第83話 師匠

「ドレイク、めちゃくちゃ強くなったな……これは俺も負けてられん」


「自分でも驚いてるっす。進化ってこんなに変化するものなんっすね!」


「いや、普通ここまでの変化は起きないと思う。種族による違いなのか?」


「どうなんっすかね……」


「フォッフォッフォ。まさか食うとは思わなんだが、無事進化できたようじゃな」


「うっす! 本当にクエレブレ様には感謝っす! ありがとうございました!」


「だな! ドレイクだけでなく、俺達にも魔法の事を教えてくれて本当に感謝している。ありがとう!」


「良いのじゃよ。これまで1200年はずっと一人じゃったからのぉ。久しぶりに誰かと話し、儂の技術を教える事ができて、この3週間は幸せじゃったよ」


「これからクエレブレはどうするんだ? もう“使命”ってのは成し遂げたんだろ?」


「そうじゃな。じゃが、儂は長年生きてきたことで半分霊獣の類になっておる。

 食事や睡眠は必要とせんが、生きていくためには濃密な魔素が必要なのじゃ。アスタラス銀嶺は氷の魔素が満ちておってのぉ、生きていくだけならここが最適な場所なのじゃよ。

 じゃから、もうしばらくはここに留まり、世界の行く末を見させてもらうつもりじゃな。」


 ん? それじゃあ、もしかして魔素の濃い場所でなら生きられるって事だよな?

 なら……ダンジョンの中なら問題なく生きていくことができるって事か?


 もし、それができるなら、今後も俺達はクエレブレに色々教わる事ができる。


「その“生きていくために必要な魔素”って属性は別に関係ないのか?」


「まぁそうじゃな。じゃが、この大陸でここほど魔素が満ちておる場所など他にはそうあるまい。

 今の儂には探し回る事もできぬしのぉ……。

 これから起きるであろう戦禍を見届けた後であれば、それこそ死んでも構わんがの」


「ならさ、俺達のダンジョンで暮らしてみないか? 俺達はまだ力を使いこなせていない。かといって教えてくれる師匠もクエレブレ以外に居ないんだ」


「どういうことじゃ? “俺達の”ダンジョンとは……」


「俺は3つのダンジョンのダンジョンマスターなんだ。俺と契約をしてくれればダンジョン内で暮らす事ができる。

 それに、俺たち5人以外にもたくさんの亜人や獣人たちがダンジョンで暮らしているから、話し相手に困る事も無いし、みんなはクエレブレに魔法や力の使い方を教えてももらえる。悪くない提案だと思うが、どうだ?」


 クエレブレは少し考えていたが、キヌの方を見ると何かを決心したようだ。


「まさかダンジョンマスターとは……わかった。なら契約とやらをしてくれ。

 この5人に魔法を教えるのも中途半端になっておるしのぉ。

 それにキヌ、そなたは力の使い方を覚え、レベルを上げれば儂を超える魔法の力量を持っておる。できれば最後まで教えてやりたいと思っておったのじゃ」


「ん。実は、結構行き詰ってた……教えてくれたら嬉しい」


「マジか。キヌはやっぱすげーんだな!」


「俺も氷魔法を教えて欲しいっす!」


「フォッフォッフォ。分かっておるわい。儂以外に進化をした竜人はドレイクが初めての事じゃしのぉ。それに他の3人も磨けば輝く原石みたいな者ばかりじゃ。こりゃ楽しくなりそうじゃの」


 その後、クエレブレと契約をした俺達は迷宮帰還でフォレノワールダンジョンへと帰還転移し、俺とキヌでクエレブレにダンジョンの説明や今までの経緯、帝国の侵攻についての説明を詳しく行った。


 だが、何となく引っかかっていることがある。

 『戦禍』という言葉を竜人族の里でも聞いたが、それは果たしてイブルディア帝国侵攻の事を言っているのだろうか……


「そういえば、さっきクエレブレが言っていた “戦禍”ってのは、イブルディア帝国の侵攻の事なのか? なんか意味合いが違うように聞こえるんだが……」


「儂らの言っておる戦禍とは、人族同士の戦争とは違うのぉ。

 ……実は、人魔大戦で封印された魔王が2000年後の未来に復活すると、当時の予言者が言っておったのじゃ。

 その魔王が復活し、再び引き起こすであろう第二次人魔大戦。これを後世に伝えるべく、各種族の長が語り継ぐようにしておったのじゃが、途中でその伝承が途絶えてしまった種族もあるようじゃな」


「魔王……だと? そんなもんがこの世界に封印されてるってのか?」


「うむ。それは間違いない。なんせ儂もその戦いに赴いておったからのぉ。

 完全に消滅させることが叶わんかったから、儂らがその周囲の地形ごと封印したのじゃが、その封印が解けるのは2000年後という予測を立てた者がおる。それが預言者と言われておった人物じゃ」


「マジか。そうなると、最近の魔族の暗躍もきな臭さが増してくるな……まずは、イブルディア帝国侵攻を食い止めて、裏で皇帝を操っている魔族を何とかすれば、その魔王の封印とやらも詳しい事が分かるかもしれないな」


「ん。まずはイブルディア帝国の侵攻を何とかする」


「そうだな。話がかなり大きくなっているがまずは竜人族の里への侵攻を食い止める事を考えよう」


 話が一区切りついたため、その後はイブルディア帝国の侵攻に備え、体力と魔力の回復のため早めに休むこととなった。

 そして翌朝、全員が完全に魔力が回復したことを確認し、竜人族の里へ向けドレイクに乗って飛び立つのだった。

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