第219話 迷宮都市ウィスロ

 

 プレンヌヴェルトを飛び立ち、およそ1日をかけて俺たちはウィスロへと到着した。ルナが話を通しておいてくれた事ですんなりと入国ができ、俺達の乗ってきた飛空艇は数日をかけて魔力を再充填してからプレンヌヴェルトへと帰還する予定となっている。


 簡単な手続きを済ませて発着場から外へ出ると、そこには帝都イブランドとは別の意味で栄えている街並みが目に映った。3階建てを越える建物が並ぶ大通りには、路肩に露店が立ち並び市場のようになっており、左右に目を向けると宿屋や酒場だけでなく武器防具、装飾品の店や工房などが多く立ち並び、活気に満ちた喧騒があちこちから聞こえてきた。


 道行く人々は人間だけでなく、亜人や獣人など様々な種族が入り交じっており、その服装は多くが迷宮探索のための装備品に身を包んでいる。それだけでここは“迷宮都市”と呼ばれる“冒険者達の聖地”のような場所なのだと理解できた。街全てが迷宮攻略のために作られ、冒険者だけでなく一般市民までもが迷宮を中心とした生活を営んでいるのだろう。

 それはイブルディア帝国の一都市でありながら、別の国であるような雰囲気さえ感じさせるほどだ。


「こりゃ……予想以上にすげぇ所だな」


「ん。阿吽から聞いてたけど、ここまでとは思ってなかった」


「そうっすね。ちょっと圧巻っすよ」


「私はウィスロに来るのが初めてではないが、相変わらずの活気に圧倒されそうになるよ。阿吽たちはこの迷宮都市ウィスロに関してはどれくらい知っている?」


「実のところあんまり詳しくは知らないんだよな……。ネルフィーはこの街やダンジョンの事は詳しいのか?」


「何と言うか……ノリでウィスロへ来てしまうあたりは阿吽らしいな。私は20年程前に、兄を探すためしばらく滞在していたことがある。その時と街の様相は変わっているが、ダンジョンの概要などの基本的な事は皆に伝えられるだろう」


「おー! それは助かる! 今晩にでも知ってる事を共有してくれるか?」


「であれば、半日ほど時間が欲しい。この街や現在のダンジョンの攻略状況などの情報を集め、合わせて説明できればと思う」


「もちろんそれで大丈夫だ。なら俺達はそれまでに宿を探しておくよ! 夕食後に部屋に集まって情報共有を行うとしよう! 宿が決まったら念話で伝えるから、ネルフィーはそれまでは好きなように動いてくれ」


 それから俺達は長期滞在できる宿屋を探し、『奏でる小熊亭』をしばらくの拠点とした。ちなみにこの宿屋はアルラインの『歌う小犬亭』やミラルダの『踊る道化亭』と経営母体が同じらしく、親戚経営を行っているとの事だった。そう考えると確かにおもむきが似ている気もする。これまでに泊まった宿同様に料理も美味しかったし、いい宿に当たったようだな。


「うっし! 夕食も終えたし、早速だがネルフィーからこの街やウィスロダンジョンに関する情報を共有してもらっていいか?」


「承知した。まず初めにウィスロダンジョンについての説明をさせてもらう。その方が色々と理解しやすいだろうからな」


 ネルフィーの言う『その方が色々と理解しやすい』というのはダンジョンがこの街の成り立ちに大きく関係しており、街独自のルールのようなものもダンジョンの概要を聞けば理解しやすいという事なんだろう。


 続くネルフィーの説明はかなり予想外な内容だった。

 まず、“ウィスロダンジョン”と呼ばれている迷宮は、この街の内部にある4つのダンジョンを合わせた総称とのこと。さらに、この4つのダンジョンは互いにリンクしており、難易度順に攻略する順番が決められているらしい。

 というのも、下位のダンジョンを攻略していない者は上位のダンジョンに入ったとしても転移で街の中に戻されてしまうのだそうだ。


 そして、その4つのダンジョンの難易度と名称はそれぞれ、初級【蛇の塔】、中級【狼の塔】、上級【獅子の塔】、最上級【竜の塔】であり、他国で一般的に“ウィスロダンジョン”と呼ばれるダンジョンは最上級にあたる【竜の塔】を指す言葉だが、正確にはこの4つのダンジョン全てを合わせて“ウィスロダンジョン”であるとのことだ。


 と、ここまでの説明を聞いて実際にダンジョン運営している俺達は同じ思考へと辿り着いた。


「……てかさ、このウィスロダンジョンって、明らかに誰かが意図的にシステムを作ったダンジョンだろ」


「そうでございますね。4つのダンジョンを連結させられるのは阿吽様のようなダンジョンマスターでなければ不可能でございましょう」


「ん。それに、攻略順序まで指定されているなんて、何か明確な目的があるようにしか思えない」


「その通りだ。このウィスロでは有名な話なのだが、このダンジョンは遥か昔にダンジョンマスターとなった人間が作ったものであり、冒険者を成長させるための要素がふんだんに盛り込まれていると聞く。だからこそ攻略するのに面倒となるギミックもあるらしいのだがな」


「……というと?」


「ボス部屋を開放するためには指定された素材を規定数集める必要がある。特に【竜の塔】に関してはかなりレアな素材を指定されるようだ」


「マジっすか!? ってことは、各階層を周回することを前提としているってことっすよね!?」


「その通りだな。上位のダンジョンともなると魔物からドロップするアイテムを規定数揃えるのはかなり大変で、実際にレアな指定アイテムはオークションなどでかなりの高値がついている。それゆえに、1パーティーでの完全攻略はなかなか難しいため、クランごとに攻略方針を決めて組織的に攻略を行っているのが現状のようだ。加えて、最上位ダンジョン【竜の塔】はボス部屋に入場できる人数の制限が緩和され、最大で30人以上の入場ができたという話も聞いた。それほどまでにボス部屋には強い魔物が居るという証明にもなるのだがな」


 まるでクランでの攻略が前提となっているかのようなシステムだな。冒険者個人やパーティー単位の成長だけではなくクランの成熟までも自然と促すための仕掛けとも捉えられる。

 となると、現状1パーティーで攻略をしようとしている俺達には不利に働く条件とも言い換える事ができる。

 これは、想定していたよりも攻略は困難を極めそうだ……。


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