第68話 阿吽VSブライド②


 ブライドは上空で羽ばたきながらも、身体の変異が続いている。


(遅かったか……。あそこで仕留めるべきだった)


 その直後、ドレイクとキヌから同時に念話が入った。


≪兄貴、ナイトメアは捕獲しました。こっちはもう大丈夫っす!≫


≪阿吽……こっちもなんとか退けた。詳しい事情は後で話す≫


 そうか。みんなキッチリと俺の信頼に応えてくれた。

 安心と誇らしさで胸が熱くなる……。


≪よしっ! みんなありがとな! こっちは俺がなんとかする!≫


≪兄貴! 思いっきりやっちゃってください!≫


≪阿吽……好きなように暴れて≫


≪おう!!≫


 闘技場内を見渡すと、変異したブライドを見た観客が狼狽ろうばいし、混乱状態となっている。


『んなっ! なんということでしょうか! ブライド選手が悪魔のような姿に……。み、皆様! 危険ですので出口に殺到するのはおやめください! 周囲の人を押さないでください! 特殊結界により闘技場内は安全です!』


 そりゃ、アレを見たらそうなるよな……。今の状況をなんとかできるのは俺しか居なさそうだ。


 こんな時、爺ちゃんなら言うんだろうな。『覚悟を決めろ!』って。



「スゥッ…………全員聞けぇぇぇぇ!!!」



 騒然となっている会場内に俺の声が響き渡る。正直、自分でも驚くほどの声量だ。すると、一瞬にして喧騒が止み、皆がこちらに注目した。


「てめぇらのやることは……我先に逃げ出すことか? 目をつむって現実から逃げることか? 叫び声を上げ、神に祈ることなのか!? 全部違うだろ!!」


 出口に向かっていた観客の足が止まり、背を向けていたリングの方へと自然と身体が向いてくる。

 頭を抱え震えていた奴も、目を閉じていた奴も、涙を流していた奴も……全員が目を見開き、俺の言葉を聞いている。


「俺が全部なんとかしてやる! このクソ野郎をぶっ潰してな!! てめぇらがやるべきことは、ここから逃げ出すことよりも“もっと単純で簡単”だ!」


 闘技場に徐々にザワつきが戻ってくる。


「お前らは、幸運ラッキーだ。こんな場面、もう一生拝めねぇぞ? この状況を目に焼き付けろ! そして心を躍らせろ!!」


 徐々に観客が出口から戻ってくる。

 その目には確かに希望の光が宿っていた。


(あぁ……やっぱ爺ちゃんは、最高だ!)


「てめぇら全員っ!! バイブスぶち上げろぉぉぉ!!!!!」


――ワアアアァァアァァァァ!!!!


ここからはマイケル、お前の仕事だぜ?


『私は今! 奇跡を見ていますっ!

 そして、この歴史的な一瞬を見逃すまいとまばたきすらできません!!

 この男に、阿吽選手に会場の全員が引き付けられています!!

 公平な実況が信条の私ではありますが……今だけは許してほしい!!

 ……やっちまえ! 阿吽っ!!』

 

「任せとけやぁぁ!!」


 観客の歓声が爆発し、俺の名前を叫んでいる声が聞こえる。


(っしゃぁ! テンション上がってきたぁぁ!!)


「【雷鼓】、【疾風迅雷】!」


 身体に黒紫の雷がほとばしり暴れる。

 白鵺丸にも魔力を通し、強く地面を蹴って空中へ跳び上がった。


 ブライドの変異も完了しており、その身体からは禍々しいオーラが溢れていた。

 そして、その眼は今の俺のスピードをしっかりと捉えているのがわかる。


 俺とブライドは、ほぼ同速で武器を3度切り結ぶ。


 互いに間を空けたタイミングで雷玉を9つ発現させ、【空舞】を発動しそのまま突っ込み、左手で雷玉を細かく操作しながら避ける方向を誘導。

 そして右手に持った白鵺丸でブライドの手や足を切り裂いた。


 対するブライドはダメージを受けた直後にもかかわらず素早く斬り返し、俺も左腕を浅く切られ軽い火傷を負っている。

 痛みがほとんど感じないのは【痛覚耐性】の効果もあるが、上がりまくっているテンションの影響もあるだろう。

 俺は一度地面に着地し、【雷槍】を2発放つが、ブライドは魔剣で2つの雷槍を弾き飛ばすと、大きな翼をはためかせ地上に居る俺めがけて突っ込んできた。


(スピードもパワーもほぼ互角……となると、意表を突く必要がありそうだ)


 互いの武器がぶつかり合い、鍔迫つばぜり合いになる。


 周囲の空気が弾けたように爆風が闘技場内に吹き抜け、カチャカチャと互いの武器が擦れ合う音が響く。


 全力で押してくるブライドに対し俺はフッと力を抜き、白鵺丸をマジックバッグに収納するとブライドの懐に潜り込み、腹部に思いっきり左の拳を叩き込んだ。


「ゴハッ……!」


 “ドフッ”っという砂袋を殴ったような鈍い音とともに、ブライドの身体がくの字に曲がる。

 そして下りてきた頭を両手で掴み、あごに膝蹴りを打ち込んだ。


「【雷縛檻らいばくかん】【雷槍】」


「グガッ! ゴァァアアァ!!」


 雷属性の捕縛魔法で動きを封じ、雷槍を2発叩き込む。


 そして再びマジックバッグから白鵺丸を取り出し、エンチャントをして納刀状態のまま構える。


「これで、終いだ……」


 最高速の一歩で疾駆しっく、その勢いのまま白鵺丸を鞘から抜き、振り切る。



 横一閃に放った斬撃は、紫電しでんの如く音を置き去りにし……

 ブライドの腹部を深々と斬り裂いた。

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