第196話 フェルナンドの目的①


~ドレイク視点~


 城を目指して王都の街中を進んで行くと、後方から大きな破壊音が聞こえてきた。兄貴がブライドとの戦闘をはじめたのだろう。


「まぁ、兄貴なら全く問題ないっすね!」


 兄貴の心配をするなんて俺には100年早い。それよりも兄貴に任された王城の方を何とかしないとシンクねぇさんにどやされそうだ。

 そう思いながら【飛行】スキルを使い空へ舞い上がると、一直線に王城へと向かう。そうしてに見えてきたのは、王城の中庭。そこには数名の兵士は居るも、そこまで守りを固めているような様子は見られない。


「うーん。王城にはフェルナンドが居るはずっすけど、なんか妙っすね……」


 一番を固めているはずの王城の守りにそれほど人員を裂いていないだけでなく、キヌねぇさん達を下ろした際に見えた闘技場やその周囲の方が多くの敵兵が配備されていた。

 それがネルフィーねぇさんが言っていた爆弾と関係しているかもしれないが……、何かそれだけではないような予感もする。ただ、これは俺にとっては好都合でもある。


「さっさとフェルナンド見つけて捕縛しないと、余計な事されそうっす」


 眼下に見える兵士たちはすべて無視し、王城のバルコニーに降り立つ。

 ここは序列戦の後に兄貴が演説をした場所で間違いない。となると、この中の部屋から玉座の間へはそれほど遠くないはずだ。まずはそちらの方から探してみる事にしよう。

 

 バルコニーの窓には鍵がしてあったが、取っ手を引っ張り窓ごと破壊。中へと足を踏み入れるも、人の気配は全く感じられない。王城にもかかわらず、敵兵だけでなく使用人も居ないという不思議な雰囲気が逆に不気味に思えてくる。

 警戒はしつつ部屋から廊下へと出て、記憶を頼りに歩いていき、ひときわ大きな扉を開け玉座の間へと入って行く。すると、目に入ってきた光景は俺の予想していたいずれのものとも違うものだった。


「アンタは……もしかしてフェルナンド第一王子っすか?」


「その通りだ。来たのは君一人か? ドレイク君」


 この広間の中で、1段高い位置に設置されている玉座に深く腰掛け頬杖をついているフェルナンド。こちらを見下したように余裕を見せているその態度とは裏腹に、眼光は鋭く俺のことを注意深く観察しているのが分かる。

 ただ、その周囲に護衛の姿はない。その様子は“待っていた”という印象さえ受ける。


「ふむ……、いくつか予想していた可能性の中でもかなり良いパターンを引くことができたな」


「何言ってるんっすか? 周りに護衛も付けず、一人だけで俺とやり合えるとでも思ってるなら心外っすよ」


「いやいや。誤解を与えるつもりはなかったが、私は君と事を構えるつもりなど更々ないのだよ」


「それこそ意味分からんっすよ。俺の目的がアンタを捕縛することなのは分かっているんじゃないっすか?」


「ふむ……ドレイク君、少し話をしないか?」


「だからそんな時間は――」


「まぁ聞きたまえ。爆弾を仕掛けた場所は、闘技場だけではない」


「え……」


「そうだな……、数分でいい。私との会話に付き合ってくれたら爆弾の設置場所に関するヒントをあげよう」


「いやいや、それこそ捕縛して吐かせれば問題ないっすよ」


「私が設置したすべての爆弾は、私が死ねばその瞬間に起爆するように設定してある。もし捕縛されても、すぐさま自害するだけの用意はしてあるつもりだよ」


 フェルナンド王子は思ったよりも入念に今回のクーデターを準備していたようだ。それに、こちらの動きを予測し、それぞれの対応方法まで考えてあるらしい。

 ただ、ここにきてフェルナンドの目的が分からなくなった。爆弾を王都に仕掛け、それを起爆することが目的だとするのならばクーデターで自分が政権を握ったとしてもその後が続かないだろう。となれば爆弾を起爆するのは最後の手段のはず。

 まずは会話をして情報を少しでも引き出す事が優先になりそうだ。


「……仕方ないっすね」


「君が理解のある男で良かったよ」


「あんたの目的は何っすか?」


「目的は王位の交代だ。この玉座に座るのは私こそが相応しい」


「それにしたって方法が強引っすよ。こんな体制全てを壊すようなやり方が正解とは思えないっす」


「ふむ。まぁそう見えるだろうね。……では、少し話を広げようか。ドレイク君、君は他国の事をどれくらい知っているのだ?」


「いや、世界の情勢はまったく知らないっすけど……」


「であろうな。この国の民のほとんどは外の情報をそれほど知らないし知ろうともしていない。それに、この国は自国内だけを見れば平和なように見えていただろう。だが、実情はそうでもない。先のイブルディア帝国からの侵攻で何か感じた事はなかったか?」


「どういうことっすか? アレはこちらが圧勝に終わった戦争っすよ?」


「その通りだな。だが仮に、【黒の霹靂】がこの国に居なかった、または防衛に協力しなかったと仮定した場合、結果はどうなっていただろうね」


「そ、それは……」


「十中八九、帝国に一方的な蹂躙を許していた。それほどまでに他国とアルト王国には、大きな戦力や国力の差があるということだ」


 確かに、言われてみればその通りだ。

 魔導具の技術力の差は、あの魔導飛空戦艇を見れば一目瞭然。それに、スフィン7ヶ国協議会で訪れた帝都イブランドでは数えきれないほどの魔導具が街中で使用されているのも実際にこの目で見ている。その普及率の高さに驚かされたのは俺だけではないだろう。


 兵士の数に関してもイブルディア帝国とは比べるまでもないほどの差がある。

 イブルディア帝国から侵攻してきた兵士の数は飛空戦の乗員を入れて約6500名。だがそれが戦力のすべてではないのは明らかだ。イブルディア帝国の国土の広さや都市の数は兄貴やルザルク殿下から聞き及んだ程度だが、かなり大きな国であるらしい。

 

 対してこちらから駆り出された防衛戦力は5000名。王都アルライン以外の都市にも兵士は居るが、アルト王国内で王都アルラインに匹敵するほどの大きな都市はミラルダとレクリアのみ。現在都市開発をしているプレンヌヴェルトはそれ以上の規模になりそうだが、兵士の数となるとそれほど多くないのは俺から見ても分かる……。


 こうして話をしていると、フェルナンドの言いたい事はだんだん分かってきた。ただ、どこか違和感を覚える部分もある。というか、この状況はなんだかフェルナンドの話術にハメられているような気さえする……。

 しかし、ここでフェルナンドの意図や考え方を知っておくのは今回のクーデターを打開する上で重要な情報となるはずだ。

 今は口車に乗せられているフリをして情報を聞き出す事を優先しよう。

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