第215話 ゾンビ先輩の大冒険⑥
~クールな元ゾンビ視点~
――バリバリ、ボリボリ……
――むしゃむしゃ
――ガリッ、ゴクンッ。ゲプッ……
ヤバい。これはちょっと予想しとらんかったわ……。
ワイの目の前では、進化したラヴァンが倒した蟻んこの群れを捕食しとる。
それはええんやけど、とんでもない大喰らいや。そりゃこの巨体ともなれば人間大の蟻んこなんてオヤツ程度の感覚なんやろうけど……三つの頭がバリボリと外骨格を嚙み砕きながら大量の蟻を胃袋に流し込んでいくのを見ると、今後の餌の確保が不安になるな。
「ギャルオ?」
「ギュイ……」
「キュルルルォ」
そんな事を考えとったら三つの頭がそれぞれ別の反応をした。
……え? まさか三つの頭全てに別の意思があるん? いやまぁ、頭が三つあれば脳みそも三つあるわけで、それぞれに意志があるのも分かるんや。ただ元々は頭が一つしかなかったから、元の意思に別の意思が増えたって事で…………あー! 訳分からんくなってきた!!
ってか胴体は一つなんやから誰が食っても腹は膨れるやろ!!
「ギャッギャイ!」
「「ギュオォォ……」」
真ん中の頭が両側の頭を叱っている構図や話してる内容からすると、真ん中の頭が元々のラヴァンの意思なんやろな。
それにしても進化ってホント不思議な事が起きるもんやな。まさかラヴァンが多頭のドラゴンになるなんて思ってもみんかったわ。というか、尾っぽが12本もあるんは何でなん? だって頭は3つよ? 計算合わんやん……。
うーん、まぁ小難しい事考えるのやめや! 新しい仲間が増えたって事でええな!
「「「グルルライ」」」
三頭とも同意してくれたな。ワイの考えてる事はちゃんと伝わってるみたいや。
よしっ! んなら目的やった水を飲みに……って、なんやあの下穴は?
「ギャイ、ギャイ!」
え? あの穴から蟻んこが大量に出てきてたん? ってことは巣穴か?
気になる。……めっちゃ気になる!
いや分かっとる。普通に考えたら目的やった水分補給はできるんやから巣穴なんか無視で問題ない。
入口のサイズを考えるとラヴァンは入れへんし、あの中に入るのならワイひとりでっちゅうことにもなる。
それに、巣穴があるならその奥には蟻んこの親玉が間違いなくおるっちゅうことや。あの大量に居った推定Cランクの蟻んこ親玉ともなれば、それがどんな魔物かも予測できん。正直リスクとリターンは嚙み合ってない。
……でもや! ワイが目指しとるんは何やった!? 己の中にある好奇心に逆らっとって何が『背中で語るナイスガイ』や!
リスク? リターン? そんなもんクソ食らえやろ! “未知”があるならそれ楽しむのがイイ男ってモンやで!
ってことでラヴァンはこの辺りで適当に待っとってや!
ワイは、この未知を……攻略する!!
◇ ◇ ◇ ◇
ラヴァンを残し、巣穴に入って数時間、ワイの背後には無数の蟻んこ
この巣穴は予想以上に広く入り組んでただけじゃなく、光を全く感じられへん暗黒と言ってもいい場所やった。ただ、ワイは
っと、話が逸れたわ。
そんなこんなで辿り着いた最深部。拓けた広間のような場所には、視界に収まらん程の大量の卵と1体の巨大な羽蟻がおった。恐らくコイツが女王蟻なんやろ。消化液が滴る口からはギチギチと不快な音を零し、羽を震わせ警告音を鳴らしている。
ここに辿り着くまでにコイツの配下をどんだけ殺してきたかなんて数えていない。奥に進むにつれて進化した個体もぎょうさん出てきたが全て屍に変えてきた。
今更威嚇されたところでワイのやる事なんて何も変わらん。コイツをぶちのめして自分の力を証明する、ただそんだけや!
炎月矛に魔力を通すと刃先から炎が吹き上がる。
そして、【
……戦う前から分ってしまった。コイツ、
それでもまだ生きる事を諦めとらんのは称賛に値するけども、すでにワイはこの女王蟻から興味は失せた。せめてもの情けや、一撃で仕留めたるわ。
地面を蹴ると女王蟻との距離が一瞬で縮まる。その勢いのまま炎月矛を振り上げ、身体を回転させながら刃先を胴体に叩き込む。
接敵してわずか数秒。女王蟻は身体を真っ二つにされ、呆気なくその生を終わらせた。
というか、その辺の蟻んこと何ら大差ないほどに歯ごたえがなかった。
ワイは……強くなり過ぎたんやろか。なんか言葉では言い表せん気持ちになってしまう。
(……まぁ、ええか。ラヴァンのところに戻ろ)
そう思って踵を返した瞬間、背中に強い衝撃を受けワイの身体は広間の土壁に叩きつけられた。
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