁ? でも、これでいつでもアウンと一緒の姿になれる。お話もできる。アウンの事をもっと知る事ができる。ずっとアウンの隣に居られる。
……驚いちゃうかな? なんて言われるんだろ? なんてお話ししよう? 分からない。
あ、アウンが出てきた。何か恥ずかしい。
でも……逃げちゃだめだ。んー、抱き着いちゃえ!
「アウン、わたし……キヌ……」
「…………え? キヌは狐の……んん? えぇ!? キヌ!?」
「ん……キヌ」
ちゃんと伝わったかな?
え? なんで逃げるの?
おーい、キヌだよー? あ、服……?
「アウンと……お揃いがいい……」
ん。なんとか信じてもらえてよかった。
その後、お願いしたら一緒に眠ってくれた。明日の朝、目が覚めてもし私が違う姿になっていても……アウンなら私を仲間外れになんかしない。
アウンの体温を感じると自然と安心することができた。
今日は私の人生で、一番嬉しかった事がいっぱいあった。
姿が違っても、種族が違っても、仲間になれるって教えてくれた。
アウンと一緒なら、これからもいっぱい一番が増えるのかな?
わたしはアウンの一番になれるのかな?
ううん、私が一番じゃなくても良い。
私の中でアウンが一番なのに、変わりはないんだから。
多分アウンは、これからいろんな人の一番になると思う。
それを一緒に共有したい。一緒の夢を見ていたい。一緒の時間を過ごしていたい。
そのためにはアウンとの約束守らなきゃ!
伝説になるくらい強くなろう!
アウンとならそれができるって……信じてるから!
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