第16話 変化と安心



 イルスから説明を聞いた後、キヌを探しに木の外に出てみたが、姿が見えない。


「木の裏側か?」


 大木の裏側へ歩いて回っていくと木の陰から急に誰かが飛び出し、抱き着いてきた。


「ん? え?? だれ?」


「アウン、わたし……キヌ……」


「…………え? キヌは狐の……んん? えぇ!? キヌ!?」


「ん……キヌ」


 よし、冷静になれ。いつも通りまずは状況整理だ。


 パッと見、12歳くらいの少女だろう。

 綺麗な薄い金髪に三角の獣耳、優しそうな瞳、小さな身体に細い手足、透き通った白い肌……

 あれ? 白い肌?? ……服、着てな……


「キヌちょっと待ってろ! イルゥーース!!!」


 【迅雷】を発動させ最速でイルスのもとに駆ける。

 ビクッとしたイルスを無視し、最初の命令を伝えた。


「ダンジョンマスターとしての命令だ! 今すぐ美少女の服をダンジョンポイントで用意しろ!!」


「どうしたのでござるか!? 美少女の服!?」


「そうだ! なんでもいい! 早く! 今すぐだ!!」


 頭は混乱しているが、これが最適・的確な判断と指示だろう。

 我ながら冷静かつ完璧だ!


「アウンと……お揃いがいい……」


 振り向くと、美少女がひょこっと木の陰から顔だけ出している。


「イルス! 俺とお揃いだ! 金に糸目は付けるなっ!」


「さっきと言ってることが違っ……「イルス!!」わかったでござる!」


 イルスは赤色の宝箱を出現させ、中から一着の服を取り出した。

 さっそく鑑定! レアリティー……赤!?


≪浴衣ドレス(絢):防御力15。和の国の少女憧れの一品。とある職人の初期作品≫


「さすがイルス、最高の仕事だ!」


 キヌが服を着終えると、ちょこちょこと歩いて近づいてきた。え? 天使か?


「アウン、イルスありがとう」


「お、おう」 「良いのでござるよ!」


 正直、今になってもまだ驚いているし、目の前の美少女が本当にキヌなのか、なぜ人型になっているのかが分からない。

 あ、そうだ、ステータス確認!


「キヌ、もう一回しっかりとステータスを確認させてくれ」


 「ん」と一言呟き俺の小指を握ってくる。

 何この天使、俺を萌え死させる気なの?


〈ステータス〉

【名前】絹(キヌ)

【種族】天狐

【状態】疲労(小)

【レベル】30

【属性】火・光

【HP(体力)】3500/3500

【MP(魔力)】930/1000

【STR(筋力)】10

【VIT(耐久)】40

【DEX(器用)】20

【INT(知力)】100

【AGI(敏捷)】34

【LUK(幸運)】13

【称号】迷宮従属者

【スキル】

 ・ヒーリング

 ・明哲

 ・エネルギーボール→ファイヤーアロー(変化):火属性攻撃魔法(MP消費20)

 ・エネルギーウェイブ→ファイヤーウォール(変化):火属性範囲攻撃魔法(MP消費40)

 ・ファイヤーストーム:火属性広範囲攻撃魔法(MP消費70)

 ・狐火:自身の周囲に4つの焔玉を展開、自動防御機能(MP消費40)

 ・人化:自身の肉体を人型に変化可能(MP消費30 ON/OFF)


――――――――――――――――――――

〈装備品〉

 ・浴衣ドレス(絢)

 ・花柄下駄

――――――――――――――――――――


 色々とヤバいステータスだが、まずこの美少女はキヌで間違いはない。


 そして人型になったのは、【人化】のスキル効果だろう。キヌが進化する直前しかステータス確認してなかったから、俺は知らなかったわけか。


 種族は【天狐】で、【属性】を2つ獲得している。その影響でスキルが変化しており、火属性の単体高火力魔法、範囲攻撃とスキルでの自動防御が追加されている。

 それに加え、ステータスは【INT(知力)】が特化しつつも【VIT(耐久)】も増え、より耐久しながら多数相手にも戦えるスタイルになったと言える。


 しかも自分で回復可能という、一言で説明するならば『MPさえあれば大量虐殺が可能な魔獣』となっていた。


 ただ、不思議なことがある。キヌのレベルの上がり方が、異様に速いのだ。

 相手にしている魔物が同格以上であったことは間違いないし、複数相手でも範囲魔法でゴリゴリ狩りをしていた。だが、それにしても早い。

 すでに進化した回数を考えると魔物のランクで言えば、俺に追い付いている。


 今回の進化のタイミングも考えると、もしかしたら取得経験値は二人で分配されているのか?

 レベルに関しては、俺もレベルは38まで上がっているが……称号にある【迷宮の支配者】や【迷宮従属者】の影響もあるかもしれん。


 まぁこれに関しては、今は詳しいことが分からんな!


 結論……キヌは可愛くて強い!


「よし、確認できた。キヌめちゃくちゃ強くなったな」


「ん。でも、もっと……強くなる」


「そうだな! まぁでも、一旦フォレノワールってダンジョンに帰還して、少し休もうか。少し連続で戦い過ぎたし、キヌに関しては短期間で3回も進化してるわけだしな。さすがに身体を休めよう」


 そうキヌに伝えると、二人でフォレノワールのコアルームへと転移した。


 迷宮間転移は問題なくできたようだ。


「おー、おかえりなのじゃ」


「ただいま。アルス、この女の子がキヌだ。狐の魔獣だが、今は人化のスキルで人型になってる」


「キヌ……です。よろしくアルス」


「可愛い子じゃの! わらわはアルスじゃ。キヌよろしくなのじゃ」


「とりあえず話は起きてからにしよう。今日はもう休むつもりだからな。アルス、キヌの部屋作れるか?」


「アウン……一緒の部屋がいい……」


「……え? んじゃあ、ベッドもう一個作るだけでいいか?」


「いらない……アウンと一緒に寝る……」


「いや、さすがにそれはー」


「寝るのが……怖いの。また独りになっちゃうんじゃないかって……ダメ?」


「いや、うーん、でも……」


「よいのではないかの? キヌを安心させてやるのもマスターの役目じゃぞ?」


「……まぁ。そうか。それじゃあ、一緒に寝るか」


「ん。ありがとう、アウン」


 俺と出会う前に何かあったのだろう。

 俺から詳しくは聞かないが……独りの辛さは俺も知っている。


 二人でベッドに入るとキヌが抱き着いてきたが、少し震えている。安心できるように頭を撫でてやると、震えが止まり、スゥスゥと寝息が聞こえてきた。


 「疲れてたんだな」と思いながらも、安心したように眠るキヌの寝顔を見て久しぶりの小さな幸せを感じ、俺もいつの間にか眠りに落ちていた。


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