第221話 トカゲの冒険者

 

 情報共有を終えた翌朝、俺達はさっそく街の散策を行うことにした。まず初めに向かうのは冒険者ギルドだ。

 というのもここウィスロのダンジョンは冒険者ギルドが管理しており、入場するためには一度冒険者ギルドで申請を行う必要があるらしい。

 いにしえのダンジョンマスターが作成したと言われるここのダンジョンは、少し話を聞いただけでも他のダンジョンとは明確に違う点が多かった。それを知らず入場するのを避けるため、初級【蛇の塔】の入口では冒険者カードの提示が義務付けられているのだそうだ。事前にギルドへと申請していなければそこで弾かれるという寸法なのだろう。


 ネルフィーの案内で連れ立って冒険者ギルドへと到着し出入口の扉を開けると、活気あふれる光景が目に入ってきた。

 今は一日の中で一番賑わう時間帯であり、クエストボードの前には人だかりができている。これはどこのギルドでも変わらないらしい。ただその集団の中に亜人や獣人も普通に紛れているのはアルト王国とは違う光景だ。ふとカウンターへと目を向けると『ウィスロダンジョン入場申請』と書かれた看板が目に入る。

 そのまま足をそちらへと向け、受付の職員へと話しかけた。


「よ、ようこそウィスロの冒険者ギルドへ。本日はダンジョン攻略の申請でよろしいでしょうか?」


 心なしか受付嬢の表情が硬い。対応に慣れているはずの言葉にも緊張を帯びているように感じるが……気のせいか?


「あぁ。俺達はアルト王国から来た【黒の霹靂】というパーティーだ。申請はすぐにできるのか?」


「はい! 帝都のギルドより通達が届いております! 申請してから登録まではおよそ半日で行えますので、本日の昼過ぎにもう一度ギルドに来ていただいて冒険者カードの更新と諸々の説明をさせて頂いた後に入場が可能となります!」


「ん、さすがルナ。仕事が速い」


「そうっすね! ってことは、クランとかの情報も共有されてるんっすか?」


「は、はい! アルト王国序列1位【星覇】の方々ですよね!」


 受付嬢の良く通る声がギルドに響き、連鎖的に冒険者達が反応する。


「ちょ、おい! アルト王国の星覇って言やぁ、帝都での魔族襲撃の鎮圧に動いたクランだろ!?」


「主力はSSダブルエスランクのパーティーって聞いたわ」


SSダブルエスって、ウィスロでも数パーティーしかいねぇぞ……」


「というか、噂通り全員が亜人で和国の装備を身につけているんだな……」


「ってことは、あの噂も本当なのか!?」


「だ、誰か話しかけて来いよ!」


「アホか! 俺はまだ死にたくねぇよ!」


「こりゃ、最近激しくなってるウィスロの上位クランの動きが益々活発になるぞ……」


「……荒れるだろうな」


 何か不穏な言葉がチラホラ聞こえるんだが……、いったいどんな噂が流れてるんだ?

 気にはなるが、何となく聞きにくい雰囲気が流れている。


「受付のおねぇさん! 俺達の噂ってなんなんっすか?」


「いやぁー、その……」


「めっちゃ気になるじゃないっすか! そんな言いにくいような噂が流れてるんっすか!?」


 さすがドレイク!! 聞きにくい事をサラッと聞いた! その自然な雰囲気と流れるようなタイミングはコミュ力にステ振りしてあるのかと思うほどだ。


「あの……イブルディアがアルト王国へ侵攻した際、たった2人で1000人近くの兵士を血祭りに上げたって……。い、いえ! あくまで噂なんで! さすがにそんなことないのは分かりますから!!」


「あー、アハハハ……あの時の事が噂になっちゃってるんっすか……」


「え? ま、まさか本当に……?」


「ん。正確には2人で2000人以上ブチコロがしてた」


「えぇぇ!!?? 2000人!?」


 あのー、キヌさん……? それは火に火薬をぶち込むセリフですが……


「私たちの事は、ここでちゃんと伝えといた方が良い」


「そうでございますね。有象無象に話しかけられたり、面倒事に巻き込まれるのは面倒でございます」


「いやまぁ、そうなんだけど……。周囲の怯える目がさらに酷くなった気がするぞ」


「ま、まぁ申請も済みましたし、ダンジョンに入れるようになるまで市場でも見に行かないっすか?」


「良いですわね。街の散策にもなります」


「そうだな。私は武器屋を見に行きたい」


「ん。私も装飾品見たい」


「っし! んならこの後は街を見て回るかー!」


 そうしてギルドの入口まで歩いていくと、扉が勢いよく開かれ急いで入ってきた亜人が俺にぶつかって転がった。

 身体は小柄であり気弱な印象を受けるが、ギルドに入ってきたという事はコイツも冒険者かその関係者なのだろう。

 よく見ると爬虫類系の亜人のようで、所々皮膚が鱗になっており臀部からは尻尾しっぽが生えていた。というか、その尻尾が半分くらいの位置で千切れて地面でバタバタしている……。


「あわわわー! す、すみません!! ちょっと急いでいてっ! お怪我はないですか!?」


「おう。てかお前の方こそ……、尻尾大丈夫か?」


「あっ! ビックリしてまた尻尾切れちゃいました……。でも大丈夫です! 何日かしたらまた生えてきますから!」


「そんなすぐに生えてくるのか……すげぇな」


「はい! 僕、驚くとすぐ尻尾切れちゃうんです。っと、そういえば初めてお見掛けする方々ですね?」


「あぁ、俺達は昨日アルト王国からこの街に着いたばかりだ」


「ほえー、アルト王国からですかー! それは長旅でしたね! あ、申し遅れました、僕はキュルラリオと言います! Dランクの冒険者です!」


「俺は阿吽だ。何か急いでたけど大丈夫か?」


「あっ、そうでした! 早く換金して帰らなきゃ! みんながご飯を待ってるんですー! それではまたー!」


 な、なんか慌ただしい奴だったな。ってか、結局換金もせずにそのまま帰っちゃったし……。

 それにこの切れた尻尾、ギルドの入口でビクンビクンしてるけど……このまま放置でいいのか?

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