第216話 ゾンビ先輩の大冒険⑦

 

~ホットな元ゾンビ視点~


――ドガーーーン!


(っ! 何が起きたんや!?)


 背中に強い衝撃を受けたワイは、気が付くと広間の土壁に叩きつけられとった。咄嗟に身をかがめて受け身は取れたんやけど、それでもHPは3割くらい減っとる。ってことはワイに対してまともにダメージを与える事ができる敵が現れたっちゅうことや。それに、油断したとはいえ全く気付かんかった……。


 それにしても、背後からいきなり攻撃してくるなんてマジでええ根性してはるわ。奴さんがどないなツラしとるかしっかり見たらんとな!! 


 立ち上がった土煙が晴れてくると、ワイを攻撃したヤツの姿が徐々に明らかになってきた。

 大きさだけで言えば女王蟻の半分もない身体つき。ただそこいらの蟻んこと明らかに違うのは刺々しいフォルムと光沢感のあるツルっとしたメタリックな体表、そして全長の半分を占める程の鎌のような大顎や。

 暗がりで色までは分からんけど、何かの鉱石でできてるんやないかって印象を受ける。


 相手は明らかにワイに対して敵意をむき出しにしとる。こういうんは最初が肝心やからな! とりあえずメンチ切ったろ!!


(んだコラァ! エエ度胸しとるやないか! ワイはゾンビ出身やでぇ! 舐めとんなよオラァ!)


 鋭い眼光で……いうても目はないんやけどな? オラついてガン飛ばしてると、何故か脳裏に相手の情報が流れてきた。


<ステータス>

【種族】キングクリムゾンアント

【状態】憤怒

【属性】土


 うん? なんやこれ? 断片的やけど相手の情報が分かる……あっ! これワイのスキルか!!


【スキル】

 ・骸暗がいあん眼:その眼に光はない。だが、その眼はあらゆるものを見通す力を持つ。


 いや、スキルの説明分っかりにくっ!! クレーム入れたろか! 苦情担当窓口知らんけど!!


 と、それは置いといて……コイツがこの辺一帯の蟻の大量発生の原因か? 種族はキングクリムゾンアント?? なんやそれ? 今までの蟻んこと何が違うん?



【種族】キングクリムゾンアント

 女王蟻を頂点とする群れを形成するアーミーアント種の中で、極稀に誕生する特殊な個体。

 キングの名を冠する個体が出現した群れは巨大化し、周囲の獲物を食らい尽くす厄災と化す。



 ……【骸暗がいあん眼】、めっちゃ有能スキルやったやん。クレーム入れる言うてすんません。


 って、そんな事はええねん! 今はコイツに集中せんとな!

 【八熱地獄はちねつじごく】と【銘肌鏤骨めいきるこつ】は発動したままや。それでもこんだけ体力削られたってことは、コイツはこれまでの蟻んことは明らかに格が違うって事になる。用心しとかんとなぁ……っとぉ!?


 集中し直して相手を見とったのが幸いした。

 王蟻キングクリムゾンアントが予備動作無しに突然とんでもない速度で突進してきたけど、炎月矛の柄の部分でそれを何とか防御する。対応できたけど、ホンマにギリやった。


 ギチギチと顎を鳴らし食らいついてこようとする王蟻キングクリムゾンアントやったが、パワーでは勝てんと分かると一度距離を取り再び凄まじい速度で突進をしてくる。見たところ、攻撃力と速度に特化したステータスをしてそうや。それにあの硬そうな外骨格を見る限りでは防御力もそれなりにあるんやろな。


 さて、ここから反撃……って思った瞬間、王蟻は再びワイから距離を取り、今度は縦横無尽に広間を駆け回りだした。その速度はどんどん上がっていき、残像が幾本もの線のように見えるほど。そしてフェイントを織り交ぜながら鋭い顎で斬り付けるような攻撃を織り交ぜてきよる。


(コイツっ……ずっと俺のターンってか!?)


 スキルで強化し、全身に纏った鎧のお陰でダメージは耐えられるレベルやけど、このまま攻撃され続けたら流石にヤバい。

 ……んでも、このヒリついた感じ……悪くないなっ!!

 やっぱ雑魚ばっかり狩っとっても楽しない。こういうギリギリの戦いに勝ってこそ“男が上がる”ってモンやでっ!!


 何故か意味不明にテンションだけが上がってく。でもこのままじゃジリ貧や。何かしら打開策を考えなアカン。せやけど、炎月矛を振り回しても全く当たる気がせーへん。

 ……なら、ダメージ覚悟で一発逆転狙ってみたろか!!


 炎月矛をマジックバッグに入れ両手を自由にする。すると、好機と見た王蟻はワイに向かって突進し、首筋に噛みついてきた。その勢いは凄まじく、受け止めたワイの身体はどんどん後方へと押されていく。

 ……でもな、お前の噛みついてるトコはゴーレム君鎧で守られとんねん!! ゴーレム君の防御力舐めんなよ!!


 両手を王蟻のくびれた胴体に回してガッチリと組み、捕まえる。そして後方に倒れそうになる力をそのまま利用し、ブリッジして王蟻のでっかい頭を地面に叩きつけた。


(めっちゃ綺麗に決まったで!!)


 まさか王蟻もバックドロップされるなんて思っとらんかったやろ!

 てか頭が地面にめり込んどるな……これはチャンスや!


 逆さまになりながらも何とか逃げようと藻掻く王蟻を、後ろからガシっと羽交い絞めにする。

 ワイは火属性魔法のレベルが低く、どんな魔法が強いのかもイマイチわからん。……けど、自分が纏っとる炎の火力を上げる事くらい余裕で出来んねん!!


 自身ごと燃やす勢いで炎を吹き上がらせると、鷲掴みしとる部分の外骨格が徐々に溶けていく。王蟻も必死に悶え、暴れ、抵抗してくる。多少のダメージは食らってしまうけど、それでもワイは……この手を離さん!


 必死に抵抗してた6本の脚も次第にプルプルと痙攣しだし、『ギチチチチチチッ!!』と顎を震わせる音が空間に木霊こだまする。


(このまま燃やし尽くしたんでぇぇっ!!)


 暴れる王蟻を抑え込むためにフルパワーで抱え込んだ。すると徐々に外骨格が溶けていき、ズボっとワイの両手が王蟻の身体の中にめり込む。

 それと同時に王蟻は叫び声のような断末魔を上げ、せわしなく動いとった足がダラりと脱力した。


 か……勝ったんか? 何かまだ突然動き出しそうな気もするけど……。

 あ、せや! 【骸暗眼】!!



<ステータス>

【種族】キングクリムゾンアント

【状態】死亡



 っしぁあぁぁぁぁぁ!!!

 キング、取ったでぇぇぇーーー!!!!

 うおぉぉーーー!!!

 フォォォォーーー!!!!



 ……フゥ、落ち着いた。いやぁー、気持ちよかったわぁ。やっぱ同格以上の魔物とのケンカは勝利の味も格別やな!


 ん? おっ! レベルも上がっとる!! これでまた『ナイスガイなゾンビ先輩』に近付いたなっ!

 あっ、そういえば……あの阿吽って兄ちゃん達は今どこにおるんやろ?

 よう考えたら、あの兄ちゃん達がどこにおるかなんか全く知らんやん……。ってか、そもそもココってどこ??


 あー、そっか。

 すっかり忘れとったけど……ワイってずっと迷子やったわっ!!

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