第197話 フェルナンドの目的②


~ドレイク視点~


 ここまででフェルナンドが言いたい事はアルト王国と他国との国力の差を問題視している事。それに対して警鐘を鳴らし、自らが王座に就くことで抜本的に問題解決をしようとしているという事なのだろう。


「ふむ。思っていた通り、やはり君は柔軟な思考を持っている」


「言いたい事は分かったんっすけど……、それと今回のクーデターがどういう関係があるんっすか?」


「そう結論を急ぐものではないよ。時間はまだまだある。ゆっくりと話をしようじゃないか。あぁ、爆弾は時限式ではないから安心したまえ」


 時間はある? フェルナンドは何かを待っているのか? 兄貴がブライドを倒してこちらに到着すれば、不利になるのはフェルナンドの方のハズなのに……。まさかブライドが兄貴に勝ってここに来るなんてことを本気で考えているわけはないだろう。

 爆弾のことに関しては嘘の可能性もある。……しかし、それを判断する材料はまだ不足している。


「話を戻そうか。本来、戦争に於いて一般のクランや【黒の霹靂】のようなパーティーの参戦がその戦況を左右するようなことになってはいけないのだよ。二つの理由でね」


「冒険者が影響力を持ちすぎるのを気にしてるんっすか? それこそ兄貴は政治とかには全く興味ないっすよ?」


「だろうな。だが今回はたまたま・・・・雷帝がそうだったというだけだろう? 他の者だった場合、それだけの力と影響力を持っていれば国を乗っ取ろうと考える者も多いはずだ」


「それはそうかもしれないっすね……。それで、もう一つの理由は?」


「それこそが私がクーデターを起こした理由だよ。あのイブルディア帝国の侵攻以後、一部の者は気付いてしまったのだ。……アルト王国が他国よりも様々な点で劣っている事をね。その火種が大きくなれば、いずれ王族の権威が失墜するのは明白。今のうちに手を打たなければ今回よりも大きい反乱が勃発し、それこそ収拾がつかなくなる」


「だからその前に代替わりを目論んだって事っすか?」


「まぁ、それだけではないのだがね。ただ、これで私がクーデターを企てた理由は分かったであろう?」


 ここまでの話にはフェルナンドが確固たる決意を持ってクーデターを起こしたことが伝わってくるような内容と話し方だった。ただ、これまでの状況を踏まえ冷静に考えてみると、その話にも細かな穴が見えてくる。

 この話が全て本音で語られている事であるならば、そもそもプレンヌヴェルトにまで強襲を仕掛ける必要性は全くない。兄貴やイルスが気付き対応していなければ、プレンヌヴェルトは今頃大惨事となっていた事だろう。それに、如何に大義があろうとブライドのような囚人を外に出していいような理由にはならない。それが今後の事を考えるなら尚更だ。

 フェルナンドの言う主張は、これまでの行動を考えるとどうしても“後付け感”が否めない。それにどこか底の知れない不気味さを感じる。この話を俺にしたのも恐らくは別の目的があってのことに違いない。

 ……ただ、これ以上フェルナンドとの会話に付き合っている暇はない。


「ここまでアンタの思惑に乗って話を聞いたんっす。そろそろ爆弾の事を教えてくれてもいいんじゃないっすか?」


「そうだな。約束通り爆弾の設置場所に関するヒントをあげよう。もう分かっているとは思うが、ひとつは闘技場だよ」


「……もうひとつは?」


「フフッ、もうひとつの爆弾を仕掛けたのは、ここ王城だよ」


「んなっ!? 正気っすか?」


「もちろん正気さ。精々必死に探し回ると良い」


 この王城の規模を考えると、ここで働く人たちがまだ多く残されているはずだ。

 それに王城と闘技場の二箇所は、大規模な防御障壁を張ることができるという点でもこの王都の守りの要のような場所でもある。さらに、王城は建物そのものがアルト王国の象徴となっている場所であり、アルト王国の政治全般を行っている心臓部分とも言い換えられる。

 ……もし破壊されてしまえば、国そのものがその機能を復興するまでに何年かかるか予測もつかない。


「アンタ……、イカれてるっすよ!」


「そうでもないさ。これでも色々と考えているのだよ」


 いつでも捕縛できるだけの力の差が、俺とフェルナンドの間にはあった。だからこそ余裕を持って会話をすることができていた。その優位性を、巧妙に仕組まれた会話の中ですべてひっくり返されてしまった。

 それだけこのフェルナンドという男は今回のクーデターを周到に準備してきただけでなく、頭の切れる人物だという事も同時にわかったが……。

 現状、フェルナンドの捕縛と爆弾の探索、この二つを俺一人で行うのは到底不可能だ。かといってこのままフェルナンドを放置するという判断が俺にはできない。


 さっきまで外から聞こえていた爆発音は、十中八九ブライドと兄貴の戦闘音だろう。ただ、それが今は不思議な程静かだ。もう兄貴がブライドを倒し終えたのだとしたら兄貴もすぐにこちらに向かってきてくれるはず。

 いずれにせよ、一度念話で報告をして指示を仰ぐ必要がある……。


≪こちらドレイクっす。フェルナンドを王城の玉座の間で発見したっす≫


≪おー! 早かったな! 捕縛できそうか?≫


≪それがちょっと厄介なことになってるんっすよ。フェルナンドの話だと、爆弾を闘技場と王城の二箇所に仕掛けられてるだけじゃなくて、フェルナンドの死亡が起爆のスイッチになってるみたいっす≫


≪マジか……、手段を選ばないやり方だな≫


≪どうしたらいいっすか? フェルナンドを捕縛してもすぐ自死されれば、爆弾が起爆して大変なことになるっす……≫


≪フェルナンドはとりあえず放置で良い。ドレイクは爆弾を探しに行ってくれ。爆弾の方を処理できればフェルナンドの取れる手段は無くなるはずだ≫


≪承知したっす!! 兄貴はこれからどうするっすか?≫


≪俺も爆弾の捜索を優先する。スキルの反動でステータス半減しちまってるけど、それくらいは問題ないだろうしな≫


≪分かったっす! なら、見つけたらまた連絡入れるっすね!≫


≪おう!≫


 スキルの反動でステータスが半減しているということは、兄貴の切り札である【祭囃子】を使ったということ。それほど呪いの武具を装備したブライドは強敵だったのだろう。それでもしっかりとケジメをつけてくるところが、兄貴の兄貴たる所以ゆえんだ。


 兄貴との念話で俺の役割はハッキリした。あまりごちゃごちゃ考えるのは元々苦手だったが、役割さえハッキリすれば全力で突っ走る事ができる。


 フェルナンドの方を見ると、うっすらと笑みを浮かべている。

 いいさ、今はフェルナンドの思惑に乗ってやろう。でも、掌の上で大人しく踊っていると思ったら大間違いだ。最後には必ずフェルナンドの目的をぶっ潰してやる!

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