第22話 獣人族の避難


「ふぅ。ちょっと火力出しすぎたか?」


 周囲の魔物は死体すら残ってなかった。キヌは大丈夫だっただろうか。繋がりが分かるから無事ではありそうだが、ダンジョンに帰還転移したのかな?


≪キヌ、大丈夫だったか?≫


≪ん。効果範囲の外に出られたから大丈夫。アウン……凄かった≫


≪ちょっとやりすぎちまったかもしれん。地面抉れてるし……とりあえずニャハル村まで戻る≫


≪私は今ニャハル村の近く。待ってる≫


≪わかった。すぐ向かう≫


 キヌと合流しニャハル村に入るとバルバルと羊の獣人が近づいてきた。


「アウンさん! 凄い事になっていましたが、大丈夫でしたか!?」


「あぁ。大丈夫だ。魔物は全て殲滅した。それよりもどうなった?」


「全て殲滅……やはりあれはアウンさんの魔法だったのですね! 村の方はなんとか全員で避難することに決まりました。決め手はアウンさんのあの魔法です」


「そうか。ならさっそく出発してくれ。猶予は数日しかない。あと、そちらの方は?」


 羊の獣人がバルバルの横で深々と頭を下げている。


「アウン様、儂はこの村の村長をしております、メルメルと申す者でございます。この度は獣人族を救ってくださり、ありがとうございました」


「礼ならバルバルに言え、バルバルが必死に助けようとしていたから手伝っただけだ」


「アウン……照れてる」


「そんなことよりもだ! これからの話をするぞ!」


「はい!」


 その後、獣人族が集まっている広場へ行き、バルバルとメルメルの指示のもとプレンヌヴェルトへ向かって移動することになった。


 バルバル曰く、数人は村に残ると聞かなかったそうなのだが、雷の極大魔法(技巧)を見て、避難する事に決めたらしい。

 そう思えばやりすぎではなかったようだ。

 でっかいクレーター作っちゃったけど……


 そしてその魔法は俺がやったと分かると獣人たちから「雷神の遣いだ」と崇拝されだした。

 もちろん止めさせたが俺とキヌを「アウン様、キヌ様」と呼ぶのはやめてもらえない。


 獣人は総勢50人、老人や子供もいるが、動けない者は居ないらしい。避難を開始すると、思ったよりも移動速度は速い。獣人は身体能力が高いようだ。

 老人や子供は荷車に乗せ、戦士たちが護衛しながら順調に避難は行えている。


 村長のメルメルとも話をしたが、今後はプレンヌヴェルトで新しい獣人村を作っていくことに決まったそうだ。


≪イルス、家屋はできているか?≫


≪できているでござる! もう一階層部分の平原への露出を行っても良いでござるか?≫


≪そうだな。あと1時間ほどで到着しそうだから、そろそろやっておいてくれ≫


≪分かったでござる≫


 イルスに確認を取ると、受け入れ準備も整っているようだ。さて、これからどうするべきかを決めないとな。

 スタンピードは一時的に止める事はできたが、解決はしていない。

 おおまかな計画はあるのだが……その前にバルバルと話をしなければならない。


「バルバル、ちょっといいか?」


「なんですか? アウンさん」


「移動しながらでいいが、少し離れた所で話したい。誰にも聞かれたくない話なんだ」


「わかりました。それでは索敵と先導するように少し前を歩きましょう」


 俺とバルバルは二人で集団の前方へ少し離れた。キヌには集団の先頭でスピードをコントロールしてもらっている。


「それで話ってなんですか?」


「実はさ、バルバルも俺たちの仲間にならないかと思ってな。俺の秘密を打ち明けているし、何より俺達はお前を気に入ってる。これからの計画に協力してほしいんだ」


「仲間に……私がですか? いいんですか!? 私は戦えませんよ?」


「俺がバルバルに求めているのは強さじゃないんだよ。バルバルにしかできない役割がたくさんある。どうだ?」


「それはもちろん! アウンさんたちには返しきれないほどの恩がありますし、私もお二人の事が好きですから、仲間に入れてもらえるなら是非お願いしたいです!」


「良かった。それと従属契約ってのをしてもいいか? 契約と言ってもできる事は多くなるが、バルバルを縛り付けるものじゃない」


「分かりました。それもアウンさんの秘密なんですよね? 仲間にしていただけるならなんでもやります!」


 俺とバルバルが握手をするとバルバルとも繋がりができたのが分かる。


「よし、完了だな」


「わぁぁ。何か不思議な感覚があります」


「これでバルバルも俺たちの仲間だ。改めてよろしくな」


「はい! よろしくお願いいたします!」


 その後、バルバルにダンジョンの機能やアルスとイルスの事、念話や転移などの行えるようになった事、俺たちの目標などを説明し終えた頃にプレンヌヴェルトに到着した。

 到着してからは、獣人たちには夜になるまで荷下ろしや家決めなどを行なってもらっている。

 家を10棟建てておいてもらって良かった。人数的にはちょうど入りそうだ。

 柵や防壁はないため、昼夜問わず戦士たちが順番に見張り当番を行う事になるのはなんとかしないといけないな。

 第2の獣人村の名前は、俺に決めてくれとメルメルに言われたので『プレンヌヴェルト』そのままにしておいた。

 とりあえず、獣人村の方はしばらく獣人たちに任せておいて大丈夫だろう。


 こうして新たに1人の仲間と50人の移民を獲得したのだった。

 しかし、まだやらなければならない事がある。スタンピードの解決だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る