第34話 プレンヌヴェルトダンジョン開放
俺とキヌが伯爵邸に到着すると、門前で執事が待っており応接室へと案内された。
しばらくすると、領主と思われる男性が部屋へと入ってきた。
「やぁ。私はレクリアの領主、ヘルバン・ステッドリウスだ。どうぞ掛けてくれたまえ」
「私たちは【黒の霹靂】の阿吽とキヌです。失礼します」
そう言って促されたソファーへと腰かけた。
ステッドリウス伯爵は30代前半で細身の体形、貴族らしい豪華な衣服に身を包んではいるものの優しそうな雰囲気を
「急に呼び出してすまない。命がけで今回のドラゴン騒ぎを収めてくれた事に関して、どうしても礼が言いたくてね。本当にありがとう」
「いえ、ギルドマスターからの指名依頼でしたし、レクリアの住民にも日頃から良くしていただいておりますので、冒険者として命をかけるのは当然の事です」
「フフッ、謙遜しなくても良いよ。元々は旅人だと聞いていたが、礼節も
貴族としては珍しく、亜人や獣人に対して嫌悪感を見せず対応してくれているのにも好感を覚えた。その後は雑談を少し行ったが、報酬は改めて渡すということになり、俺たちはフォレノワールに帰還した。
◇ ◇ ◇ ◇
「阿吽様、キヌ様お帰りなさいませ」 「兄貴達! おかえりなさいっす!」
「おう、ただいま。ドレイクへの説明は終わったのか?」
「はい。全てお伝えさせていただきました」
「兄貴達は色々すげぇって事が分かったっす。あと俺が想像もしなかった苦労も……マジ尊敬っす!」
「偶然も多かったけどな。今の環境は恵まれてると思う。
さて、俺はアルス達に話があるから行ってくるけど、お前らはどうする?」
「ん。阿吽に付いてく」
「俺はレクリアの街で冒険者登録をして、クエストをやってくるっす。できるだけ迷惑かけた分を返したいんで!」
「わたくしもドレイクに付き添って参ります」
「おう、んじゃ1週間は自由行動だな。何かあったら念話で連絡を入れるようにする」
「分かりました」 「了解っす!」
その後アルスとイルス、バルバルを念話で呼び、5人でダンジョンの運営について話し合った。
決定事項としては、今晩獣人村の住人が寝静まったタイミングでダンジョンの入口を出現させる事と、明日の早朝から住人がパニックにならないようにバルバルや俺がコントロールする事。
そして明日の朝にドレイクとシンクからレクリアの冒険者ギルドへダンジョン発見の報告を入れる事だ。
もしダンジョンに詳しい人物が居たとしても、ニャハル村近くのダンジョンが消滅した事で、新たにダンジョンが出現したと見せかけるタイミングとしては問題ないだろう。
ダンジョンの構想としては、最初は浅層にレアリティ青の武器や防具を数個作成しておき、冒険者の動員率を上げる。
ただ、このダンジョンは攻略をさせる気はない。
俺とイルスでさらに階層を増やし、今後入ってくるダンジョンポイントで10階層以上の難易度をより難しくしていく予定だ。未踏のダンジョンというのはそれだけで人間を引き付ける魅力がある。
できるだけ人を集め、プレンヌヴェルトに冒険者ギルドや武器・防具屋、雑貨屋、酒場まで出店してもらえれば、更に人が増えダンジョンポイントも潤沢となっていくだろう。
冒険者ギルドの支部については、機を見計らってスパルズに打診してみるつもりだ。
「こんなもんかな。キヌとアルスはフォレノワールのクランハウスを整えてくれ」
「わかったのじゃ」 「ん。分かった」
「明日から忙しくなるけど、みんな楽しんでやっていこう。こんな経験ができるのは俺達くらいだろうからな。んじゃ、解散!」
そうして各自準備を行いつつ、静かに記念すべきダンジョン2階層の開放を行った。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、獣人村の宿屋から外に出ると思った通りのパニックになっていた。
「阿吽様ぁ! ダ……ダンジョンが! 村の真ん中に出現してしまいました!!」
「もうダメだ。なんて運がないんだ……また避難しなければならないなんて……」
「せっかく安全な村ができたと思ったのに……」
「阿吽様、すぐにダンジョンを攻略し破壊してください! お願いします!」
バルバルが必死に住民の対応をしているが、混乱が収まりきっていない。
まぁ俺が出るしかないな。とりあえず獣人たちを集めて話をしよう。
俺が集まるように促すと、すぐにバルバルが動き10分ほどで村の住民が集まった。
さて、なんとか言いくるめなきゃな。
「まず、みんな落ち着いて聞いてほしい。ここにダンジョンができたってのは、不幸な事なんかじゃない。逆に幸運な事だと俺は思う!
俺とキヌは、この世界を旅して回ってきたが、隣の国では巨大なダンジョンが街の中心にあっても、その国で一番賑わっている街が存在しているんだ。
その理由としては、定期的にダンジョンの魔物を間引けばスタンピードは起こらないとされている事と、ダンジョンからは希少な品物が獲得できるからだ。
前回のスタンピード以降はダンジョンが発見された場合、冒険者が定期的に間引きをする手筈にもなっているし、安全性をより高めるために冒険者ギルド掛け合って支部を作ってもらうように要請もする。だから、この村は安全だと思ってほしい」
「ほ、本当に安全なのでしょうか……またスタンピードが起こらないとは、言い切れないですよね?」
「まぁな。ただ、スタンピードには前兆が必ずある。そうならないように俺たちも定期的にダンジョンに潜って対策は行う。安全面は俺たち冒険者が必ず担保するから安心してくれ。
あと、幸運だと言ったのは、人がこの村に集まりやすくなるからだ。
先んじてこの村で宿屋や商売を始めれば、大きな財産を手に入れることもできるし、みんなで協力すれば村を大きくする事もできる。いずれ街となるレベルにまで大きくなれば、もっと住みやすく楽しい場所になると思う。どうだろうか?」
ここでバルバルが手を上げた。
「皆さん聞いてください。私は阿吽さんの意見に賛成です。今まで獣人は、どこの街からもあまり歓迎はされない存在でした。
王都に至っては未だに獣人差別が普通にありますし、一部では奴隷とされている者も居る状態です。
でもこの村が大きくなって、それが獣人の力で大きくなったと知られれば、もっと住みやすい世界になると思うんです。
……それに、楽しそうじゃないですか? 私たちの力で街を作るんですよ? 私は阿吽さんの話を聞いてワクワクが止まりません。みなさんはどうですか?」
盛大なマッチポンプではあるが、バルバルの一言で獣人たちの表情が変化してきた。
「お……俺も、やるぞ! 金持ちになるんだ!」
「そうだな! 俺たちで街を作ろう!」
「私、昔から裁縫が得意で、服屋をやりたいって夢もあったの!」
「私もよ! 料理をみんなに食べてもらいたい。酒場をやってみたいわ!」
こうなるともう流れは止まらない。
最初は反対していた獣人もみんな目をキラキラさせている。これで一番心配していた事が解決しそうだ。
あとはバルバルに任せておけば問題ないだろう。
さて、次の仕掛けに進むとするか!
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