第195話 因縁の決着
~ブライド視点~
「ぐぶっ……ガハッ……」
徐々に縮んでいく己の身体。そして、斬り裂かれた胸部から溢れ出る血液。
二度と戻らないと覚悟を決めて使った魔人化の状態から、たった数分で人間の身体へと強制的に戻されてしまった……。
不本意ではあったが呪われた武具を使い、【魔人化】まで使っても、最後までアウンにはまともにダメージを与える事ができなかった。
それに、もう俺はかろうじて指が動く程度しか身体に力が入らない。
「あれを食らって、まだ息があるのか。本気で打ち込んだんだけどな」
「抜かせ……。貴様はまだ、余力が残っているだろう……」
「そうかもな。ただ、最後の一撃は紛れもなく今の俺にできる最高の攻撃だった」
「フッ……そうか。これで通算49戦目……、俺の負け越しが決まったな」
「14年前からのタイマンの結果なんて、よく数えてたな……」
まだアウンとパーティーを組んでいた時は、“模擬戦”と称してタイマンでの喧嘩を頻繁に行っていた。それはどのような理由で始まったのか、どちらが仕掛けたものなのかは全く覚えていない。ただ、互いに負けず嫌いな性格から負けたままでは終われず、幾度となく本気の勝負をしてきた。
最初の頃は数回の負けはしたものの、俺の方が大きく勝ち越していた。それがいつの間にか勝率が5割に近付いていき、最終的には1つの勝ち星が俺に残っていただけだった。
……だがそれも、序列戦の決勝で敗れ5割に。そして今回の戦いで……俺の人生の最期に負け越しが決まってしまった。
「……アウン。俺は怖かったんだ。どれだけ必死に鍛錬を積んでも、それを追い越すほどのスピードで強くなっていく貴様がな……」
「……」
「グランパルズという魔族からの提案を受けたのは、誰よりも……貴様よりも、強くなるためだった」
「そうか……」
HPは……残り5か。出血の状態異常がある以上、もう俺に残された時間はそれほどない。
こんな最期になるなんて、本当に哀れなものだ。
だが、『どこで間違えてしまったのだろう』などとは考えない。俺がアウンを囮としてアルラインダンジョンに置き去りにした時に、そんな考えは捨ててきた。
あの時、アウンと共に歩んでいく人生を選んでいれば、こんな事にはならなかったのかもしれない。しかし、全ては自らが選択してきた道。後悔など、するだけ無駄というものだ。
「なぁブライド、別に俺はもうお前の事を恨んだり憎んだりなんかしてねぇよ。俺が本気で……心の底から強くなりたいと渇望したのも、お前という存在が居たからだ。本気で戦える相手ってのは、そうそう居るもんじゃねぇからな。その点は感謝すらしてる」
「気持ち悪い事を、言うな……。勝った、貴、様は……、死にゆく俺を、嘲笑……していれば、いい」
「寂しい奴だな。だがまぁ、そうだな……、これは俺の自己満なんだろうな」
「その、自己満足も、勝者の特権……だ」
残りHPは……3か。
死を間際に感じると、色んな事を考えるものなのだな。
願わくは、俺を騙し裏切った魔族共に一矢報いてやりたい気持ちもあるが……、もうそんなことはできるはずもない。俺は死んで無に還るだけだ。
俺の野望は潰え、目的は達成する事など出来なかった。
嵐の雲脚のメンバーはどうなったのだろうか……。奴等とは互いに利用し合うような関係だった。仲間意識があったかと聞かれれば、今考えても正直よく分からない。
ただ、別に嫌いだったというわけではないのは確かだ。利害関係であったとしても、同じ目的を持ち、人生を賭けて進んできた道を共に歩んでいたという点で言えば、少しは情があったのだろう。
俺の今までの状況を鑑みれば、あいつらもろくな状況になってはいないのは分かる。最悪の場合、既にこの世に居ない可能性も考えられるな。
まぁ、それを知ってどうという事は無いが……。
HP残り1……。
俺の命も、持ってあと数秒か。
さっきまで動かせていた指の感覚すら今はもうない。代わりに感じるのは耐えがたいほどの悪寒だけだ。
死ねば……、今まで培ってきた技術も、知識も、肉体すらも……、何も残りはしない。こうして死を身近に感じると、『怖い』という感情に脳が支配されそうになる。
だが、
唯一ライバルと認めたアウンに、弱い部分を見せるのなんか死んでも御免だ。
……ただ、不思議とコイツに託したくなる。俺の夢見た“世界の頂点”、そこから見る景色を。
「なぁ。アウ、ン……」
「なんだ?」
「誰に、も……負けるんじゃ、ねぇ……ぞ」
「当たり前だ、俺は世界最強になる男だからな」
「フッ……、黄泉の国から……見て、いる……」
「あぁ、しっかり見とけ。退屈なんてさせねぇからよ」
その言葉を聞くと同時。
俺の視界は暗転し、深い闇の中に意識が溶け落ちていった――――
<ステータス>
【名前】ブライド・イシュロワ
【種族】魔人
【状態】死亡
【HP(体力)】0/9900
【MP(魔力)】0/1800
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