第157話 メアVSチェリー


「阿吽様、馬鹿者二人を連れてきました」


「やっほー! 阿吽様おひさしぶりー!!」


「おう! チェリーは相変わらず元気が良いな!」


「……おひさし……ぶりです」


「メアも元気にしてたか? そういえば、渡した武器はどうだ? 使いこなせそうか?」


「は、い……。だいぶ、思った通り動かせるように、なりました。」


「そうか! んなら、せっかくだしちょっと二人で模擬戦をしてくれ。おまえらの実力が見てみたい」


 俺の言葉に対する二人の反応は対極だった。

 静かに口角を上げ不敵に笑うメアと、額に汗を滲ませて苦笑いするチェリー。この様子からすると二人の実力としてはメアが優勢といったところなのだろう。


「悪く、思わないでね……チェリー」


「むぅー! 簡単に勝てるとか思ってるでしょ! なら私も本気で行くよ!? 阿吽様に良いところ見せたいのはメアだけじゃないんだからね!!」


 そうしてお互い一定の距離を離すと、向き合い武器を構えた。

 両手にバレットナックルを装備してファイティングポーズをとるチェリーに対し、両腕をダラリと脱力させるメア。


「はじめっ!!」


 シンクの号令に反応し先に動いたのはチェリーだ。スピードを活かして一気に距離を詰め仕留め切る作戦なのだろう。

 それに対し、メアは慌てず両手を胸の前で交差させる。


「その技はもう知ってるよぉ!」


 その直後、チェリーが進行角度を変え、身体2つ分横へステップを挟む。すると、さっきまでチェリーが居た位置の地面が急にえぐれた。

 

「マジか……魔鋼糸ってここまで火力が出るモンだったんだな」


 思わず考えた事を口にすると、シンクが俺の感嘆に対し解説をしてくれる。


「最初は操るだけで精一杯でしたが、最近になってコツを掴んだようで攻撃力も操作技術も急激に向上いたしました。阿吽様のように武器へ魔力を流し、魔力操作と指の操作で複雑な糸の操作をしているようです」


「それ、指に装着した10本の糸全部に魔力流して操作してるのか!? どんな器用さしてんだよ……」


 俺なら一瞬で糸が絡まる未来が見える。それに俺のように武器に流す魔力が一定という事はないだろう。今見ている攻撃も緩急をつけて鞭のようにしならせたり、針のように刺したり、束にして殴打したりと様々な攻撃パターンを繰り出している。

 だが、それを紙一重で避け反撃の隙を伺っているチェリーも、俺と初めて戦った時とは別人のように成長している。単純にパワーで押し通すような戦法ではなく、最小動作で相手の攻撃を躱し反撃。まだまだ拙いがシンクのカウンターのような動きも見て取れる。それは一朝一夕で身に付く技術ではないし、努力したとしても身に付けることができるのはセンスある一部の者だけだろう。見たところ、チェリーは非常に目が良い。これも一種の才能というやつなんだろうな。


「ッシ! 隙みーっけ!! 【ボイリングブラッド沸き立つ血液】!」


 両の手を上から下に振り下ろしたメアの攻撃モーションの隙を見つけ、その攻撃を紙一重で避けたチェリーは何かのスキルを発動すると全身からスカーレッドに輝くオーラを噴出させる。そして今までの比ではない速度でメアの背後を取ると、腰を軸に上半身を回転させながら右の拳を叩きつけた。


 その攻撃力は凄まじく、風圧で砂埃が十数メートル立ち上る程。今の打撃をまともに食らっていれば、勝負はチェリーの勝利である。

 ……そう、食らっていれば・・・・・・・


「あまい、よ。チェリー……」


「ちょ、えっ! 待ってー!! 下ろしてよぉー!!」


 砂埃が落ち着くと、そこには鋼糸で雁字搦がんじがらめになりはりつけにされているチェリーと、数メートル先からその糸を操作するメアが立っていた。


 数秒前。俺の目が捉えたのは、攻撃をされる直前に【影移動】で打撃を回避しつつ、あらかじめ自身の真下に隠してあった鋼糸の罠を発動し移動先から操ってみせたメアだった。

 コイツ、この戦闘中に一体どれだけのタスクを同時にこなしていたんだ……? それをあのスピード感の中平然とやってのけた。これは、レベルを上げれば間違いなく強くなるな。


 チェリーに関しても負けてはしまったが、近接戦闘に関するセンスは目を見張るものがあった。そもそも、元々Sランクの魔獣であるメアに対し、チェリーはBランク上位の魔物だ。ステータスに関してもある程度差が出るのは当然。それでもここまで食い下がり、あまつさえ勝利を手にしかけた。レベルが上がり進化をしたら、相当な化物になるポテンシャルを秘めているのは明白だ。

 シンクがこの二人を高く評価し、目をかけているのも納得だな。


「どうでしょうか、阿吽様。まだまだ粗削りですが、素材は悪くないと思うのですが」


「だな。シンクが二人のレベル上げを優先しようとするのが理解できたよ」


「恐縮でございます。阿吽様に成長した二人をお見せできるよう、全力で育て上げます」


「頼んだ。楽しみにしてるぞ」


 そう言ってフロアを後にしようとしたが、ふと二人のステータスを見たことが無いのに気が付いた。


(せっかくだし……一回確認させてもらっとくか)

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