第156話 幻影城第三階層


 続く幻影城3階層のフロア。

 迷宮内転移で移動すると、そこには見渡す限りの荒野が広がっていた。


「ん? まだ制作し始めたところかな?」


「阿吽様、ようこそいらっしゃいました」


「よぉ、シンク。相変わらずタイミングが良いな!」


「阿吽様のスケジュールを把握し、気配を察知するのはメイドにとって当然の義務でございます」


「お、おぅ……。ってか、これからフロアの環境制作していく感じか?」


「いえ。フロア自体はこれで完成でございます。あとは魔物を召喚するだけです」


 うーん? ドレイクやネルフィーとはまた違ったフロアを作る感じか……?

 にしても、ただの荒野にどんな魔物を召喚する予定なんだろうか? フロア制作にほとんどダンジョンポイントは使っていないとなると、相当量のポイントを余らせていることになるんだが……。


「ちなみに、どんな魔物を召喚予定なんだ?」


「Cランク以上のオーク種とミノタウロスやケンタウロスなど武具を扱う魔物を各100体以上ずつ、あとはオークエンペラーをボスとして召喚予定です」


「ひゃ……100体以上ずつ? このしかもボスはオークエンペラーって……」


「それを全て一か所から入口に向かって進軍させ、侵入者を圧殺いたします」


 ヤバい。ヤバすぎる……。

 “ダンジョンがどういうものか”っていう概念を完全にガン無視しやがった!


 要するに、オークキングの変異種であるSランク上位のオークエンペラーが率いる300体のA~Cランクの魔物の軍勢が、侵入者目掛けて一気に押し寄せるフロア。さらに荒野という隠れる場所が一切ないという徹底っぷり。

 しかも、シンクの事だ……恐らくだが、隊レベルのバランスや各指示系統までも考えて召喚する予定なんだろう……。


「それは、もうダンジョン攻略というより……」


「はい。スタンピード……もしくは戦争でございます」


 こ……こいつ、確信犯か!!

 1パーティー、4~5人の冒険者達が300体の魔物の軍隊を搔い潜って次の階層の魔法陣を探し当てる。しかも全ての指示系統はボスのオークエンペラーが行っており、そのボスを突破した先……このフロアの最奥が4階層への転移魔法陣。

 些細なミスでもしたならば、一瞬で圧殺されるほどの数の暴力が侵入者を襲う……。


「シンク、それはさすがに……」


「阿吽様。幻影城ダンジョンは、世界最難関のダンジョンでございます」


「あぁ、そうだな」


「わたくしはその3階層を任されているのです。そして、このフロアの先は残り3フロアしかありません」


「うん。まぁ……そうだな……」


「であれば、正直これでもぬるいくらいです。本来であればAランク以上のギガンテスを同数以上並べたい位なのですから」


「お……おぅ」


「なので、有事の際はチェリーとメアの人化を解除し、魔物として防衛機構に加えさせていただく所存でございます」


「はい……。はいぃぃ!?」


「正直なところ、このフロアはわたくしたち【黒の霹靂】であれば突破は可能です」


「ま、まぁ……かなり時間はかかるが不可能ではないな」


「今後、わたくし達を凌駕する敵が現れないとも限りません。であれば、最善を尽くすのは当然のことでございます」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 先日俺はみんなの前で宣言した。この幻影城を世界最難関のダンジョンにすると。それに、この幻影城ダンジョンは俺達【星覇】の最終防衛ライン、言わば“生命線”だ。今後の事を考えればサタナスなどの魔族や、他国の強者たちの侵入も考慮しなければならない。となれば、シンクの言う通り“やり過ぎ”という事はない。


「その通りだな。さすがシンクだ! よし、じゃあこのまま最善を尽くしてくれ。足らないポイントも今後ダンジョンポイントが貯まってきたら順次支給する。だから思う存分シンクが考える最難関のフロアを作ってほしい」


「ありがとうございます! 阿吽さまのご意向に沿えるよう全力を尽くしてまいります! つきましては、ひとつご相談があるのですが……」


「ん? なんだ?」


「メアとチェリーのレベルの底上げや進化を促すため、わたくしとネルフィーさんとで同行し、沈黙の遺跡の攻略をサポートさせていただきたいのです」


 ふむ……、確かにメアもチェリーも強くはなっているが、レベルはまだまだ40程度。今のうちにレベルを上げることでこのフロアだけでなく、星覇の底上げをしたいということか。

 俺もその二人はいずれダンジョン探索や周回でレベルを上げる必要があると思っていたが、このタイミングであればちょうど良いかもしれないな。


「分かった。ただ、おそらくあのダンジョンではシンクやネルフィーはそこまでレベルは上がらないだろうし、幻影城ダンジョンの制作も行ってほしい。だから、ある程度期限を決めて行くようにしてくれ。そうだな……1か月あれば足りるか?」


「はい。問題ありません」


「ってか、メアとチェリーは?」


「すみません。せっかく阿吽様が訪問してくださっているのに……。二人には後からしっかりと指導させていただきます」


「いや、そんなことしなくていいから! んで、どこに居るんだ?」


「このフロアで阿吽様から頂いた装備を使って対人戦の訓練を行っているはずです。すぐに呼んでまいります」


 沈黙の遺跡を攻略後、メアには【魔鋼糸まこうし】という目に見えない程の極細の鋼糸に魔力を通し操る武器を、チェリーには【バレットナックル】という鋼拳という種類の武器を渡してある。ちなみに両方レアリティーは赤だ。

 特に魔鋼糸という武器は、扱いが難しく使いこなすには相当な練習が必要になりそうなもの。ただ、元々器用だったのかメアはこの武器を最初から他者以上に使うことができていた。今後極めていけばオリジナルの戦闘方法を確立できるポテンシャルを秘めている。


 そんなことを考えていると目の前にシンク、メア、チェリーの3人が転移してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る